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焙煎士らしく、ボクの考えるローストの話をしようかと。

ボクがコーヒー焙煎(ロースト)を始めたのは、大阪のHIROコーヒーで焙煎士として働き始めたことから始まった。
今から28年も前の話になるのですが、その当時は自家焙煎店が急激に増えてきた時期であった。
それまでは、大手ロースター(UCCとかKEYコーヒーとか)が喫茶店にコーヒー豆を卸すことがほとんどだったのだが、小型焙煎機メーカーが登場してきたことや、コーヒー生豆を問屋さんが卸し販売をしてくれるようになってきた背景があったことで、その自家焙煎珈琲店が増えた時期だった。

大手の焙煎機は大型の熱風式(100kg以上の釜)がそのほとんどで、自家焙煎での小型の釜は直下式や半熱風式と呼ばれるもので、1kg〜30kgくらいの釜が自家焙煎店では使われることがほとんど。
その当時のHIROコーヒーでは直下式の3kg釜と10kg釜、半熱風式の60kg釜の3台で業務をしていた。

熱風式の特徴としては、種子由来の植物性のフレーバーが抑えられクリーンに仕上がるのに対して、小型焙煎機の直下式や半熱風式では、ローストのフレーバーが登場しやすいためコーヒー感が楽しめ、そして熱風式と比べると甘さを感じるローストのフレーバーも長く残存するために、コーヒーが好きな人が好む要素が大きく、直下式・半熱風式の小型釜を使用するこので自家焙煎ブームが起こったのだと解釈をしている。
しかし、その当時日本で流通していたコーヒー豆は、ほぼコモディティコーヒーであり、ローストのフレーバーと種子由来の植物系のフレーバー(ウッディやハーブ感など)は結合しやすいために、その当時の焙煎技術としてはどうしたらクリーンなローストの甘いフレーバーを登場させれるのか?という考え方が大半であったように思っている。
なので、素材を活かすというよりも、素材の劣るフレーバーを抑えながらローストの上品な甘さをどう表現するのかという味づくりだったように思っている。いわゆる飲み易いコーヒーである。

なので、その当時の焙煎理論では、長時間焙煎という考え方が主流で、10分以上のローストをして、飲み易いものを目指していたように思っている。
長時間のローストによって素材を活かすという考え方よりも、劣る部分を抑え抜くことで、劣るフレーバーを隠し美味しくするという考え方だ。

そして、ボクが焙煎を始めてから5~6年経った頃に、スターバックスの日本1号店が登場したことで、スペシャルティコーヒーという概念が登場し、その認識が徐々に広まっていった。

そして、スペシャルティコーヒーが少しずつ広がりを見せるくらいの時期にボクは独立をした。
その当時は今のように海外製を含めたいろんな焙煎器が流通している時代ではなかったため、仕事でも使って慣れていた「Fuji-ROYAL」の半熱風式の5kg釜を単独排気ファンを取り付け、2重ドラムとバーナーの本数を増やした改良型を設置した。
その当時としてはスペシャルティコーヒーの対応を考えた焙煎機となる。

しかし、コモディティコーヒーのローストしかしてきたことのなかったところに、スペシャルティコーヒーが介入してきたことで、長時間焙煎で飲み易くするローストから、初めてローストで素材を活かすローストを意識するようになった。
すると今までのような長時間焙煎ではなく、フルーツの酸味を登場させようと考えた場合では短時間焙煎に取り組まなければならなくなり、飛躍的にローストが難しくなっていき、当然ながら焙煎理論も再構築しなければならなくなった。
そして仕入れの目利きが焙煎に直接繋がるため、仕入れはとても重要な役割であることに気づき始めることになった。

そんな取り組みを15年ほど続けているとロースト目線のテイスティングのスキルが向上してきたことで、ローストの成り立ちが徐々に理解できるようになってきた。
するとコーヒーで登場しているフレーバーには、素材から登場する種子由来の植物系のフレーバーとスペシャルティランクだけに存在している素材由来のフルーツの酸とフレーバー、そしてロースト由来のフレーバーの3つのフレーバーで成り立っていることに気づくようになった。

直下式や半熱風式の焙煎器では、素材から登場する種子由来の植物系のフレーバーはローストのフレーバーと結合しやすい特性があるため、どのようなローストを施せば、素材から登場する種子由来の植物系のフレーバーを抑えながら、素材由来のフルーツの酸とフレーバーを登場させれるのかがローストのテーマとなっていった。

特にボクが扱う焙煎機はローストのフレーバーが登場しやすい傾向にあるため、素材から登場する種子由来の植物系のフレーバーも登場しやすくなってしまうため、焙煎技術でそこを解決することがとても困難を極めている。
そのため海外製の蓄熱性が豊でローストのフレーバーがクリーンに登場し易い焙煎機に乗り換えるショップが増えていった。
しかし、ボクは「まだこの焙煎機を使いこなせてはいない。」と、この焙煎機のポテンシャルを見抜くことも、ボクの焙煎のスキルをもっと向上させることも成せていなかったため、そこを目標として取り組むことにした。

