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播磨陰陽師の独り言・第百七十二話「さとり世代」

 世の中は〈ゆとり世代〉を超え、〈さとり世代〉と言われて久しく時が経ちます。
 しかし、あまり〈さとり世代〉の人を目撃することはありませんでした。
 それが大阪の病院でのことです。回診に来た先生が必要な機材のことを看護師さんに尋ねると、
「ありません」
 と言ったのです。
 すると少し上の看護師さんが、
「自分が作るんやでぇ」
「えっ、あたしがですか?」
 と言った瞬間、先生が、
「ゆとりか?」
 と言いました。
 すると、少し偉い看護師さんが、
「いや、さとり世代やな。自分が何もでけへんことを知って、悟っとる世代や」
 と言いました。
 すると本人は、
「えへへ」
 と笑ったので、
「笑いこっちゃない」
 と、かえって笑われてしまいました。
 まぁ、あんまり問題のない機材でしたので、笑って済んでしまいましたが、他の看護師さんの中には笑いごとでは済まないような出来事も含まれています。
 自己防衛のために、薬の量やら処置の手順やらを把握しているので、看護師さんによっては、
「引き継ぎよりも詳しい」
 と言って、処置方法の変更内容を尋ねてくれます。普通に受け答えしていると、ここが大阪らしい大阪であることを忘れて話してしまいます。
 そんな時は、看護師長さんに注意されたりします。
 何を注意されるのかと申しますと、
「そこは、ボケてんやから、つっこまな」
 とか、
「そこはボケるところやで」
 とか言われてしまうのです。
 そんな時、
——あぁ、ここは、もっとも大阪らしい大阪やったな。
 と心の中で思うのでした。
 しかし、そう言うキャラではないので、なかなかボケたりつっこんだりはでけへんのやけど……。
 時々、新人の看護師さんが、
「ここの先生、おもろいから、若い時はモテたやろうなぁ。えぇなぁ、おもろくて」
 と、つぶやきます。
 この土地は、面白いかどうかで人物を判断しかねない妙な土地です。ここにいると退屈はしませんが……。

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