松雪泰子さんについて考える(46)まばたきをしないシーン

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

『負けて、勝つ』(2012年、NHK)の第2話の吉田茂(渡辺謙)と小りん(松雪泰子)の名シーンを観ていて、松雪さんがそのシーンの間中、全くまばたきをしていないことに気づいた。
 
これまで、まばたきの有無なんて意識したことがなかったので新鮮な感動を覚えたものの、調べてみると、役者の世界では、ここぞというシーンでまばたきをしないのは、わりかしオーソドックスなテクニックとのこと。正直言って、知らなかった。
 
例えば、顔面アップのシーン。相手を睨みつけるシーン。ガンをとばすシーン。考えてみれば当たり前だが、やくざが睨み合っているシーンでまばたきをしていたら、緊張感もクソもない。記憶の中にある『闇金ウシジマくん』では、主演の山田孝之さん演じる丑嶋社長は、ほとんどまばたきをしていなかった気がする。
 
厳密に言うと、「まばたきが感情表現として特別な意味を持ってしまう場面≒不必要にまばたきをしてしまうとその役柄の感情が視聴者・観客に誤って伝わってしまう場面」では、無闇にまばたきをしないようにしているんだと思う。まばたきは、焦り・驚き・不安を印象付けてしまうので、上記の例だと、丑嶋社長やヤクザがまばたきをしまくっていたら、威圧感が半減してしまう。
 
まばたきの有無を明確に意識したことは無かったけれども、パッと丑嶋社長の顔が浮かんだように、無意識にそういう演技が観る側に刷り込まれていることに気づくと、役者さんの演技は奥が深いし、まだまだ他にもこちらが気づいていない努力・工夫・仕掛けが沢山あるんだろうなと思う。
 
ということで、他に松雪さんがまばたきをしていないシーンが無いか脳内の記憶を検索してみて、思い当たったシーンを実際に観直して確認してみた。ここで少し列挙してみたいと思う。もちろん、これが全部ということではなく、あくまで一例として。
 
映画『MONDAY』(2000年)
バーのシーンもダンスのシーンも、ほとんどまばたきをしていない。
 
ドラマ『救命病棟24時』(2001年)
第4話のラスト。進藤先生(江口洋介)と見つめ合い、「命令しないで」と言うまでの間。
 
■ドラマ『ビギナー』(2003年)
第6話の終盤。かたぎでない女(室井滋)に対して、夜の商店街で縁を切る。捨て台詞を吐くシーンでまばたきをしない。それ以上に、室井滋さんの方こそ、全くまばたきをしない。
 
蛇足になるが、このシーンをわざわざ商店街で撮ったのは、もしかして『アフリカの夜』つながりか。室井滋さんは、同作で商店街の総菜屋の役だった。プロデューサーの山口雅俊氏なら、そこまで考えていてもおかしくない。放送当時は、『アフリカの夜』を知らなかったので、なんでこんな商店街が出てくるのだろうと少し不思議に思っていたが、そういうことだったなら納得。ちなみに、山口Pは、上述した『闇金ウシジマくん』もプロデュース・監督している。
 
第8話のレストラン。桐原(堤真一)との会話の最中はまばたきをせず、桐原が去った後、呆れ顔をするときにまばたきをする。この呆れ顔を活かすために、前半ではまばたきをしなかった?
 
ドラマ『ファースト・キス』(2007年)
最終話、病院の屋上。患者の兄(伊藤英明)との会話の終盤。それっぽい雰囲気になってからPHSが鳴り、電話に出るまでの間。目(視線)の動きで感情表現するため、まばたきを抑えている。
 
ドラマ『負けて、勝つ』(2012年)
第2話。首相就任の決意が固まらず逡巡する吉田茂(渡辺謙)。喝を入れる小りん(松雪泰子)。2人が交互にアップになるシーンで、全くまばたきをしない。
 
映画『脳男』(2013年)
主人公・鈴木一郎(生田斗真)を精神鑑定。質問を畳みかけるシーンで、まばたきゼロ。
 
ドラマ『5人のジュンコ』(2015年)
最終話。
冒頭、佐竹純子(小池栄子)との会話シーン。予想外の事実を耳にする場面で、顔がアップになり、まばたきなし。
終盤での篠田淳子(ミムラ)との会話シーンもすごい。一切まばたきなしで、かなり強い眼力。

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