そして、とあるチョコレートと出会った。
そのベルギー王室御用達のチョコレートのローストの美しさに、ボクの手がけるローストの未熟さを痛感すると共に世界の壁の高さを理解し、そしてそれは新たな装置を設置するための決意を決めた出会いでもあった。
そして新たに設置を決めた装置が、排気ファンのインバータ制御であった。
同時に大型排気ファンの交換とインバータ制御の装置の改良をしたのだ。
そのチョコレートとの出会いがあったことで、ボクは次のステージへと進むことができたのだ。
その出会いに気づける感覚が備わっていた背景があることを忘れてはいけない。
そして、それから数年後にJCRC2018(ジャパン・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップ)と呼ばれる焙煎の競技会で予選を通過し、日本3位になったのだ。

結論から述べるとスペシャルティコーヒーの素材を活かすローストを施す場合では、排気風量が大きいこと、そして蓄熱性の豊な焙煎機ではない場合では、クリーンなローストを施すことに限界があるため、ダンパ装置だけではクリーンなローストのフレーバーのコントロールは難しく、ダンパ装置とインバータ装置の2つの装置を併用することで、季節の移ろいによる大気の熱量の変化を感じながらクリーンなローストを施すことが可能になる。
なので焙煎機によって異なる、「蓄熱による放射(輻射)」と「熱源による伝導熱と対流熱」のバランスによって、焙煎のダンパ装置とインバータ装置の設定は変化するものだと考えている。

味づくり的には、コモディティランクの豆を使う場合では飲み易くするため、それほど焙煎機のポテンシャルを追求することをしなくても対応できるが、スペシャルティランクの豆を使う場合では、豆の個性と良質さを登場させる味づくりをすることになるので焙煎機によって異なる熱伝導のバランスがダイレクトに味づくりと連動しているので、どういった味づくりをしたいのかで焙煎機は選ぶ必要性がある。

そして焙煎技術としては経験上で述べるのだが、理論や理屈は頭の中で組み立てられた妄想の類いの根拠のない架空のものであるため、理論や理屈は検証しなければ使い物にはならない。
実際にその理論や理屈を用いたローストを行い、カッピングによりその理論や理屈を検証する。
そしてそれがどのように変化したのか?をカッピングにより感覚として感じ取り、その設定が持つ味づくりの意味を、設定のひとつずつ理解していく作業が焙煎技術であるのだと思っている。
それを積み重ねることで、複数の設定を同時にどのように動かすことで、思い描いたローストに近づいて行けるのかを取り組むことが焙煎なのである。

そして今年になって気づいたことであるが、焙煎は生豆によって活かされ、生豆は焙煎によって活かされている。
この深い事実とその意味が理解できると、仕入れの重要さがローストのすべてであることも理解をする。
ローストと仕入れの関係は、繋げて考えなければならないことなのだと。
それがクリーンカップの持つ本質の意味である。

ボクも2018年のJCRCの決勝大会に向けていろいろとその当時の流行りのローストをいろんな人から聞かされた。
GP(ゴールドポイント)であったり、デベロップメントタイムのことであったり。
化学的な考え方からのアプローチの理屈であり理論であるのだが、ボクが決勝に進んだローストはそのようなローストを施してはおらず、そして今から考えると予選の課題豆のポテンシャルに助けられた背景があるのだが、ローストはその課題豆によって活かされ、課題豆はローストにより活かされたからこそ予選を通過できたローストだったことに数年後に気づかされた。そしてその当時のローストの真意を理解することにつながった。

そこから学んだことが、素材であるコーヒー生豆のクリーンカップの本当の意味と、ローストのクリーンさという2種類のクリーンさ(透明感)をローストで求めることである。
そこに焙煎は生豆によって活かされ、生豆は焙煎によって活かされている。
という素材と焙煎の深い繋がりが見えてくるのだ。

そのためには、仕入れによるCOE評価目線のカッピングスキルとローストにおける味づくり目線のカッピングスキルの2つの異なる目線のカッピングスキルを身に付けなければ、焙煎と生豆が共に活かされることはない。
残念ながら、現在の流れの中にあるローストの理論の中には、ボクが取り組んでいる焙煎の論理(ロジック)は当てはまらない。大枠での理論は存在するが、最終的には感覚によって味づくりをしているからだ。
その感覚での味づくりは、ローストされたコーヒーをカッピングし、そのカッピングからローストの設定を割り出すと言う手法である。シンプルであるがゆえに、とても難しいのだ。

ローストのフレーバーは茶色であるが、茶色の特性はマットな透けない色になりやすいので、ローストのフレーバーを透ける茶色にしなければならない。
ローストのフレーバーが透けることで、背景に存在している酸味や素材のフレーバーの美しい色彩が登場するようになるからだ。
しかし、ローストのフレーバーを透けるようにすると、今度は液体の粘性やボリュームが穏やかになってしまう。
その穏やかになってしまうボリュームや粘性をどうやって膨よかに豊に登場させるのかがローストにおける真骨頂なのだと考えている。
そのために必要な要素が素材のクリーンカップなのである。
それが無い豆では、相反する味づくりを成す術は無いのである。
そして良質な素材の酸味を明るくフレッシュな色彩が登場するようなローストの彩色を施すことを同時にすることである。

そのためには、本当の意味のクリーンカップを理解し、そういう豆を判断できる感覚が無いことには、良い仕入れができないし、ゆえに良いローストはできない。
だから作り手は、テイスティングを真剣に学び、良質な素材を仕入れるために努めなければならないのである。
これはコーヒーに始まったことではなく、すべての飲食に当てはめることができることである。

良い仕入れから、すべてが始まっている。
それが、始まりの一歩であり、それがすべてでもある。





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