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小売業界の業態転換について

小売業界の歴史は、業態転換の歴史でもある。

かつては、小売業界のメインストリームは、百貨店であった。その百貨店も、最初は西洋から輸入された新業態であった。百貨店の源流は、フランスの「ボン・マルシェ」だと言われている。

「いや、江戸時代の「越後屋」呉服店こそが、百貨店の元祖だ」と言う意見もある。たしかに、「現金売り」「掛け売りなし」の商売のやり方は、世界的に見ても、画期的だったのかもしれないが、客が店内を自由に回遊できるようにしての陳列販売は、明治以降に西洋から輸入されたものである。

それが、高度成長期以降、スーパーマーケットという新業態が出現して、百貨店に代わって、小売業の主役になる。72年(昭和47年)に、ダイエーが三越の売上を追い抜いて、小売業日本一の座を占めたのは、その象徴的な出来事であった。

で、そこからさらに時代が変遷して、今やコンビニが小売業の主役であり、Amazonのようなネット販売も当たり前になっている。もちろん、百貨店もスーパーも絶滅したわけではないが、もはや、かつてのような存在感はない。

株主の立場からすれば、「選択と集中」と言うわけで、最もパフォーマンスの良い事業分野に経営資源を集中して、不採算な事業からは撤退せよと主張するのは、当たり前の話である。というわけで、「セブン&アイ・ホールディングス」(E&Y)にとっては、前々から祖業である「イトーヨーカ堂」が悩みの種になっていた。かねてより、アクティビスト(物言う株主)である米投資ファンドらから、不採算事業と指摘され、分離・売却を求められていたからである。

正直なところ、総合スーパー(GMS)から、食品スーパーに転換したところで、明るいシナリオが描けるようなイメージは湧かない。食品スーパー業界だって、強力なライバルがひしめいており、それはそれで厳しい闘いを強いられるからである。

だったら、売却してしまえという主張は、とてもわかりやすい。<市場では「セブン&アイの現状の株価をもとに単純計算すると、ヨーカ堂の企業価値は2000億円超になる」(外資系証券アナリスト)との見方がある。>となれば、そのキャッシュを、もっと儲かる事業に投資するなり、株主に還元するなりせよという話になるのは当然である。

日経新聞に、<セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、傘下の総合スーパー(GMS)であるイトーヨーカ堂などのスーパー事業の株式を2026年以降に一部売却する検討に入った。ヨーカ堂で構造改革を進めて外部資本も入れて再成長を目指す。祖業であるヨーカ堂を非中核と位置付け、コンビニエンスストア事業に集中して一連の構造改革にめどをつける。>という記事が出た。

E&Yにとっては、今や「非中核」である「祖業」からの撤退がいよいよ始まることを意味する。理屈ではわかっていても、なかなか悩ましい。だが、創業者である伊藤雅俊も昨年3月に亡くなっているし、そろそろこの問題に決着をつけないといけない時期だったのかもしれない。

<売却については中間持ち株会社を設立し、ヨーカ堂やグループの食品スーパーのヨークベニマル(非上場)などをぶら下げて同持ち株会社に外部出資を募る方式が有力だ。新規株式公開(IPO)させることも検討する。首都圏の食品スーパー事業について、26年2月期までに黒字転換などを達成させる計画で、中間持ち株会社の設立などは同期以降に実現したい考えだ。>

たぶん、時間をかけて、外部資本を募り、将来的には「非中核」事業そのものを、グループ外に括り出してしまい、株主としての影響力のみ保持するような格好になるのかもしれない。

冒頭に書いたとおり、小売業界の歴史は、業態転換の歴史でもあるわけで、コンビニだって、あと何年か経てば、今と同じようなやり方の商売をやっているとは限らない。おそらく、ネットビジネスとの融合がより一層進んで、店売りもしつつ、宅配や注文した商品受け取りの拠点みたいな位置づけになっている可能性もある。

そうした環境において、百貨店やスーパーだって、このまま絶滅するとは決まっておらず、どういう価値提供をするのかを考えながら、生き残りを図っていくべきなのであろう。

百貨店の「コア・コンピタンス」は「目利き力」であり、コンシェルジュみたいな役割であれば生き残るのではないかという話は、前にも書いた記憶がある。

ちなみに、「ボン・マルシェ」も、最初の頃は、大衆相手の安売り店としてスタートしたのだという。それが、時代の変遷を経て、庶民に対して、「ちょっと良いもの」を提供する業態になった。

スーパーの「コア・コンピタンス」、コンビニに対して「違い」をアピールするものが何であるべきかについては、僕にはまだよくわからない。でも、それを見つけたところが、これから先の時代も、生き残るのだろう。

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