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映画『わたし達はおとな』 金髪ボブこそ至高

面白いかどうかは別にして、この映画が目指した等身大の若者を描くというところに関しては、なかなか見ないレベルで高いクオリティだなあと思いました。(等身大なんて言っておいて、私にこんな学生恋愛のアレヤコレヤはなかったんですけどね、わはは・・・)

そのクオリティを支えていたのは、やっぱり役者の演技なんじゃないでしょうか。
木竜麻生と藤原季節は言わずもがな、周囲の人間も変に意味をもたせたキャラクターに仕立てようとしてないから、不自然に大げさな演技をすることもなくて。
何人かいる場面では同時に複数人が違うこと喋ったりなんかしてね。
あまりに自然すぎて何言ってんのか聞き取れないところもあったけど、なんかそういうところに日常を感じたり。

カメラも俳優の表情を正面からアップで捉えるみたいなカットはほぼなかったんじゃないんですかね。基本引きで。ドキュメンタリーっぽいというか。
あと長回しも印象的でしたね。特に終盤の。
そもそもあの家の構造がなんか面白い。木竜麻生は学生の一人暮らしでなんであんなとこ住んでんだ。しかも家賃は親負担とな。

そうそう、その親がチラッと出てくるんですけど、大事なことは娘には伝えずに何も心配しなくていいからって言うタイプなんですよねー。
それは優しさではあるけど子供扱いというか、その裏に隠されているものに気づいてしまったら、信頼関係は成り立たないわけで。全然悪い親ってわけじゃないですけど。
で、木竜麻生はそんな親の態度に不満気ではあるんですけど、自身も似たような性質を持ってしまっているんですよね。
だから周りの男との関係もどんどんおかしな方向に行ってしまう。藤原季節だけに限らず。

まあ藤原季節は誰にでも中出しする男なので彼を擁護する余地はないんです。
余地はないんですけど、二人がすれ違った時とか問題に直面した時に、逃げたり誤魔化したりせずに話し合おうとする誠実さは見せる。まあそれは俺は議論では負けないぞっていう嫌な自信から来てる態度ではあるんですけど。
ただあまりに理詰めで解決しようとしすぎるから、結局落とし所が見つからないっていう。
自分の非は認めるとか、相手の主張を一旦受け入れるとか、そういう態度を取ることが大人なんだと疑わずに信じている感じが逆に子供っぽくて。
まあ、もっと幼稚な態度を取る大人なんて山程いるから、それだけで彼が幼稚だと言うのは可愛そうな気もしますけどね。
でも誰にでも中出しするのは良くないと思うぞ。

一方、木竜麻生はそんな節操ない男(たち)の被害者。ではあるんだけども、やっぱり彼女が時折見せるある種の幼さみたいなものが問題を大きくしてしまっていることも否定はできないので難しい。
後ろめたい気持ちや曖昧な感情に蓋をしたり、相手の意見を聞かずにわかりやすい結論に持っていこうとしたり。
問題に直面しないために火種になりそうな感情は出さないっていうのは確かに必要な処世術ではあるけど、やっぱりどこかで大事な問題に向き合う時がやってくる。母の死っていう展開は唐突感あったけど、あれはそういう意味で象徴的な出来事だったんじゃないかな。
そういう向き合うべき時に逃げる態度を取ると、物事は良くない方向に転がっていきますよね。
もちろん藤原季節に非はありますよ。本当にきちんと話し合いたいなら、相手に余裕がないときに無理に詰め寄ったりするのは良くないですし。ただ、木竜麻生にも短絡的で稚拙な態度があったことは否定できないかなと。
まあ、そこが殊更目についたのは同族嫌悪にほかならないんですけど。

こういう一連の人物描写を見ていると『わたし達はおとな』というタイトルに込められた意味、みたいのが浮かび上がる気はしますね。

あとこの作品、時系列がとにかく分かりづらくて。
シームレスに過去に場面が飛んだりするので、いつのシーンなのかさっぱりついていけなかった。
それ自体は多少ストレスではあったんですけど、でもあそこまでわかりにくくしてるのって、2人のどちらかに感情移入させるような見せ方をしたくなかったのかなと思ったりもしましたね。筋立てすぎると見え方が固定化されてしまうので。
そこはすごく良いなと思いました。ラストの終わり方もその意味で素晴らしかったです。
劇的なドラマが巻き起こったあと、それでもお腹は空くからご飯を食べる。
まさに、人生という物語は続く、です。
こういうありふれた話を殊更大げさに価値があることみたいにされるのって、見せ方によってはすごく自己陶酔的で矮小な気がして個人的に苦手なんですよね。でもこの作品ではそういう演出を意図的に排除している感じがして、とても好印象でした。

とはいえ、終盤まではとにかく単調で起伏が少ない展開なので、2時間ない映画なのにめちゃくちゃ長く感じた。また見たいかというと・・・。でも不思議と印象には残りました。
ふとした瞬間に思い出して、あれなんの映画だっけ?ってなりそうな気がします。




ちなみに私は菅野莉央派です。
や、金髪ボブだからとかじゃなくて、とにかくめっちゃ良い子じゃないですか。
友達に厳しく言うべきことを言うし。助けを求めたときはきちんと寄り添ってくれるし。それでいて変に深刻ぶらないし。金髪ボブだし。
木竜麻生はあの子と友達でいる限り、どうにかこうにかやっていけるんじゃないですかね。
知らんけど。


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