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引きこもり内田有紀の真っ直ぐすぎるキョンキョンへの恋心にかなりぐっときたが皆さんはどうか

2012年冬クール、フジテレビ「木曜劇場」枠で放送された「最後から二番目の恋」の話をしよう。

偶然にも今クール(2017年秋クール)のクドカン作品「監獄のお姫さま」でも屈託のないおばさん役を演じている小泉今日子だが、5年前からすでに45歳独身おばさんとしてその中年女性の魅力を最大限に発揮していた。

主演の小泉今日子はテレビドラマのプロデューサー。得意は恋愛ドラマ。設定からメタ的な要素を匂わせてくるが、最終回で「このドラマは小泉今日子がプロデューサーとして作ったドラマでした。ちゃんちゃん」とはならないからその点は是非安心して見ていただきたい。

大人になっても滑稽で恥ずかしくてどうしようもない、いやむしろ大人になったからこそますます酷い、恥ずかしい、そんな恋愛や恋愛に限らない人間関係を綿密に描いたドラマが「最後から二番目の恋」だ。ドラマ全体を通して描かれるのは日常のささいな言い合いやちょっとした心の揺れ、それを包み込む周囲のあたたかさ。最終話でさえも大きな事件は特に起こらず、明確に物語を収束させるでもなく、引き続き繰り広げられるこれからの日常を明るく匂わせる。

事件性の薄い日常を登場人物が歩んでいく一方で、よく見るといくつかのキャラクターには多少の非日常性が潜んでいる。

鎌倉の古民家に一人引っ越してきた小泉今日子の年下彼氏となる坂口憲二は、いつ死ぬか分からない病気を抱える。といっても、彼の体調の悪さを明確に示すようなシーンはドラマ内には一切出てこない。兄である中井貴一とのやりとりを通して、いつ爆発するかわからない爆弾を体に抱える不安と、未来を信じられない苦しさだけが、一切の重苦しさを排して浮き彫りになっていく。そして、いつ死ぬかわからないと覚悟する彼は様々な女性を幸せにする「天使」を務める。天使活動は、とにかく多くの女性を幸せにするための活動であって彼の恋愛ではない。天使活動にはセックスも含まれる。

無邪気に出てくる「俺、こないだまで天使やってたからさ、恋愛とかまだよくわかんないんだよね」という言葉は、あえて取り出すとかなりの異常性を伴うが、ドラマの中ではごく普通の日常会話として頻繁に使用される。本筋とはずれるが、まるで初めて恋を覚えた中学生男子のように小泉今日子との恋を楽しむさまを演じられる坂口憲二の演技力に感心する。「天使」「初恋」というワードから直接的に連想した安易なキャスティングであれば、いわゆる「塩顔男子」系の中性的な俳優を使っても良さそうなものだが、俳優の中でもかなりマッチョ性の高い坂口憲二をあえて持ってきたところに、ステレオタイプで進めるキャスティングを否定する姿勢が感じられ好感が持てる。

坂口憲二の双子の妹が内田有紀。この内田有紀のキャラクターが本ドラマの空気感のキーとなっているといっても過言ではないように思う。引きこもり30代女子、という字面で見るとなかなか重たいものを感じさせる役柄であるにも関わらず、取り巻く家族との関係性、そして新たな隣人、小泉今日子との関係性に暗さは一切なくむしろやわらかくあたたかい。全面的に彼女を肯定的に受け入れる周囲ももちろん重要だが、むしろ「この子結構、面白いのよ」とドラマ制作の職場まで彼女を連れ出してしまう小泉今日子に、こちらも共感する。この引きこもり女子がどうにも魅力的なのだ。

少し刺激的な状況となるとパニックに陥る、会話が大変に不自然、毛布のような服にずっとくるまっている、そんな引きこもり内田有紀はある日、双子の坂口憲二の彼女である小泉今日子に恋心を抱いていることに気がつく。初めての感覚に、果たして自分はレズビアンというものなのか、それを検証するためにこっそりと百合系DVDで自分を試す。実験のように自分を試してしまうその感覚も見ているこちらとしては何だか愛らしく、「色々と試してみましたが、千明(小泉今日子)が好きなのであって、そういうことではないということがわかりました」という台詞はただただ純粋な好意というものが何なのか、大人になった私たちに思い出させてくれる。

告白を決意した彼女は、小泉今日子の家で唐突に話を切り出す。告白のあと、「あ、そ、そんなのお嫌だと思いますし、嫌でしたら仕事の話ももなかったことで…」としどろもどろになる内田有紀に「なーに言ってんの、ありがとう、男に告白されるより、嬉しいかもしんないよ?」と男前に受け止める小泉今日子。思わぬ反応に、嬉しさの泣きだしたあげく「ではまた明日お願いします、(仕事)いっしょけんめい頑張ります」と一息で行って逃げ帰るさまはあまりに純粋で可愛らしく、それでいてこちらが忘れかけていた、ただただ単純な「好きです」を突きつけられたような、チクっとした愛おしい刺激を感じるシーンだった。

トランスジェンダー、LGBTという言葉の行き交いがここまで頻繁になったのはここ2、3年のことのように感じるが、その数年前、もっと自由に、性を表す言葉に縛られない恋の気持ちを表現していた「最後から二番目の恋」。物語の端っこに置かれていた小さな恋心ではあるものの、私にとっては一番心に残るラブストーリーとなった。

画像出典:FOD「最後から二番目の恋」

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