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「dele」は多分、日本の謎解きドラマをアップデートする

物凄く骨太で今ドキなドラマを見つけてしまった。

宣伝からして今ドキ。歌うのか映画なのかドラマなのか趣味なのか友達なのか、企画を一切明かさないままSNSアカウント「菅田山田」が立ち上がる。菅田も山田も大好きなので速攻フォローして追う。しばらくあって、新ドラマ企画と明かされる。謎めいた俳優のSNS先行でファンを囲う、期待値の持っていき方が秀逸。

「雑な感情表現を間に挟み、伏線回収とトリックだけを見せる量産型刑事モノ・医療モノドラマ」がはっきり言って全然好きじゃない。正反対の「ストーリー展開がはっきりしないまま、役者の会話劇を中心に心の動きが繊細に描かれる」坂元裕二・岡田惠和脚本作品が好きと言ったら非常に分かりやすい趣味と思っていただけるだろう。しかし今回。何だこれは、というのに当たってしまった。

謎解きは謎解きだが、テーマはデジタル遺品。まさに今ドキなテーマである。さらに主演二人も「今ドキ」。と聞いて理由は言えずとも何となく納得する方も多いのではないか。20代の俳優の中でも「最も旬」と言って間違いない菅田将暉は、ただ何となく「今が旬」だから「今ドキ」なわけじゃない。演技、バラエティ、インタビュー、CM、歌手活動など多様な接点で私達は菅田将暉に接触しているが、それぞれの接触を足し合わせる中で、曖昧ながらも彼の振る舞いに「現代の若者感」を如実に感じる、というのは割と共通認識なのではないかと思う。既に中堅俳優の年齢となる山田孝之は、その新しさを崩さない。彼のイメージがどこかで停滞している人がいるとすれば、それは単に「テレビを観ていない」だけだろう。もはや思い出せないレベルだが恐らく当初は「イケメン俳優」的な立ち位置から青春モノ主演勢として名を挙げ、コメディから社会的に重い作品を通り越し、「山田孝之のカンヌ映画祭」では夢と現実の間で監督業をやっている。そう言えば会社も作っていた気がする。気が付くと「何考えているかよく分からないが何か新しいことをしたそうな感じの人。飲み屋で会えば友達になれるらしい」という比類ないキャラクターとして芸能界に存在している。それは「若さ」そのものが一つの特徴となっている菅田将暉とはまた違った「今ドキ」であり、山田孝之の存在がアップデートされ続けた結果としての「今ドキ」である。

人が死ぬ。通知が来る。死に関連した謎を解き明かす。あまりにも典型的な謎解きドラマとも言えるのに、これほどまでにざらついた感触を残すのは何故だろう。一つはカメラワーク。対象物の質感をリアルに映し出すカメラワークが凄い。映画のような、という説明が酷く雑なのはよく分かっているのだが、ドラマに多いクリアでパキっとした映像とは全く違った空気感を画が生み出す。その映像はいつも何処かノスタルジックで、少し情報量が多い。それによって、「謎解きモノ」の割に台詞の無い瞬間が際立つドラマになっているように感じる。どこからか漏れ出す光、それだけで何かを語り得るような画。登場人物のざらついた感情を、ライトで飛ばさずにそのまま映し出すような画。

主演二人の細かな多面性がリアリティをもたらす。これもまた画とリンクするのだが、刑事モノ・医療モノにはクリアでパキっとしたキャラクター設定が多い。山田孝之演じる圭司は冷酷でクールで闇を秘め、菅田将暉演じる祐太郎は少し軽薄だが心優しい若者。二人のキャラクターはこんな風にきっぱりと色分けできそうなのだが、観ているうちにその色が実はかなり濁っていることが分かってくる。山田孝之のぞっとするような一言と、微妙に後ろ髪を残す人間味が同居する。菅田将暉の思いやりに溢れた姿に、こちらが知り得ない深みがちらつく。多分、これは二人の成長物語ではない。二人がお互いに影響を受けるとしても、別に生まれ変わったりしない。ただ発生した案件を通して二人の濁りがじわじわと浮き彫りになっていくのもまた、もう一つの謎解きのようにも感じるのだ。

何となく心のどこかを抉られるような読後感(視聴後感、というのがいまいちしっくりこないので)。小さい割にはずっしりと重たくて、意義ある石を身体に落としたような感覚になる。何がそれを生み出すのか説明できないが、とりあえずそれって結構凄いことではないか。きっと、確実に、「謎解きドラマ」がこの作品でアップデートされるだろう。その要素が何なのか、何故なのか、残りのストーリーをじっくりと味わいながら考察していきたい。



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