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ローストの難しさは、季節の移ろいにある。

冬には日が傾き影が伸び、日常の風景に黄色が混じる。
音が届かなくなり、空気が澄むから鳥の鳴き声や遠くの景色までキレイに見えるようになるのだ。
日常の中の美しさを再認識する反面、焙煎士はローストで頭を悩ませる。

焙煎士の取り組む味づくりにおいての難しさには、季節の移ろいが関係している。
それは、気温の変化はそのまま豆に与える熱量の変化を意味しているからである。
コーヒーの味づくりでは、ローストによって味わいのバランスを整えることが求められるため、季節の移り変わりに合わせて与える熱量の設定を変える必要性があるためである。

酸味と甘さのバランスは、ローストのバランスであるからであるが、それは酸味のフレーバーと甘さのフレーバーのバランスでもある。
そしてそれは、質感を含むバランスでもあるからであり、それは余韻までを含むバランスでもあるためである。

このローストの難しさは、実際に仕事として焙煎に携わるものでなければ理解し難い難しさであるのだと思っている。
だからこそ、抽出で味を整えるバリスタという職業が存在するのも、ローストの難しさゆえである。

しかし、難しいからこそ面白いものでもあるのだ。
その通年を通してバランスの整ったローストを施せるようになるために、ローストのロジックを日々考え、一歩ずつ成長していけるように学ぶのである。

そのためには、ローストの成り立ちを知る必要性があり、それと同時にローストの良質さと素材(コーヒー生豆)の良質さの2つの良質さを理解するための学びも必要になる。

経験から、勘違いした成り立ちを本質だと思い込んでいると、いつまで経っても真意に辿り着けないので、常に疑う感覚が必要になる。
ローストは、幾つもの設定が重なり合うことで、それが味づくりと成しているので、その設定一つ一つの存在の意味と、設定が重なることでのバランスの意味を、素材と照らし合わせて考える必要性があるために難しいのである。

だから飽きることはなく、そしていつまで経っても本質の余白が残っているところに面白みがある。
難しさを面白みだと思えるようになるにも、10年以上の年月を必要とする。
この仕事は、それに耐えられるかどうかでもある。


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