松雪泰子さんについて考える(02)『救命病棟24時』(第2シリーズ)

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松雪さん出演シーンの充実度:9点(/10点)
作品の面白さ:10点(/10点)
制作年:2001年(フジテレビ)
視聴方法:FOD、TSUTAYAディスカス
 
※多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
 
江口洋介さん主演の人気シリーズ『救命病棟24時』。2001年放送の第2シリーズは、松雪さんとのダブル主演。なお、他のシリーズは全て松嶋菜々子さんが江口洋介さんの相方を務めている。
 
松雪さんが演じたのは、プライドの高い心臓外科医(香坂先生)。心臓外科から救命救急に左遷されてしまったため、それまでの経験や技術が通用せず右往左往。心臓外科に戻るまでの仮住まいと見切った上で、気乗りしないながらも臨床を重ねる。江口さん演じる救命のプロ(進藤先生)と衝突を重ねる中で、医療との向き合い方を見直していくことになる。
 
このドラマは、松雪さんの代表作のひとつと言っていい。作品自体の文句ない面白さもさることながら、松雪さんがまさに「松雪泰子っぽい」役柄だからだ。観たことのある方なら頷いてもらえると思う。
 
プライドが高く、傲慢で高飛車。しかし所々に人間味があり、どこか憎みきれないキャラクター。時折見せる弱気な一面。

そして、進藤先生(江口)との、つかず離れずの関係性。簡単にいうとツンデレだ。
 
ただ、序盤に関してはデレ要素ゼロで、挑発的な態度の連続。そのせいで、進藤先生(江口)だけでなく、他の同僚医師との小競り合いが絶えない。

しかし、救命救急の現場を積み重ねていくなかで、徐々に信頼関係を構築していく。そういう意味では群像劇だし、谷原章介さん・渡辺いっけいさん・伊藤英明さん・小日向文世さん等、いい役者さんが揃っていて見所が多いのだが、中心はあくまで香坂先生(松雪)と進藤先生(江口)のツンデレ関係だ。
 
それでは、香坂先生(松雪)の見どころを簡単にまとめてみよう。
 
■第1話~第3話
とにかく高飛車。この時点ではデレ要素ゼロ。進藤先生(江口)と香坂先生(松雪)の板挟みになって可哀そうな医局長(渡辺いっけい)の表情が、可笑しくて素晴らしい。
 
■第4話
とあるミスを犯してしまい、高飛車一辺倒ではいられなくなる。このあたりから、強気一辺倒でなく、弱い部分をまわりに見せ始め、進藤先生(江口)との関係性も前進し始める。

数日間救命を離れてから復帰した際の進藤先生(江口)との会話シーンが白眉。
進藤(江口)「カルテのチェックがたまってるぞ。今日中にやっておけ。」
香坂(松雪)「…。命令しないで(微笑)」
進藤(江口)「(微笑)」
2人とも絶妙な間と表情。
 

■第5話~第6話
救命救急の一員として溶け込みはじめる。

 
■第7話
香坂先生(松雪)が病院内である人物から危害を加えられるが、進藤先生(江口)が身を挺して守る。

素直に感謝することのできない香坂先生(松雪)だが、せめてもの気遣いで、そっと進藤先生(江口)にコーヒーを入れるシーン。柄にもない振る舞いが気恥ずかしいため、香坂先生(松雪)の目が泳ぐ。

松雪さんの出演作を色々と観て確信したが、松雪さんの大きな特長は、目(視線)の動きで感情を微細に表現できることだと思う。
このシーンはその好例。

終盤、相変わらず素直に礼が言えない香坂先生(松雪)。
香坂(松雪)「今度もう少し、おいしいコーヒー、入れなきゃね。」
進藤(江口)「…それで礼を言ったつもりか。」
香坂(松雪)「…(微笑)。」
この第7話までの中では、最もツンデレ度が高まった名シーン。

 
■第8話
田畑智子さん演じる研修医と恋バナ。
進藤先生(江口)を意識するシーンが描かれる。

このドラマで松雪さんは一貫して低めの凛々しい声色を使っているが、研修医(田畑)との会話の最中に、一瞬だけその声色の箍(たが)が緩んで、ノーマルな喋り声になるシーンがあった。マニアックで恐縮だが、一応紹介すると、「あたしが結婚しない理由はね」の末尾「はね」の箇所。これを聞いたとき、逆にこの部分以外は役柄に合わせて声を意識的に変えているんだなと思った。

松雪さんの出演作を見比べていくと、演じる役柄に応じて何パターンにも声色の使い分けをしていることに気づかされるが(そこまでしている役者は他になかなか見当たらない)、このシーンはそういう意味で重要な瞬間だった。
 

■第9話
香坂先生(松雪)が医局の懇親会の幹事を任される流れになるのだが、そのときの松雪さんの表情と目(視線)の動き。短いシーンだが、セリフがなくても、戸惑いと辟易が十分に表現できている。

懇親会の出欠表に進藤先生(江口)が〇をつけたあとの香坂先生(松雪)の表情。ここでもやはり目(視線)の動きに心情の機微を滲ませる。セリフが無くても、というかむしろセリフが無いからこそできる、ミリ単位の感情表現だと思う。

最後の浴衣姿は必見。
 

■第10話~第11話
最終話に向けて、シリアスな展開。
 

■第12話(最終話)
進藤先生(江口)と最後どうなるのか。
桟橋での会話のシーンが良い。
 

■スペシャル放送
最終話から3か月後という設定でのスペシャル版。香坂先生(松雪)が、もはやツンデレでも高飛車でもなく、ただの優しい女医さんになってしまっているのは少し残念。制作側としては、進藤先生(江口)と香坂先生(松雪)のある大事なシーンと、それを踏まえたラストシーンを撮るのが目的だったのだと思うが、正直言って、少しありきたりな感。



ところで、松雪さんは、この作品出演時、28~29歳。その年齢で既にこれだけの表現力と存在感。プライベートは本来関係ないが、放送された2001年の春には子どもを産んでいる。そんな状況で、よくこれだけ立派に演じることができるなぁと素直に感心する。子を持つ親なら、肉体的・精神的問わず、その大変さが分かるはずだ。1クールのドラマを無事に務め上げるだけでも、心身ともにおそろしくタフだと思う。
 
脚本とキャラクター設定の妙。そして、それを表現しきる松雪さん。まだ観たことのない方は、DVDまたはFODでぜひ。
 
なお、スペシャル放送の回はFODでは配信されていない。出演者の中に逮捕者が出てしまったが故と思われる。今となってはDVDでしか観られないようだ。
 
ちなみに、そのDVDに特典としてクランクアップの映像が収められている(注:レンタル版にも収められているかどうかは未確認)。松雪さんが江口さんから花束を受け取り、短いコメントを述べているのだが、このときの雰囲気や喋り方は、確かに普通の29歳の女性という感じがする。作中の香坂先生とは完全に別人の感じがするから不思議だが、それはやはり声の違いによるところが大きいと思う。先述したとおり、作中では役柄に合わせた低めの声色が使われているが、この特典映像での素の松雪さんは、当然ながら普通の地声。だからこそ、作中との印象が全然違うのだろうと思う。機会があれば、観てみてほしい。


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