誰かと確かに観た
先日、テレビの深夜放送で懐かしい映画が放送されていた。
15年くらい前に妻とデートをした時に観たフランスの恋愛映画だった。
「これ、映画館で一緒に観たよな。懐かしいな。」
一緒にソファーに座っていた妻に話しかけると、怪訝な顔をされて、
「は?私、この映画観たことないよ?誰かと間違えてるんじゃない?」
と若干キレ気味に答えられた。
「あれ?そうだっけ?俺の勘違いかな?」
とブツブツ嘆きながらその場をやり過ごした。
でも僕の記憶では、僕は確かに女の人とこの映画を観ている。
その時、一つのポップコーンを二人で分け合いながら食べた記憶もあるから、親しい関係だと思う。
そこはかとなく甘酸っぱい感じの記憶も残っている。
テレビを横目で観ながら、スマホでこの映画のことをこっそり調べると、結婚した年の1年前に公開されていた。
この頃は妻と結婚前提につき合っていた時期である。
妻の言うことが本当だとすれば、僕は一体誰とこの映画を観たのだろう。
妻は浮気を疑うのかもしれないが、断じてそんなことはしていない。
それなら知り合い?
いやいや、映画を二人だけで観に行って、ポップコーンを分け合うような親しい女友達はそもそも存在しない。
じゃあ、僕が観たのはこの映画ではなかったのかもしれない。と思ったけど、しっかり内容を覚えているから、やっぱりこの映画を観たのは間違いない。
うーん。困った。分からない。
僕は一体誰とこの映画を観たのだろう。
心のモヤモヤと疑いを晴らすため、僕は次の日、埃だらけになりながら押し入れの奥から古い日記を何冊かゴソゴソと引っ張り出してきて、その頃のものを探した。
あった!
やっぱり、僕は映画館でこの映画を観ていた。
しかも、妻と!
当時の日記を読むと、僕たちは映画館に来たけれど、妻は結婚式の準備やら何やらで疲れ切っていて、映画が始まるやいなやすぐに熟睡してしまったようだ。
妻が「この映画は観たことがない」と言ったのは、ある意味間違いではなかったんだ。
こうして僕の疑いは晴れた。
あの頃のちょっと甘酸っぱい気持ちを思い出せただけでも良かったんだろうな。
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