佐藤雅彦氏の作品に感性ジャックされている

そろそろこの謎感覚を自分の中で整理したい。ので書きます。

Twitterで見つけたクラウドファンディングプロジェクト。
佐藤雅彦研究室/表現手法の探求 短編映画群 "filmlet C” 製作

コルク佐渡島氏のツイートで見つけ、心底感謝した。
心底感謝しすぎて、「FF外から」暑苦しい感謝リプライを送った。
こんなに長く一方的に影響を受け続けてきたのだ、少しでも返せる機会を逃したらどんなに後悔しただろう。無事、3万円をファンディング。嬉しくてたまらない。

佐藤雅彦氏に直接お会いしたことはない。
でも、何だか我が家全体がお世話になりまくってる気がするのだ。それはもう、恐ろしいほど強くて恐ろしいほど一方的な確信である。

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私の「佐藤雅彦作品最初の記憶」は、おそらく「だんご三兄弟」。発表年は1999年、私は7歳だったことになる。幼少期の記憶が人より少ない私の記憶に、この曲はくっきりと残っている。

当時、目黒の碑文谷に住んでいた私は「おかあさんといっしょ」で流れていた「だんご三兄弟」がいたく気に入ったらしく、学校が終わり夕方になると、その再放送時間である4時半ごろに間に合うよう慌てて帰ってきていた。

串にささってだんご(だんご)
3つならんでだんご(だんご)
しょうゆぬられてだんご(だんご)
だんご三兄弟

家に着き、当時は3チャンネルだった教育テレビにかじりつき、曲が流れたらノリノリで歌っていた。

子ども向けの歌にしては全体を通してマイナーコードで、どこか暗く不穏な響きも持っている。「およげ、たいやきくん」も海を泳ぐところだけはメジャーコードだが、この「だんご三兄弟」も花見と月見以外はやはり暗い。

その若干の童謡らしからぬ不穏さが私の心を刺激したのか否かは、もはや知る由もないが、とにかく、その曲を小学校低学年の私は大変気に入っていたこと、それを母も一緒に聴いていたことが一つ目の記憶である。

「だんご三兄弟」の作詞・プロデュースは当時CMプランナーだった佐藤雅彦氏が手がけた。

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ゲームメーカーに勤めている叔父のおかげで、私の家にはいつも最新式のPlaystationがあった。ゲームソフトも豊富で、「クラッシュバンディクー」や「ぼくのなつやすみ」など、有名どころのゲームでよく遊んでいた。

その中で一つ、大変に異質なゲームがあった。「I.Q(Intelligent Qube)」である。

真っ暗な世界に浮かぶ直方体の世界、最低音に近いピアノ音で始まるステージ、プレイヤーが走るかつかつとした足音。迫り来る立方体、それに潰されるたびに出る「あぁっ…」という高くも低くもつかぬ男性の声、緊張感が張り詰めた音楽。

小学生の私にとって、この世界観はなかなか怖くて不気味なものだった。一方で、どうも気になって仕方がなく、プレイしていて止まらなくなる強い引力を感じていたこともまた事実である。

気づかれていると思うが、これも佐藤雅彦氏の作品である。
そんなことは大学を卒業する頃に知った。

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大学の卒論で、私は「企業のブランドと音の関係性」について研究した。CMソング、サウンドロゴ、商品の音などが何となくずっと気になっていた。視覚的なデザイン以上に、音で受けるイメージがそのブランドを作っているような気がして、それを確かめたかったのだ。

今思い返すと安直なやり方だったが、とりあえず一般的な感覚を知りたくて、次のようなアンケートをとった。

「印象に残っているCMを3本教えてください。時代は問いません。その理由も教えてください。」

ある同級生の友人が、下記のような回答を送ってくれた。
・ポリンキー
・スコーンスコーンコイケヤスコーン
・はかたの塩!

これに関しては、驚く部分があまりにも多すぎるので箇条書きにする。

・回答者は一切広告の知識がない大学生であること
・15年以上も前に放送されていた佐藤雅彦氏によるCM作品が選ばれたこと(当時は、Softbankお父さん犬のCMを選ぶ回答者が多かった)
・私自身、このCMをよく覚えていたこと
・ポリンキー、スコーン、共に放送開始は1990-1991年。つまり私たちが生まれる前から放送されているCMであること
・つまり、物心がつく前の幼児期に見ていたCMであること
・CMにおいて音が重要だと感じていた私の印象に残っていたCMであること
・回答した友人は身体と音の関係性を研究していたこと(体育学習において音の存在が重要であるとして実験をしていた)
・佐藤雅彦氏自身が本CMを制作するにあたって持っていたルールは、「音は映像を規定する」

色々な要素が合わさりすぎてうまく説明ができないのだが、つまりは

「音」に対する明確に特別な意識を持つ大学生2人は、それを一切意識していなかった幼児期に佐藤雅彦氏のCM作品に触れていて、それが20年間にわたって記憶に残り続けていた。そして佐藤雅彦氏自身は「音」をCM制作の鍵として意図的に使っており、その狙いは物心がつく以前の幼児に対しても影響を与えていた。

血の気が引くような昇るような驚きが、伝わるだろうか。。。

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私の家は、長く単身赴任の家庭だった。小学校4年生から、大学3年までのちょうど10年間、父は名古屋に、母と私は東京で暮らしていた。

私が大学に入った頃、週末を東京で過ごすため家に帰ってきていたある金曜日、間も無く0時になるというタイミングで父親がチャンネルを変えた。

NHKのEテレが映し出されて母が言った、「パパは最近これが気に入ってるらしいよ。『2355』っていって、結構かわいいの。」

23時55分からたった5分間の番組。かわいらしいミニコーナーの詰め合わせのような番組で、トビハゼのトビーちゃんや、真心ブラザーズが歌う「今夜のおやすみソング」が自然とこちらを眠りに誘い込んでくる。

「2355が、明日がくるのをおしらせします。」ああ、明日が来ちゃったなあ。大人になってすっかり意識をしなくなった日付の境目を、優しく教えてくれるトーンがなんとも心地よく、単身生活を続ける父がこの番組に癒されているのもわかる気がした。というより、この番組に癒されていることから、口数が少ない父親の気持ちの片鱗を見たような気がした。

「2355」とセットになっている番組「0655」もあると父から聞いた母は、毎朝7時前になるとEテレにチャンネルを切り替えるようになった。「忘れもの撲滅体操」はあなたにぴったりね、毎日歌いなさい!と母に言われる大学生の私、情けない。

気づかれていると思うが、これも佐藤雅彦氏の作品である。
そんなことは大学を卒業する頃に知った。

もはや私だけじゃない、我が家全体が佐藤雅彦作品に支配されている…そんな気持ちになるわけである。

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私にとって佐藤雅彦氏は、素晴らしいCMプランナーだとかクリエイターだとか教授だとか、そういったものを大幅に超えちゃっているのである。生み出された表現で、なんだか自分の感覚を支配されてしまっているような気がするのである。

先日のクラウドファンディングの返礼講座は勇んで最前列で受講した。いつか一緒に仕事がしてみたい、という気持ちを一回打ち砕かれるくらい、なんだか圧倒されてしまった。でも、自分が好きだと思える表現について、そのルールとトーンについてどっぷり聞く180分は格別だった。

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