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売れたことのないビジネス書作家が考える売れるビジネス書の書き方

はじめに言っておくと、僕は売れたことがない。
というか、このたび、初めてビジネス書出版を経験する、新米著者だ。
そんな新米著者が、どうにかこうにか出版まではこぎつけた。
販売されれば気になるのは、売り上げた。
そんなことをいろいろと考え、調べる中でわかったことがある。
すると、売れる本は、売れるようにできているのだ。

たぶん、8割くらいは発売前に決まっている。

そんな気付きを、これからの著者のために共有したいと思う。
繰り返すが、僕は売れたことのない新米著者であり、
出版業界に根城があるわけでもない。
ただ出版業界を覗き見した程度の人間であることを強調しておきたい。

もしかしたら「そんなのあたりまえじゃん」と思うようなレベルの内容かもしれないという前提であるし、正しいかどうかも怪しい。

このことに同意した人のみ、次に進んでほしい。

売れるビジネス書の条件

売れるビジネス書には売れる理由がある。
そしてそれは、実は本の中身の問題ではないことのほうが多い。
いくらうまい文章でも、いくらいい内容でも、売れることもあれば売れないこともある。それよりも最も大事なことがある。

それは、著者が有名であることだ。

何をおいても、最も売れやすいのは有名人が書いた本である。
このところ芸能人がビジネス書を書くケースがしばしばある。
中身の濃いものもあれば、まったくそうでもないものもある。
けどそれらは、そこそこ売れているようだ。
劇的なヒットにはならないまでも、一定数は見込めるという意味では出版社もリスクは少ない。

芸能人でなくとも、故船井幸雄先生や、大前研一先生、神田昌典先生などの大御所は、書けばとりあえず一定数は売れる。いや、表紙にその名前が載っているだけで売れるのである。

売るためにできる事

これから本を書きたい、という人がいるとする。
それなりに出版にこぎつけたいし、出版する以上は売れたい。
そう考えるなら、まずは有名人になれ、ということになる。

テレビに出る、ブログやTwitterでバズる。
ニュースになる、YouTubeで話題になる。
なんでもいいから、とにかく顔を売れ。
誰もやらない変なことをやれ。

極論を言うなら、たとえ犯罪者であっても、有名ならば売れる本が出せるのだ。

有名になる。
これがおそらく最も確実な「売れるビジネス書」を出版する方法だ。

あなたにはどんな物語があるか?

次に重要となるのは、あなたのプロフィールだ。
そこにドラマがあれば、一躍、ベストセラー著者になれる可能性がある。

たとえば、『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(モカ)なんかはもはや人生がドラマだ。
性転換手術を行い、創作活動に思い詰め、5年計画でビルの屋上から助走をつけて飛び降りた。なのに目が覚めるとそこには現実があり、「自分は自ら死ぬことはできない」と実感した。
結果、彼女は人のために生きようと考えたそうだ。
プロフィールを読んだだけで、一冊の本を読んだほどの物語がある。

もう一人例を挙げれば、『余命3年 社長の夢 ~「見えない橋」から「見える橋」へ』(小澤 輝真)もインパクト大。
7年前に余命10年と宣告され、命の残りはあと3年。著者はその3年でやり遂げたいことがあるという。
この本もまた、著者のプロフィールだけで十分すぎるインパクトがある。

きっと、あなたにも僕にも、それなりの物語はあるはず。もしこの二人と張り合って負けないレベルのインパクトがある人生なら、万歳しよう。きっとあなたの本は売れる。
しかし僕には残念ながら、それほどの物語がない。
いろいろ悩んだこともあったけど、彼らの話と対比するとあまりにも自分がちっぽけに見えてくる。
そして多くの人は、僕とおなじ側に立っているのではないだろうか。

何を書くかより誰が書くか

ここまで見てきたとおり、ビジネス書なんて所詮、何を書くかより誰が書くか、だ。ハッキリ言って、いろんな伝え広めたいノウハウはあると思うけど、たいていの物は類似品が出回っている。奇をてらった「逆張り」だって、はじめは注目されるかもしれないけど、長くは続かない。

となるとあとは、「それなりに素晴らしいノウハウ」や「研究知見」をを際立たせる、やはりプロフィールが大事になってくる。「こんな苦しい思いをしたから研究に没頭し、ついにこんなノウハウを開発した!」というパターンである。

ここでもやっぱり、誰が書くかが重要になってしまう。
そういう意味では、書き手の人格が見えない本は相当苦戦する可能性が高いと思われる。ビジネス書だから、理論を買うイメージがあるけど、実際の購買層の多くは、理論よりむしろ情動で動いている。

そんな気がするのだが、いかがなものだろうか。

次に大事なモノ

有名人でもない、取り立てて人生の物語も持っていない。
ならば「中身勝負だ!」となるかと言えば、たぶんそうはならない。
考えても見てほしい。
あなたが、「素晴らしい中身だった」と人に勧めたことのある本が一体どの程度あるだろうか。
さらには、あなたの勧めに応じて、その人がその本を買ったであろうと思えるケースはどの程度あるだろうか。

