松雪泰子さんについて考える(43)『小さな橋で』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:9点(/10点)
作品の面白さ:5点(/10点)
制作年:2017年(時代劇専門チャンネル・スカパー!)
視聴方法:DVDレンタル(TSUTAYAディスカス)
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。
 
ちょっと変なドラマだった。
 
藤沢周平の連作短篇集「橋ものがたり」を原作とした時代劇で、父(江口洋介)が家を出て行ってから母(松雪)と姉弟の3人で暮らす家族を描いたヒューマンドラマ。
 
時代劇だし、テーマ設定も出演俳優も含めて非常に手堅い作品なんだろうなと思いながら観ていくと、ところどころで「…ん?」と首を傾げたくなるシーンが出てくる。
 
最初に違和感を抱いたのは、トルコ行進曲をBGMに使ったシーン。なぜ時代劇でこの曲なのか。
 
さらに進んでいくと、さだまさし「秋桜」、シューマン「トロイメライ」も流れてきたが、これらも不可解だった。時代劇にも、ストーリーの展開にもふさわしくない。
 
まだ小さい長男(田中奏生)の目線で進行し、この子役のモノローグ(ナレーション)が頻繁に挟まれるのだが、感情を込めすぎているせいで何を言っているのか聞き取れないことが度々。なぜあのナレーションでOKを出したのか、監督の意図が掴みかねる。
 
そして最大の問題は、オチ。詳細は伏せるが、ハッキリ言って意味不明だった。作品の世界をぶち壊すトドメの一撃のように感じた。
 
そういうわけで、冒頭に記した通り、面白さは5点(/10点)とした。いいところもあるのに、もったいない仕上がりだった。
 
一方、松雪さん出演シーンについては、見所が多々ある。
 
まず、時代劇に出演すること自体が珍しいが、それに加えて、市井の一町民を演じているのは、2024年現在でもこの作品が唯一ではないか。
 
夫(江口洋介)が去り、食い扶持をつなぐために夜の飲み屋で働く妻。酒に酔い、常連客の男(筧利夫)にしなだれかかりながら夜道をよろめく姿が画になる。はだけた胸元、抜衣紋から覗く項(うなじ)。退廃的な色香が漂う。
 
酔歩蹣跚で家に着き、柄杓で水を口に運びながら居間に倒れる。呆れた息子に抱えられながら布団に運ばれると、海棠の睡りに落ちてゆく。
 
どれもこれも、この作品でしか観られない貴重なシーンだ。
 
声色のバリエーションも多彩。飲み屋の常連客と話すときの嬌声、酔ったときの高笑い、娘を叱責する鉛のような声…等々。ひとつの作品でこれだけの使い分けが味わえる。
 
作品の好き嫌いは評価が分かれそうだが、松雪さん目当てで観るなら強くお勧めしたい。
 
ところで、『救命病棟24時』『SHINKANSEN☆RX五右衛門ロック』『脳男』で共演した江口洋介さんと久しぶりの共演。共演シーンは短いが、見ごたえある場面になっている。江口さんは、『SHINKANSEN☆―』のときには和服姿に少し違和感を覚えたが、この作品ではしっくり来ていた気がする。
 
 

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