私の故郷「東京」は、私が知っている東京
引っ越しもしたから「故郷」と明言できる場所はないのだけれど、
小さい頃過ごした思い出の街は、2つある。
1つ目は、麻布十番。
麻布はもともとはおばあちゃんの家なのだけれど、私の父が転勤族で
一家でオーストラリアに移住することが決まっていて
先に父がシドニーへ旅立ち、私と母がおばあちゃんの家においてもらう形で住んでいた。
今は「港区女子」とかいう単語もあるくらいだから、もしかすると
一般的には麻布十番はきらきらしたイメージがあるのかもしれない。
でも、私が思い浮かべる麻布はいつものんびりとした素朴な街で
今でもお墓まいりに訪れると、抱く印象は変わらないなあと思う。
新しいスイーツのお店とか、こだわりのお塩の店ができていて
人はたくさんいるけれど
昔からある有名な焼き鳥屋さんも、そんなに流行っているわけではないのに
ずーっと同じところで営んでいる今川焼きのお店も、
昔と同じような顔をして佇んでいる。
おばあちゃんの家の近くにあったタバコ屋さん。もう潰れちゃったっけな。
大きな毛虫が道の真ん中にうじゃうじゃいて、とっても気持ち悪かった裏通り、今でも春すぎになると虫の死体でいっぱいになるのかな。
私が思う麻布十番は、のどかで、ちょっと田舎なイメージ。
人もせかせかしてなくて、優しくて、ご近所付き合いが濃密だった。
2つ目は、広尾。
10年くらいは住む予定だったシドニー移住が、なぜか1年で終了して
私が東京に帰ってきたのは幼稚園生の頃。
広尾に引っ越してきて最初に感じたのは、外国の人がたくさんいるなあということだった。
広尾も、今はおしゃれな街として認識されていて、住みたいという人も
たくさんいる。いわゆる、憧れの街。
私の父母も、もしかしたらそんな思いで住んでいたのかもしれないけれど、
私から見た広尾は、特別おしゃれでも高級でもない。
と言うより、お金持ちの人やおハイソな場所もあるんだけれど、一方で
都営住宅があったり、昔からずーっと続いている小さなおもちゃ屋さんが
商店街にあったりして、いろんな価値観が混ざっている街のように感じていた。
赤っぽいアスファルトの小学校の校庭や、昔は地元の人に人気のパン屋さんがあった大通り。ちょっと歩くと恵比寿にいけるから、卒業式は仲良しの子と親たちと一緒に恵比寿ガーデンプレイスまで遊びに行った。あの頃は特別おしゃれな場所っていう感じじゃなかったし、緊張もしなかったけど、なぜか今行く方がちょっとかしこまってしまう気がする。
そんな思い出の中にある私の故郷は、すなわち私の東京へのイメージと結びついている。
人がぎゅうぎゅう詰めに押し込まれた満員電車
タワーマンションが並ぶベイエリア
真夜中までギラギラしてる六本木や池袋
「東京」というとそういうものをイメージする人が多いことには、驚きだ。
私が故郷と思っている東京は、多分その人たちが思う「田舎」にとても近い場所。
今住んでいる街も、住みたい街ランキングとかに上がっていたり
お金持ちマダムがいるような場所に思われていて、
THE東京だね〜みたいな表現をされることもあるのだけれど
正直なところ、私が一時期住んでいた三鷹と、ほとんど同じ感じがする。
三鷹に対して抱くイメージは
・自然が多い、のどか
・ファミリーが多いから平和な感じ
こんな感じだと思うのだけれど、実際に三鷹は自然が多くて
田んぼも普通にあって、あんまり高いビルもなくて。
毎日自転車で畑の横を通ると、向こう側に真っ赤な夕焼けがおりていくのが
見えて、いつもそれが幸せだった。
雪が降ればバスが動かなくて駅にもいけないし、帰り道に大きなカエルが
真ん中に寝そべっていて、踏んでしまいそうになったこともある。
夜ともなると本当に静かで、遠くに虫の鳴き声とか、車の通る音が聞こえてきていた。
ああ田舎だなあって感じる瞬間なのだけれど、
でも、今私が住んでいるところだって、正直大差ない。
さすがに田んぼはないし、収穫したブルーベリーとか野菜を売っている無人販売機とかもないけど。
あんまり高いビルもないし、電波塔が並ぶ風景に映える夕陽はとても美しいし、夜は静かで、今だって虫の鳴き声しか聞こえない。
ちょっと遅い時間に帰るとあんまり人もいないし、別におしゃれなカフェもない。
ああのんびりしてるな、って思う。
なんだけれど、ニュースとか文章とかで語られる「東京」のイメージは
どうもこういう感じではないんだな。
もっとがさつで、華やかで、騒がしくて。排気ガスが漂っているような
歩く人の目が死んでいるような、冷たい場所。
そんな印象を受けるんだな。
それ、私が知ってる東京じゃない。
正確にはそういう場所も知っているけど、でも、それが全てじゃない。
私の故郷の「東京」は、もっとずっと違う場所。
だからいつもね、違和感がある。
私は、私の知っている「東京」が、好き。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?