当てて見せよう。
おそらく、あなたの人生の内で、人に勧めた本は5冊に満たない。
そしてその本を勧められた相手が、「ぜひ買ってみるよ」と素直に買ったのは2人いればいいほうだろう。
誰も人に勧められたものなんて買いたくないものだ。
しかも、ビジネス書を読む人は、ある意味においてガンコだ。
他人の意見なんて聞きたがらない人が多いもの。

おっと、話を元に戻そう。
何が言いたいかというと、多少中身がよくたって、口コミは起きない、ということだ。

口コミの起きやすいのはどんな本かと言えば、たとえば『妻のトリセツ』(黒川伊保子)のように「そうそう、そうなんだよ!どうしてわかるんだ」という誰もが心の奥では感じつつ言語化できていないあるある話を的確に表現した本である。

こういったバズを起こせるのはまれだから、あえて言う。
中身より、表紙である、と。

出版社の本気度やいかに?

この辺りで大事になるのは、出版社の意向だ。
まずは出版社の規模によって、プロモーションにかけられるルートや金額が変わってくる。出版社の規模だけではない。同じ出版社内においても、出版社の中での優先順位が生じる。

すでにヒットを連発している著者の作品のほうが、新人著者より重視されるのはほぼ間違いがない。なぜなら、リスクは少ないし、著者との契約も著者に有利なことが多いので、出版社としてはたくさん売らなければ元が取れないという事情もある。

どっちにしても、出版社とはある程度いい関係を築いておいて損はないとは思うものの、新人の場合は過度な期待もしないくらいがちょうどいいのではないかと思う。

注意を惹きつける表紙

自分が売れていないなら、大事なのは自分が生み出した作品が本屋を通り過ぎるお客さんを「ナンパ」してくれることだ。
つまり、「ん?」と顧客の目を惹きつける装丁が重要となる。

たとえば、神田昌典先生の『あなたの会社が90日で儲かる』という本は通称「ピンク本」と呼ばれている。なぜなら、表紙がショッキングピンクだからだ。

今でこそ珍しくもないが、当時はビジネス書と言えばしろやくろや紺。そして丁寧な言葉を使って書かれていた中で、この本はピンクの表紙に口語体の中身。この場違い感に人はつい目を止める。

『アテンション』(ベン・パー)を引くまでもなく、まずは消費者の短期的注意を惹きつけなくてはならない。つまり「見つけてもらう」必要がある。
そのことを私はこの節の冒頭で「ナンパ」する、と表現した。


「ねーちゃん、茶ぁ―でもしばきに行かへん?」と声をかけなければ、人は振り向いてくれない。本も同様で、声は発しないものの、視覚で「俺はここに居るよ」と主張しなければならない。

その際に必要なのが、神田先生が試した場違い感。
最近は、ビジネス書コーナーにマンガを多用した表紙があったりするのはその流れの1つであろう。

ナンパした相手を引き込む仕掛け

装丁で人の目を引き寄せたらこんどは、本を手にとらせなければならない。
その仕掛けが、タイトルや、まえがきということになる。
まあこの辺りになってやっと、著者の能力が多少問われる部分が出てくる。
とはいえ、タイトルは著者の思いどおりになるとは限らないようだけど・・・。

まとめ

まとめてみると本が売れやすい優先順位は、僕の見立てによると

1.著者が有名か否か
2.著者のプロフィールに人を引き込むストーリーはあるか
3.出版社の本気度があるか
4.装丁は目立つか
5.タイトル、まえがきは、想定読者を引き込むものになっているか

ざっくりこんなところではないかと思う。
もちろん、他にもたくさんの要素があると思うし「たまたま」売れる本もある。

しかし、出版の経験のない著者は、中身の良さをアピールしたがる傾向がある。残念ながらその中身は、調べてみると過去に似たような考え方を発表している人がたいていはいるものである。それでも新しい本を作り、発表し、売るためには、かつて誰かが行っていたことを誰が言うかが大事になってくる、というのは割とリアリティのある話だと思う。

じゃあ、有名でも、すごいプロフィールもなければこの世界では通用しないのか?というと必ずしもそうではないと思う。何かをやり続けることで、実を結ぶことは必ずあるはずだ。

だから今できることがあるとすれば、今そこそこ掘り下げているものをもっと掘り下げ、その過程を社会と共有していくことが大事なのではないかと思う。それが有名になるきっかけにもなるし、未来のプロフィールを作ることになる。案外、地道な努力こそが、もっともショートカットできる道なのかもしれない。

急がば回れ。
先人の知恵は伊達ではないようだ。


売れない作家の私が家業を継ぐ、二代目、三代目のための本、出版しました。


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