板前の常識は世間の非常識 だし汁編

板前の常識は世間の非常識

さて、日本料理は出汁が命! ってよく言いますよね?
そうなんです、出汁が美味しければ本当に仕事が楽なんです。
出汁が薄かったり、濁ってたりするから、余計な調味料やら化学の力に頼る事になるんです。

吸物も出汁が美味しければそのままでも美味しい、塩だけで充分。
下手したら塩も要らない。
余計な物は一切いらない。
自分で鰹節を削って出汁を取った事のある人なら、引き立ての風味と美味しさが素晴らしいのが分かるはず。
僕は小学校に上がるまで、お婆ちゃんが削った後の半端の鰹節を「飴」として食べさせられていた為、今でも鰹節を食べるのが好きです。

さて、僕がいた店は出汁がおおきく分けて3種類ありました。
細かいのは省きますね。
先ず吸物に使われる「めじ節」と呼ばれる物。
煮物に使われる「本枯れ鰹節の血合い抜き」
その出し殻を使った「2番だし」

めじ節は、本鮪の子供のメジマグロをつかった節。
非常に繊細で上品なだし汁が引けます。
引き立ては黄金色をしてとても綺麗です。
ただ直に風味も味も変わります、引き立てでないと意味が無いです。
旨く引けないと酸味やに苦みが出て来ます。

枯れ鰹節は、枯れ節とか本枯れとか言われますが、鰹節を作る過程でカビ付け(熟成)をするんですが、カビ付けされた物を「枯れ節」、何度もカビ付けと天日干しを繰り返し手間のかかった物を「本枯れ節」と呼んだりします。
濃厚で風味の強い出汁が引けます。色も濃い。
これで吸物を作っても充分美味しいのですが、煮物専用でしたね。
さらに、この出し殻で2番出汁を引いて、炊き込みご飯や味噌汁に使っていました。

こう書くと、鰹節かめじ節さえ良ければ良いのか?と思いますが違います。
昆布も非常に大事です。
一般に、北海道の白口浜の真昆布が特上なんて言いますが、めちゃめちゃ高いです。
個人的には羅臼昆布の濃厚な味が好きなんですが、店では味に「切れ」を出すため利尻を使っていました。
これにも松竹梅があります。
松昆布を使う時は、水に浸しておいただけで味と風味が移るので使う量と引き上げるタイミングが重要になって来ます。
下手したら浸けとくだけで、水だけで沸かす事も有るくらいです。
竹昆布を通常は使っていました。

出汁の引き方は人それぞれですので省きますが、
「ねっとりとした昆布の甘さとめじの味引き立て合って舌を覆い、メジ節の風味が鼻を抜け、すーーっと消えて、昆布の余韻が残る味。。。」
ってのがイメージでした。

味って不思議ですよね。
味だけじゃなくて天ぷらや焼物もそうだと思うんですが、仕上りのイメージが無いと駄目。
こうしようかな? どうしようかな? こうしてみようか。と思いながら作ると
仕上りがなんだか迷った味になる。
だから、親方や兄貴に「お前どこ行って来たんだ? 何処行きたいんだ?」
と味見の際に言われる。。。  味が迷う。
一般に言う、不味くないけどよくわからない味になる。

でも良くても悪くても、こうしようと思って味付けすると、
「辛いわバカ」(塩っぱい事)
「もっとしんみりめに」(塩味を足せって事!)
「角を取れ」(雑な味だから味醂か酒を追え)
ってな具合にアドバイスがもらえる。 と同時に板前の調理隠語も覚える事となる。

作る事も大事だけど、美味しい物を食べて記憶するのも重要な仕事だと思う。
記憶を頼りに完成させるんだから。
あと普段からやってる事だよね。
久しぶりにやるのと毎日やるのじゃあやっぱり違うもの。
何年か前にフィリピンの英語留学から帰ってきて料理作ったら、全然だめだったもの。
暫く包丁握ってなかったからね。。。

あ〜〜、人の作った美味しい物を食べたい。

つづく。。。

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