松雪泰子さんについて考える(23)『きらきらひかる』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:10点(/10点)
作品の面白さ:9点(/10点)
制作年:1998年~2000年
視聴方法:DVD(TSUTAYAディスカス)
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
 
言わずと知れた、松雪さんの代表作の一つ。代表作と言っても主演は深津絵里さんなのだが、鈴木京香さん・小林聡美さんも加えた豪華な4人の共演が楽しい人気作品だ。

1998年放送当時の視聴率もよく、単発スペシャルの続編が二度も制作されたことからも、その人気ぶりが分かる。

2023年現在ではオンデマンド配信はされておらず、DVDでしか観ることができない。自分はTSUTAYAディスカスを利用した。
 
ざっくり作品の概要を説明すると、深津絵里さん・鈴木京香さん・小林聡美さんが監察医役。松雪さんが刑事役。

事件・事故の疑いがある死体が発見された場合に、監察医が死体を検案し、死因を特定するそうだ。日本全国で行われているわけではないようで、政令指定都市などに限られるらしい。司法解剖とも違う。
 
ドラマは基本的に一話完結。死体が見つかって、天野ひかる(深津)らが検案するものの死因が判然とせず、警察(松雪)と二人三脚で真相を究明する。謎解きの刑事モノと感覚は似ているかもしれない。
 
ただ、このドラマの一番のウリは、真犯人や事件の真相を突き止める謎解きではなく、メイン4人の小気味よい会話劇だと思う。特に、ほとんどすべての回で最初と最後に登場するイタリアンレストラン「アイーダ」での会食シーン。4人がテーブルを囲み、あーでもないこーでもないと肩の力を抜いた会話を繰り広げる。4人とも、演技とは感じさせないくらいの自然体。
 
役者もすごいが、監督がかなり細かく指示を出しているはずで、会話に参加していないときの細かい身振りや表情などがディテールに真実味を持たせる。このレストラン「アイーダ」の場面だけでも観る価値がある。
 
では、松雪さんの役柄について。
 
出世を果たすためにひとつでも多くの事件の犯人を逮捕することに血道をあげる、気の強い刑事役。誰に対しても高飛車な態度で、鼻っ柱が強い。
 
鼻っ柱が強いといえば後年の『救命病棟24時』(2001年)の女医役だが、それに勝るとも劣らない感じだ。どこか憎みきれないところがあるのも含めて。ツンデレ要素は少ないが、第9話、第10話(最終話)あたりで若干そういう要素も出てくる。
 
松雪さんが、こういう「仕事ができる」女性を演じ始めた端緒はこの『きらきらひかる』ではないかと思うが、どうだろうか。これより前の出演歴を調べても、そのような感じの作品は見当たらないし(違ったらすみません)、前作『理想の上司』ではむしろ真逆の役柄で、仕事のできないダメダメOLだった。
 
ちなみに、90年代の放送作品にしては、ボブカットの髪とメイクが今見ても古い感じがしない。衣装に関しては、スーツの襟のデカさは90年代特有の感じを受ける一方で、アイーダでのフェミニンな装いは不思議にも90年代の古さを感じさせない。
 
そんなわけで、出演当時まだ20代の松雪さんの姿を、2023年現在の感覚で観てもあまり違和感がない、ファンにとって貴重な作品だ。

なお、 後に松雪さんが主演する『Mother』(2010年)の脚本を務めた坂元裕二氏は、この『きらきらひかる』の面白さ(井上由美子氏の脚本)に触発されて、休業していた脚本家業を再開させたというエピソードがある。
出典:https://news.yahoo.co.jp/feature/1093/

では、特に見所と思う松雪さんのシーンを少しピックアップしてみたい。
 
※重要な部分には触れない範囲で多少のネタバレを含みますので、ご注意を。
 
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【第1話】
冒頭で流れる「アイーダ」のシーンで、普通に観ていては見逃してしまうような細かい演技が二つ。

