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【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第19話

第19話

僕は時々、今まで夢を見ていたのかと思う。僕しか覚えていない、妖精と一緒に過ごした世界。
とてもリアルな夢だ。
現実であったはずなのに、今この場所と世界の常識が違いすぎて遠い昔の様にも感じる。確かに生きていた世界のはずなのに。
細やかな記憶が欠け始めている。

妖精のリリーに出会った日はどんな日だったのか。
あの時の彼女の美しさは印象的で鮮明に覚えていた筈なのに。
何故だか所々しか思い出せなくなってしまった。確かにあったはずの日常。

自分自身もどんな人間だったのか。
何かに常に追われていた気がする。
価値の証明と同じ事なのかもしれない。

もう僕は、あの頃の僕とは全然違っていた。


——僕は、自由だ。


そうして1ヶ月ほど経った日、リリーがやって来た。
「ジャン!! いつになったらお手伝いがあるの?」
リリーは少し怒った様子だった。何かに焦っている様にも見えた。
「しばらく、お休みだよ。今はやる気にならないから」
「そんなこと言っていて大丈夫なの? そろそろ精算の時期だよ」
 
「……精算って?」
僕は、ゴロリと寛いでいた体勢から起き上がってリリーに尋ねた。
「精算だよ。私、人面魚になるのは嫌」
リリーは今にも泣き出しそうだった。人面魚? 精算? 一体何のことだ?

「人面魚にはならないよ」僕はリリーを慰めるように言った。
「ダメだよ。なっちゃう! だって私は役に立たないから。ジャンは大丈夫でも、私はなっちゃう」
「どう言う事?」
「私、役に立つことが無いから、お食事とか節約していたの。ジャンがいつもお店を閉めているから他にもお手伝いが必要な人がいないか出歩いてみたけれど、精算が近いからみんな人手は足りてて……」
「何の精算が近いの?」
「価値の精算! 私、最近は何も価値を生み出していないわ。なるべく価値は受け取らない様にしてきたけれど、きっとそれでも生み出したのもより、使った価値の方が多いわ」
「多いと、ダメなの? 何かあるの?」
「だから! 人面魚になっちゃうの! クレムおじさんだってそうでしょ?」

海で一瞬、目が合った人面魚の顔が頭をよぎった。
どこかで見たことがある気がした。
まさか……。

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