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ピカソの名作ゲルニカに会いに群馬県立近代美術館へ

原田マハさんによる小説「楽園のカンヴァス」ではアンリ・ルソーの支援者として、その姉妹作である「暗幕のゲルニカ」ではメインキャラクターとして描かれていたピカソ。
遅ればせながら最近ようやくこの2作を読了し、まんまとピカソに興味津々となったわたし。
そこで、「暗幕のゲルニカ」内でも触れられていた、ゲルニカのタペストリーが展示されているという群馬県立近代美術館に行って隅々まで舐めるように鑑賞してきたので、その覚書です。

おもしろかったわよー!




ゲルニカってなに?

ゲルニカはスペイン北部、バスク地方にある町の名前です。
スペイン内戦が激化していた1937年4月、フランコ軍(反乱軍・右派)を支援するナチス・ドイツはこの町を襲撃します。
当時パリに住んでいたピカソは新聞上でその事実を知り、ちょうどその頃パリ万博のスペイン館に展示するために準備していた壁画としてこの作品(ゲルニカ)を描き上げました。
ピカソ自身はこの作品が反戦を意味していると名言はしていないし、事実、そこには戦闘の場面が描かれているわけではありません。
しかし、逃げ惑う人、叫ぶ人や馬、牛などが折り重なるように描かれたその絵は、見る者に戦争の不条理や混乱を感じさせるには十分すぎるほどの切迫感があります。

ゲルニカはパリ万博スペイン館で展示されたあと、ヨーロッパ内を巡回し、得られた資金は共和国支援のために使われたそう。
しかし1939年にフランコ軍が勝利すると、ゲルニカは当時ネルソン・ロックフェラーが理事長を務めていたニューヨーク近代美術館(MoMA)に、スペインが民主国家になるまでスペインには返さないというピカソの信念のもと、1981年に返還されるときまで、40年以上ものあいだ「亡命」することとなりました。


ゲルニカのタピスリ(タペストリー)ってなに?

このゲルニカのほぼ原寸大のタペストリーが、世界に3つだけ存在します。
レプリカが作られるに至ったのは、いずれゲルニカが返還されていく未来を思って寂しくなったロックフェラーからの要望があったからだそう。

レプリカとはいえ、ピカソ本人が承認し、いずれも信頼する織り師のジャクリーヌ・ド・ラ・ボーム=デュルバックのアトリエで製作されたもの。
原作はモノクロームですが、タペストリーは11色のウールと綿で織られ、染色方法などはピカソが指示した通りなのだとか。

ピカソが存命中に織られた1作目は、現在はニューヨークにある国連本部に寄託され展示されています。(「暗幕のゲルニカ」は、このタペストリーに暗幕がかけられた出来事から物語が始まる)

2作目はフランスのウンターリンデン美術館。
そして最も1983年に制作された最も新しい3つ目が、我が日本、群馬県立近代美術館に収蔵されているのです。


たった300円で会えるゲルニカ

このようにとても貴重で価値のあるタペストリーを1996年に購入した群馬県立近代美術館。
現在ゲルニカは大人1名300円で見られるコレクション展のひとつとして展示されています。

は?

もう一度言います。
大人1名300円で見られるコレクション展のひとつとして展示されています。
衝撃の安さ。

しかも今やっているこのコレクション展、なかなかの展示数なんです。
群馬ゆかりの作家から、モネやロダン、ムンクなどの名前も。
個人的にはモネの「ジュフォス、夕方の印象」という作品をガラスなしで見られたのがうれしかったです。好きな色ではなかったものの、睡蓮もありました。(余談ですが、直島地中美術館の自然光で見る睡蓮5作が好きです)


ゲルニカを目の前にして思ったこと

お目当てのゲルニカはコレクション展の最奥の展示室に抜群の存在感で鎮座していました。

3.28m×6.8mのタペストリー。
最初の印象は「やっぱりでかい……!」でした。
大きいけれど、描かれている人や動物の数はそこまで多くない。ということはひとつひとつが大きいということ。つまりものすごい迫力があります。

絵からは確かに「絶望」「恐怖」「混沌」「カオス」といった印象を受けるものの、中心部に伸びる光のようなものがあり、その光源を見つめる人だけが他とは違った表情をしているような気がして、ほんの少しの希望も感じました。

牛や人が叫んでいる背景にはテーブルらしきものが見えるので、根底に生活があると言いたかったのかな?と想像してみると、日常が破壊されている感があってピカソの怒りが伝わってくる気がしました。


今年ゲルニカが見れるのは今だけ!

このゲルニカ、実は常設ではありません。
劣化を防ぐため、1年のうち限られた期間しか展示されていないのです。
しかし今年の展示がちょうどまさに今!なう!8月25日まで行なわれています。
これを逃すとまた来年までおあずけ……なんだろうか。
今ならたったの300円でこの名作と対峙することができます。
夏のお出かけの候補にどうぞ!美術館はすずしいよ。

にしても。
国連はこれに暗幕をかけたんだなぁ、誰かの指示で。

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