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『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』を読む

 一昨年『中学英語で読めるはじめての英語ライトノベル』を翻訳しつつ読み終わったのに続き、今年は俳句歳時記を形態素解析して研究していたのだけれども、そちらもひと段落したので、先月末からNHKさんの新作『中学英語で読めるはじめての英語ミステリーノベル』を読んでいる。

 そんな時に森田崇先生のnoteにてルパンの戯曲が紹介されていたので入手して読んでいる。

 端的に言って面白い。

 この物語に登場するルパンはまだ青年なのか、変装した身分の高い男の姿のままルパンすごいよとかいうところ可愛い。自己顕示欲が抑えられておらず変装が完成していない。繰り返すがすごく可愛い。

(※そういえばキン肉マンのスニゲーター教官も外伝にて『自分が強いと思っていたら真の変身などできるはずがない』と言っていたな)

 本作のルパンさんは原作とはかなり違うらしい。
 恥ずかしながら筆者が最近のルパンものを最後にみたのはAudibleの子供用作品(それも短編)だけだからだ。最後にシリーズ通して読んだのは子供の頃だぞ。

 本作でのルパンさんは平然とスプーンだの電話だの盗もうとするこすい召使(?)に呆れ、誰もツッこまないのをいいことにバカでかい鶏に扮装し(※本当)、アメリカ人女性への思い出に囚われ、それでいて探偵に会って正体が露見してもお互いへの敬意を忘れない。

 なるほどかっこいい。
 変な人だけど。

 というより、子供の頃しかルパンは読んでいないけど、ハーロック(※ホー⚪︎ズ……ショームズ)さんってこんなかっこいい既婚者だったかしら。

 子連れ探偵で、優れた洞察力とオンオフを分けていてオフの時は異国の犯罪者にも礼儀正しい。

 そしてちゃんと手続きを踏んでから(※ルパンが友人ガニマールの協力者になれるよう名刺までくれるのだが)時間を決めて挑んでくる。
 この時ルパンは堂々と盗品と思しき時計を出す。めちゃくちゃ面白い。

 彼の息子は父のレクチャーを受け大人顔負けの活躍を見せる。ショームズは次代の育成という能力が高い。(※原典のヤク中よりはいいかも……)


 この脚本は、適度にギャグが入り、『なにやっとんルパンさん』と思いつつも戯曲ってジャンルらしい間の取り方が垣間見えるのは大変よろしい。
 何より当時の人々が何に喜び何に憤慨していたのかが透けて見える。俺たちのヒーロールパンさんなのである。

 ちなみにガニマールさんは『アニメ版ルパン三世の銭形さんかしら』くらい貶められている。このまま『銭形』という名前でも日本の観客は納得するレベル。
(※その原典の銭形平次ご本人は縛らない、銭ほとんど投げない、犯人をあえて取り逃がす人情派でドラマとは別人)

 煤まみれになるわ、閉じ込められるは、ガニマールさん、ほんとろくな目に遭いやしない。

 しかし劇場ではこういうキャラを演じる方が楽しいし自分をモデルにしたコメディキャラクターを推しの俳優が演じていたらと妄想できる。

 なんせヒーローが冒頭から巨大鶏だぞ。
 ガニマールさんだって多少はサービスする。

 案外ルパンが脚本に協力したと聞いて、自分がちょっとかっこよすぎてこれでは捜査に支障でるからこれくらいマヌケなキャラクターにしてくれと言い出したのかもしれないし、仕事を引退して孫と見るために自分をコメディキャラクターとしてやって欲しいと推しの俳優と脚本家に頼んだのかもしれない。

 Audible版のルパンは友人である作家ルブランさんに作品のアイデアを提供して去っていく小粋な冒険家の顔と華麗な怪盗の顔、作品中で読者に謎を提示するトリックスターという一面がある。

(※現実のルブランさんは元々から精力的かつ多作なマイナー作家で、一作品に過ぎないルパンだけ売れるのには相当困らされたらしいが友人なら仕方ない)

 本作でのルパンさん、ヴィクトール・ダリエさんとアンリ・ド・ゴルスさんに『これは事実ではないが観客にはこれくらいが面白いのではないか』と自己プロデュースしていそうだ。
(※本作は作者公認のパスティーシュ)

 初演ではいい席とってみていそうである。
 本作のルパンさんはそれくらいの洒落っ気とフランス人としての良さげなところを感じる。

 ついでにおとなしく観劇していたはずの本人がいつのまにか舞台の上で鶏かぶっていても全くおかしくないし、後に親愛なるガニマールさん他にいい席のチケット送っていてもおかしくない。

 案外、落ち着いて紳士として円熟し、作品世界ではアメリカ公演が行われるあたり劇になり、当劇をアメリカにてヒロインのモデルと観劇しているかもしれないが、その辺は想像の余地である。

以下Amazon商品。

 こちらは豪華な音声と共に爆笑しながら訳している。NHKさんなにやっとんすか(再)。
 なお、その前はこんなのを出している。

 公共放送の本気(棒)。ちなみに友人の娘は小学生だがこの本を読んでいた。

 今日読んだ本。戯曲って面白いなぁ。貴重な当時の写真資料もついていて、タイムスリップして見に行きたい。

 いや、来年は母にくっついてフランス行くけど。
(※2024/02/27追記。ニワトリはフランスの国鳥でヴェルサイユの壁画にもある。ただのギャグコスプレにあらずの模様)

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自称元貸自転車屋 武術小説女装と多芸にして無能な放送大学生