①自分のセリフが無いシーンで、ワインを味わって「…ふー」

②月山(松雪)「ちゃぶ台がどうしたのよ?」
 黒川(小林)「いや。だから…」
 月山(松雪)「うん(相槌)」←声のトーンもタイミングも自然体 


終盤で再登場する「アイーダ」でのシーンで、再び細かい演技。

①黒川(小林)と天野(深津)が喋っているときに店員がパスタを持ってきたとき、ギリギリ聞こえる小さい声で「あぁ、どうも」

②杉(鈴木)にパスタの取り分けを促され、怪訝な表情と視線の動き
 
※ついでに言えば、胡椒をとった天野(深津)がオリーブオイルの瓶を倒すところも自然すぎて怖い(コメンタリーで深津さん本人が「アドリブではない」と説明)
 

【第10話(最終話)】
月山(松雪)が銃撃を受けて数時間後、出血により生死の境を彷徨うが、このときの虚ろな表情、焦点の定まらない目の動きが迫真。個人的には、『白い巨塔』(2003年)最終話の唐沢寿明さんの名演技を思い出した。

最後のアイーダで、とある成り行きから天野(深津)たちにイジられ、含羞の表情。そして、ある人物からあるものが届き、愛嬌あるそぶりで喜びを見せる。
 
・・・・・
 
以上が連ドラとして放映時のものだが、その後、スペシャルが2回放送された。
 
まず、1999年に放送された『きらきらひかる2』(一話完結のスペシャル版)。

悪くないが、事件の解決に向けた謎解きに多くの時間が割かれているせいで、4人のキャラクターによる楽しい会話シーンが少なかった。事件自体も驚きが少ない結末。

松雪さんについてもここぞという見せ場は少なく、全体的に不発。

ちなみに、レストランのセットが「アイーダ」ではなくなっている。
 


次に、2000年に放送された『きらきらひかる3』(一話完結のスペシャル版)。

これはよくできていた。2時間の中で3つの事件が絡み合って、最後に3つともきれいに解決する。中身が濃かった。メインとなった幼女死亡事件のオチもよかった。伏線がきれいに回収されていて。

メインの4人に関しては、レストランでのシーンは短いものの、事件を解く過程で共演時間がたっぷりあるので悪くない。

ちなみに、4人揃って警視庁から出てきて歩くシーンがあったが、これまでずっと本物ではない建物が警視庁として出てきていたのに、今回は一転して桜田門の本物の庁舎が使われていたのには唐突感があった。
 
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では、最後に余談を。
 
本作は、フジテレビ所属時代の山口雅俊氏の初期のプロデュース作品。
 
同氏の作品ではその後、『アフリカの夜』(1999年)、『太陽は沈まない』(2000年)、『ビギナー』(2003年)、映画『スマグラー』(2011年)で松雪さんが起用されている。
 
松雪さん出演作以外では、『カバチタレ!』(2001年)、『ランチの女王』(2002年)、『不機嫌なジーン』(2005年)などがあるが、その後、フジテレビを離れ独立し(株式会社ヒント)、引き続き映像作品のプロデュース・監督を行っている。
 
同氏の作品はどれも人間の温かみを描くことに主眼が置かれていて、心に残る佳作ばかりだ。
 
近年(2010年代以降)は、『闇金ウシジマくん』のような、アンダーグラウンドの世界が舞台で、暴力表現が出てくる作品も多いが(映画『スマグラー』しかり)、そういう作品でも、最後の最後に描かれているのは、人間の奥底に残る「情」だと思う。
 
作品のテーマだけでなく、遊び心ある演出上の工夫が面白い。『アフリカの夜』『ビギナー』等では、エンドロールで表示する役柄名を、単純な役名にするのではなく説明調の表記にして遊んでみたり、作中に出てくる難解用語・専門用語を字幕で説明したかと思えば、同じノリで、わざわざ説明しなくてもよい言葉を説明したり―。
 
いずれにしても、同氏のウィットに富んだ制作姿勢には感服している。2023年現在でも、第一線で新しい取り組みにチャレンジしているようだ。

今後も同氏が生み出していくコンテンツが楽しみだし、いつか再び、松雪さんを起用した作品を作ってほしいと思う。

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