松雪泰子さんについて考える(07)『ファースト・キス』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:5点(/10点)
放送年:2007年(フジテレビ)
視聴方法:FOD
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようにしています。
 
フジテレビ系列の月9夏クールで放送された『ファースト・キス』。

心臓病で大手術を控える20歳の美緒(井上真央)と、それを支える兄・和樹(伊藤英明)が中心の作品。恋愛ドラマのようなタイトルで、実際そういう要素も強いが、メインテーマは兄妹愛。そして、美緒(井上真央)の主治医・高木先生役として松雪さんが出演。出演当時34歳の作品だ。
 
大手術を控えた妹・美緒(井上)に恋を経験させるため悪戦苦闘する兄・和樹(伊藤)。その美緒(井上)の恋人候補として、若い研修医(平岡祐太)が登場するが、教育担当の高木先生(松雪)は自重を促す。その一方、高木先生(松雪)は、ソリが合わない美緒の兄(伊藤)と、最初は反目し合いながらも、だんだんと打ち解けていき…。
 
松雪さんの役どころは、上品・優秀・冷静沈着な心臓外科医。患者の美緒(井上)や後輩の研修医(平岡)に対しては、物わかりの良い姉のような接し方。短絡的な行動を繰り返す美緒の兄(伊藤)に対しては、冷静に諭すような話し方をしたり叱責したり、こちらも面倒見のよい姉のような対応。美緒の兄(伊藤)の直情的な性格と好対照にするためか、「申し上げる」「光栄です」「結構です」「お手柔らかに」等の品のある言葉使いが多く、役柄のイメージを引き立てるキャラクター設定になっている。
 
作品ごとに声色を使い分ける松雪さんだが、本作では、基本的には癖のないノーマルな話し方。ただし、部分的に、中低音でアナウンサー調の声(『救命病棟24時』と同じような感じの)を使うシーンもある。

ちなみに、『アフリカの夜』(1999年)のときと同じかそれ以上に髪が長い。そして、この作品以降は、長くても肩くらいまでな気がする。
 
初回から最終話(第11話)まで毎回出番あり。役の関係上、ドラマ全体を動かすような大事なシーンは無いが、非常に良い場面を4つ、紹介したい。
 
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■第2話
美緒の兄(伊藤)と電話越しで言い争い。声色を使い分けることで、言い争いのシーンと、そうでないシーンのメリハリがしっかりしている。さらには、電話を切った後、隣にいる研修医(平岡)と短い会話を交わすが、このときの目(視線)の動かし方に、芸が細かさを感じる。
 
■第3話
病棟近くのグラウンドのベンチで、美緒の兄(伊藤)と言い争いになるシーン。最初は他愛ない話題で会話を切り出しつつ、本題に移る瞬間に声色がはっきりと切り替わる。シーンに応じた声色の使い分け。
 
■第5話
美緒の兄(伊藤)が、妹(井上)とのケンカが原因で病院に迷惑をかけてしまう。そして、高木先生(松雪)から注意を受けるが、その後、話の流れで少し打ち解けた雰囲気に。
美緒の兄(伊藤)「なんか俺、先生に謝ってばっかですよね。」
高木先生(松雪)「(微笑して)私も、お兄さんに怒ってばっかりですね。」
美緒の兄(伊藤)「はい。妹の次に、怖い存在です。(笑)」
高木先生(松雪)「(微笑し、小首を傾げながら)それは光栄です。」
さらに二言三言交わして、退室する美緒の兄(伊藤)。
高木先生(松雪)「…馬っ鹿ねぇ。本当に。(微笑)」

第4話までは二人とも衝突してばかりなのだが、ここから氷解ムードに。このシーンは良い雰囲気が出ている。松雪さんだけでなく、伊藤英明さんもいい。BGMも◎。
高木先生(松雪)の小首をかしげる仕草がとてもいいのだが、松雪さん本人の考えによるものか、監督の演出か…。
 
■最終話
病院屋上での美緒の兄(伊藤)と高木先生(松雪)の会話シーン。美緒の兄(伊藤)が真剣な話を切り出すところで高木先生(松雪)の院内PHSが鳴るのだが、このときの、電話に出るまでの5~6秒間の目(視線)の動きと、微かな表情の変化が絶妙。
 
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松雪さん出演シーンの見所が多いのはいいとして、『きらきらひかる』『GOOD LUCK!!』『白い巨塔』等の井上由美子さんの脚本のわりには、あまり面白く感じなかった。主人公の美緒(井上真央)のツンデレのバランスがもう少し良ければ(ツンが強すぎ)、もう少し抵抗なく観れたと思う。その点は少し残念。
 
ところで、松雪さんと伊藤英明さんは、『愛、ときどき嘘』(1998年)、『救命病棟24時』(2001年)で共演している。前者は2023年の今となっては観る術がなさそうだが(販売はVHSのみ)、後者と本作は配信(フジテレビFOD)で視聴可能。『救命―』からの6年の間に伊藤英明さんはムキムキの筋肉質な体になったが(『海猿』の影響?)、少し頼りない男という役柄は前作さながらよく似合っている。ついでに言うと、『白い巨塔』のときの弱気でグズグズする医師役も上手だった。
 
なお、主題歌は小田和正さんの「こころ」。フジテレビの月9の主題歌は、『東京ラブストーリー』以来という触れ込みだったようだが、それは抜きにしても、夏らしいいいメロディの曲だと思う。松たか子さんのコーラスが入っている。ただし、あまりにも劇中で多用されるのは、ちょっとしつこい感じもする。

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