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『スパイの妻』のウラバナシ(1)

 いよいよ発売となりました、NHKBS8Kスペシャルドラマ『スパイの妻』の小説版でございますが、既にお手元に届いた方もいらっしゃるでしょうかね。

 noteでは、思いついた時に自著についてのウラバナシなどさせていただいているのですけれども、今回については「映像作品のノベライズ」という僕自身初めての経験だったものですから、感じたことから苦労話まで多々ありましてですね。今後、時間を見ながらちょこちょこお話していこうかなと思います。

 第一回目は、お仕事を請けるまでのウラバナシ。

■本来、僕のところに来る話ではなかった?

 今回、講談社の担当編集さんから「こんな仕事あるんですけど」というお話が来たのは昨年の夏くらいのことだったのですけれども、実は、『スパイの妻』ノベライズのお話をいただく前に、別件で他作品のノベライズのお話をいただいていたのですよね。

 お仕事ならなんでもやりますよ!というスタンスでお請けしていたんですけど、スケジュールの調整などし始めたくらいで、そのノベライズのお話が諸事情により頓挫いたしまして。まあ、そういうこともありますわね。じゃあ、次にまたそういう話が来たらお声がけくださいねー、なんて言っておいたら、びっくりするほどすぐに来たのが『スパイの妻』ノベライズのお話。なんと、黒沢清監督作品と聞いて二度びっくりですよ。内容は、第二次世界大戦の最中、1940年頃の日本を舞台に、男女の愛憎を描くラブ・サスペンス、とのこと。
 
 ただ、たぶん僕の他の作品を読んでくださったことのある方ならわかると思うんですけど、僕ときたら、「男女の愛憎」「ラブ・サスペンス」「ピカレスク・ロマン」などとは程遠いもん書いてるんですよ。だいたい、頭がぶっ壊れた変態キャラが出てきて、ポンコツ主人公が振り回される、みたいな話が多くてですね。出来上がった本の帯を見た友人に、「君が……、ラブ・サスペンスかい……?」と失笑されたくらい。

 その前のノベライズのお話が頓挫していなかったら、講談社さんも「この作品を行成薫に持っていこうぜ」なんていう発想自体湧かなかったんじゃないかなあと思うんですけどね。(たぶん)気を遣っていただいた結果、僕が普段書かないジャンルのノベライズのお話が来ることになりました。僕じゃなかったら、どなたが受けてたんだろうね。違う方が書いてたらどうなったんだろう、というのも興味がありますが。

■主演のお二人の話

 さて、ドラマ『スパイの妻』の主演は、福原優作役の高橋一生さんと、その妻・聡子役の蒼井優さん。

 僕がお話をいただいた時点でお二人の出演は決まっていたようで、企画書にどかんとお名前(写真付き)が載っていたわけですよ。昨年夏のお話ですから、ちょうどね、蒼井優さんが南キャン山里さんとご結婚されたのが話題になった時期で。僕はもともと山里さんのファンということもありまして、なんて旬な方が、、、と嬉しくなる一方、「この話、NHKさんガチのやつじゃね?」とちょっと腰が引けましてね。
 いや、そりゃ作るもの全部ガチだとは思うんですけど、ガチ度合い、みたいなもんあると思うんですよ。朝ドラとか大河とか、ああいうのはNHKさん的ガチの極みみたいなやつで、『スパイの妻』もかなりそっち寄りなんじゃ、、、みたいなね。黒沢清監督に、蒼井優さん起用ですからね。その上、NHKBS8Kオリジナルですもん。ただドラマを作るというだけじゃなく、8K放送普及の起爆剤と考えていらっしゃるんだろうなあ、というね。

 で、もうおひとかた、高橋一生さん。実は、僕はあんまりテレビドラマとか見ないもので、高橋一生さんという役者さんを認知したのが、「シン・ゴジラ」を観に行った時なんですよね。2016年かな。劇場で観ていて、あれ、誰この役者さん、独特の雰囲気があっていいよねえ、なんて思いましてですね。巨災対のシーンは市川実日子さんもよかったんですけど、一回目観た時は、高橋一生さんがいちばん印象的に残ったなあという。エンドロールで「KREVA」の名前が出て来た時は、いやマジでどこに出てたん、印象ゼロやけども、となったわけですけれども(テレビ放送時に多摩川防衛戦のとこで発見)。

 それで、何気なくツイッターで「いい役者さんだなあ」とツイートしまして。「あの女優さんめちゃかわいい」はあっても、男性の俳優さんを「いい役者さん」なんてあんまり言ったことなかったんですけどね。あ、関係ないけど、石原さとみさんはエグいかわいさでしたね、シン・ガッズィーラ。

 当時のツイート発掘。

 だいたい、僕のこういう普段のつぶやきなんて、数人反応してくれればいい方なんですが、いきなりリツイートやいいねがどどど、といつも以上につきまして。あ、人気ある方なんだあ、と驚いた記憶があります。後に、イセクラなるクラスタに属する熱烈な皆さんがいることを知るわけですが。

 まさか、それから3年後に、主演作のノベライズのお話がくるとは、その時はまだ露ほども思わず。大した縁というわけでもないんですが、自分の中ではちょっとした縁を感じたもので、印象深い記憶となっております。

■「エンタメ」なら自分の仕事、、、かな?

 企画書内容を見るに、話題作になりそうだし、チャレンジングな話でもあったので、是非やりたいなあと思ったのですけれども、ひとつ気になったのは、「NHKさん的に僕でいいのか?」という点でしてね。僕が「やりまぁす!」と言ったところで、「いやお前じゃないだろ」と言われたらそれまでですからね。男女間の心理描写とか、歴史ものとしての描写とか、僕よりずっと上手い作家さんは星の数ほどいらっしゃると思うんですよ。

 が、心配をよそに、NHKさんもOKを出して下さったみたいで。いいんすかまじで、と思いましたけども。

 これは担当編集さんからの又聞きですけど、ドラマ自体は監督の描く純文学的な世界観が大事だが、小説版はそこから少しエンタメに寄せて欲しい、というご希望があったそうで。

 なので、小説版は原作のメインストーリーは踏襲しつつ、ストーリーの「構造的面白さ」や「エンタメ的演出」に重点を置いて、加筆修正をさせていただきました。それはね、一応得意分野と言うか、まあいつもやってることなので、僕の仕事かなあ、なんて。



 と、そんなこんなの紆余曲折ありまして、僕が担当することになりました『スパイの妻』のノベライズ。執筆中もえらいこと壁にドカドカ頭をぶつけることになるわけですが、それはまた次回のお話ということで。




小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp