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【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第26話

第26話

辺りは混沌としている様にも見えた。

チカチカと黄金に輝くクラゲが大群でいて幻想的かと思えば、異様な顔つきの薄暗い深海の生き物もいた。

何もかもが目新しかった。

けれど、海の生き物からすれば、僕たちの存在なんて……ただ人魚が増えただけ。見向きもされなかった。

海の生き物の中には、僕の体の何十倍もの大きさのものもいた。

未知の世界に、正直、心が踊った。

僕は今まで、何か刺激を求めていたのだろうか。
恐ろしげに見える巨体の生物にも、ドキドキして興奮していた。

僕のそばには美しい彼女がいる。
僕には彼女の存在しか無かった。

何も持っていないが、何も持たなくて良いという解放感さえあった。
多くの物に囲まれているより自由を感じた。今まで、沢山の事を知っているつもりでいた。けれど、世界はこんなにも無限に広がっていた。
 
親も、友達も、仕事も、家も何も無い。
時計も無い海の中は、時間さえも捉えておけない幻想の様なものにも思えた。
本当に過ぎ去っていくものなんてあるのだろうか。
過ぎ去ってしまったものなんてあったのだろうか。
僕たちに確かにあるのは、ただ、目の前に映るその景色だけだった。
 
人魚の生活は、僕が前にいた世界の妖精の生活と似ていた。

僕たちは空腹になることが無かった。お腹が空かない。
僕たちは水を口から取り込む、そこから何か栄養をとっているのかもしれない。
僕たちが通った後の水はたちまち綺麗になった。
妖精の呼吸と一緒だ。
妖精がただ息をするだけで、木々や花々は美しく育ち、汚れた空気は澄み渡る様に綺麗になった。
こちらの世界で妖精と似た様な役割をしているのは人魚なのかもしれない。

人魚のお陰か、この世界も幻想的で美しかった。

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