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【読書】5月に読んだ本 9冊(7作品)

今月の出会いで特筆すべきは太田愛さんでしょう。
なんで今まで読んでなかったんだろうと思うくらい、時間を忘れてのめり込み、あっというまにシリーズ3作品読んでしまってもはや寂しい……。


犯罪者 上下巻/ 太田愛

白昼の駅前広場で4人が殺害される通り魔事件が発生。犯人は逮捕されたが、ただひとり助かった青年・修司は再び襲撃を受ける。修司は刑事の相馬と、その友人・鑓水と暗殺者に追われながら事件の真相を追う。

KADOKAWA

上下巻合わせて1000ページ越えの大長編。読み始めは登場人物と場面展開の多さに怯んだけど、後半からは一気読み。緻密に計算されたプロットに舌を巻いた。太田愛さんの頭の中どうなっているの……。
キャラクター設定もよくて、ページを捲るたびに修司、相馬、鑓水の3人に愛着が沸いていく。第16章はちょっとドラマ的すぎてんんん?となりもしつつ、これだけの壮大な物語の着地点を見たくて読む手が止まらなかった。通り魔殺人、政治と大企業の癒着、闇。逃げても逃げても追ってくる敵。冷や冷や&ドキドキの繰り返しで楽しい読書だった。力のあるものは起こったことを無かったことにできるし、その上に胡座をかくこともできる。はらわた煮えくりかえるけど、それが現実。


幻夏 / 太田愛

「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」毎日が黄金に輝いていたあの夏、同級生に何が起こったのか――少女失踪事件を捜査する刑事・相馬は、現場で奇妙な印を発見し、23年前の苦い記憶を蘇らせる。台風一過の翌日、川岸にランドセルを置いたまま、親友だった同級生は消えた。流木に不思議な印を残して……。

KADOKAWA

犯罪者に続いてすぐさま読んだ幻夏。
徐々に明かされていく真実があまりにも切なくて悲しかった。司法が生む冤罪は、わたしたちが知らないところで山ほどあるんだろうなと愕然とするし、今だって誰かが犯人に仕立てあげられている可能性だってあるのだと思うと背筋が凍る。人が人を捌く限界はもうとっくに超えているのだ。
相馬、鑓水、修司以外にも前作から彼ら以外にも引き続き登場する面々も出てきた。3人のプライベートな時間がちょっと垣間見えるところは、苦しい展開が続く中のオアシスだった。


天上の葦 / 太田愛

白昼、老人が渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指さして絶命した。正光秀雄96歳。死の間際、正光はあの空に何を見ていたのか。それを突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。そして老人が死んだ同じ日、ひとりの公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる停職中の刑事・相馬。二つの事件がひとつに結ばれた先には……。

KADOKAWA

犯罪者では組織と個人、幻夏では司法と個人、そして今作は国家と個人。立ち向かう相手がどんどん大きくなっていって肝が冷える瞬間が何度もあり……。
物語の中に戦争中の日本の様子、戦前に立ち死んでいったふつうの青年たちのこと、女性の命と引き換えにした生き方、新聞記者と検閲者など、当時の事実が次から次へと出てくる。
原爆の被害を軍服を着て防空頭巾と手袋をつければ保護できるなどと言っていたのは有名な話だけど、日本がいかに市井の人びとを大切にしていなかったかがよくわかる。今まで戦争の話は意識的に避けてきたけど、魅力的なキャラクターに先導されて最後まで読み切ることができた。
これは戦争を知る最後の世代からのアラートなのだと思う。


間の悪いスフレ / 近藤史恵

ビストロ・パ・マルシリーズ第4弾。
パ・マルの世界にもパンデミックの波が押し寄せ、苦境を乗り切るためにテイクアウトや料理教室を始めるなど、試行錯誤するおなじみのメンバーたち。
面白かったのは表題作の「間の悪いスフレ」。婚活で出会った男女の本音を言えない中でどんどん進んでいく結婚話に、どちらが先にブレーキをかけるのか。自分が思う間で動かない人を見ると、イライラしちゃうよね〜。わかるー!間の感覚って言って治るものでも、練習してできるもんでもない気がしちゃうけど。
そして被った猫はいつ脱ぐのか問題は永遠のテーマ。


ツミデミック / 一穂ミチ

毒々しい表紙と怪しげなタイトル×一穂ミチ。おもしろくないわけがない。
コロナの中の犯罪が描かれた短編集。
パンデミック渦中のパニックはもちろん、誰かを救うためにできたはずの制度が裏目に出て、一部の人だけが得をしたり、詐欺が横行したりして、結局弱者は傷つくだけ、ということも記憶に新しいだけに、作家の描くコロナの世界はとても興味がある。
いろんな人がコロナを描いているけど、やっぱ人それぞれ表現の仕方は千差万別。
みんな普通じゃなかったあの頃、自分の中ではもはやちょっと風化しつつあるのだけど、ぐいっと引き戻された。


サクラサク、サクラチル / 辻堂ゆめ

教育虐待を受けている染野と、ネグレクトを受けている星のふたりが、親に復讐しようと計画する。
染野が受けているのは教育虐待っていうより、ただの暴力。これだけ虐げられて育ったのに、人のことを思いやれる気持ちがちゃんと備わっていることに感動すら覚える。
みんな自分の家庭が”普通”と思っているのだけれど、それが当たり前じゃないと気づくには、他人と関わってこそなのだと思った。


私が先生を殺した / 桜井美奈

全校生徒の前で一人の教師が投身自殺するというショッキングな出来事が起こる。その後、教室の黒板に「私が先生を殺した」という文言が発見されて――。
一章ごとに視点(語り手)が変わり、先生が死を選んだ真相が少しずつ浮かび上がってくる。少しずつ張られていた伏線(小骨が刺さったみたいな違和感)が回収されていく気持ちよさを味わえる系の作品。
大人になった今ならわかるけれど、先生も人間だから聖人君子じゃないんだよね、という話。


6月に続く。

最後まで読んでいただきありがとうございます。よければまた、遊びに来てください。