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「目利き力」について

先週末、少し思うところあり、国内を旅行していた。

新幹線のグリーン車に置いてある「Wedge」という雑誌を手に取って読んでいて、興味深い記事を見つけた。百貨店の外商担当者を利用するのは、シニア富裕層というイメージであるが、「伊勢丹」新宿店では外商利用客の若年化が進んでいるのだという。

前に百貨店について記事を書いたことがある。その際に、百貨店の「コアコンピタンス」(ライバルを圧倒する能力、あるいは得意分野のこと)はバイヤーの目利き力であると書いた。「百貨店に置いてある商品だから」という消費者の漠然とした信頼感のようなものは今でも十分に有効であり、顧客にとっては、百貨店の目利き力や選択眼に対して、まだまだ高い信頼を寄せているのだ。

単に必要なモノを購入するだけであれば、ECサイトでポチれば済む。わざわざリアルな店舗に行く時間も手間も無駄でしかない。だが、何を買えば良いのか、自分でもわからない時、自分に相応しいモノ、「価値」があるモノを提案してくれる存在は重要である。そうしたコンシェルジュのような役割こそが、最終的に百貨店に残された存在価値であろう。

「Wedge」11月号に「ECサイトを超える価値 百貨店「外商」の新潮流」という記事に書かれていたのは、百貨店の外商顧客 = シニア富裕層というイメージに相反する現象として、「伊勢丹」新宿店では外商利用客の若年化が進んでいるという内容であった。ECサイトにはない、人と人とのコミュニケーションを通じた百貨店ならではの提案力が評価されるのであろう。

高ければ良いとは限らない。商品特性、背景にあるストーリー性、こだわり等の商品に秘められた「価値」をきちんと顧客に理解してもらう必要がある。それぞれの顧客が「価値」と認めるポイントは十人十色であるから、長いつきあいに基づいた顧客理解が重要となる。こういうのはECサイトでは真似ができない。

さらに言えば、モノを売ることだけが百貨店の仕事とは限らない。「特別な体験」「サービス」を提供するのも顧客への提案力の見せ場だと思えば、フィールドはさらに広がる。

同じ雑誌に「エクスペリサス」(東京都渋谷区)という会社の話が紹介されている。「五ツ星の体験」を創出するというコンセプトの会社である。同社は海外の超富裕層に向けたオーダーメイド型のさまざまな体験プランを提供する。もちろん値は張るが、世の中にない商品をつくれば価格競争にならないという。そうしたビジネスを実現するには、国内外での地道なネットワークづくりが不可欠である。

百貨店の売り場で最後まで残るのは、高級衣料、高級雑貨等のファッション分野と、あとはデパ地下だと思うのだが、デパ地下の食品というのは、当然にどこにでもあるものばかりではダメである。そこにも目利き力が期待される。

群馬県高崎市の1店舗しかない「スーパーまるおか」も同じ雑誌に紹介されていた。とにかく「Wedge」11月号は僕にとっては久々の大ヒットなのである。

「まるおか」は、地方の1店舗だけの食品スーパーであるにもかかわらず、全国各地の生産者を行脚した選りすぐりの「おいしいもの」だけを提供している。厳選して仕入れた商品だから決して安売りをしない。消費者に商品の「価値」を理解してもらうための手間を惜しまない。手書きの貼り紙やポップで商品の付加価値やストーリーを伝える。

「エクスペリサス」「スーパーまるおか」のやっているようなことは、百貨店にも真似ができることである。というか、「目利き力」に基づく「提案力」という文脈で考えると、百貨店がそのコアコンピタンスに基づいて果たすべき本来の役割であるとも言える。

こういうことに真面目に取り組もうとせず、単なる場所貸し業、消化仕入だけのノーリスクな商売だけに馴れてしまっていると、自分たちのコアコンピタンス自体を放棄することになってしまうであろう。


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