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播磨陰陽師の独り言・第409「はじめてのファミコン」〈前〉

 はじめて造ったファミコンは『グレートタンク』でした。このゲームを開発したのは特別な理由がありました。当初、企画担当だった人が、途中で仕事から逃げてしまったからです。もちろん、会社は困りました。締め切りまであと数ヶ月しかありませんでした。もう、一年近くも制作して来て、そんな逃げ方はないでしょう。
 ある夜、会社から緊急の呼び出しがあり、
「夜十時過ぎに緊急会議」
 とのこと。
 あの頃、夜の会議は珍しくありませんでした。深夜二時に呼び出されたこともあります。それほどブラックだったのですが、皆、喜んで働いていました。
 耐えられない人はどこにもいるもので、普通に逃げる社員など、たくさんいました。
 今にして思えば、
——あの時、逃げなくて良かった。
 と、つくづく感じます。
 若い頃の無理が祟って、今では病院通いの日々ですが、それでも頑張った甲斐がありました。あの時、逃げていたら、今よりもっと悲惨な暮らしをしていたと思います。逃げた人の近況を知るたびに、そう思いました。
 さて、緊急会議の内容は、
——作りかけのファミコンゲームをいかにして完成させるか……。
 と言う表向きで、
「何でも良いから売り物になるようにしろ」
 との会社からの命令でした。
「期間は短いが、スタッフは誰を使っても良い」
 とも言われました。他の仕事がすべて止まっても、最優先の仕事となるそうで、社運をかけてのお仕事でした。
 私は仲の良かったスタッフを選び、プログラマーのK氏に、
「短い期間しかないんやけど、この仕事、やってみない?」
 と問いました。
 すると、K氏は少し考えて、
「サスケvsコマンダーを入れさせてくれたら、作っても良いよ」
 と答えてくれました。
 そして、そのまま、開発開始。
 普通なら一年くらいかかる開発期間は、最初から一ヶ月くらいしかありませんでした。人は、やればやれるもので、何と、その短い期間で開発を終了したのでした。後編へ続く。

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