願いの物語:『ハッピーセピア』『星屑テレパス』の陰陽と、宇宙人の歌【ちょっとだけネタバレ含む】
本記事は、東京大学きらら同好会 Advent Calendar 2023の25日目、最終日の記事です。
メリークリスマスです♪
昨日24日目はくろのすさんの「犬吠埼灯台・出雲日御碕灯台訪問記 -『星屑テレパス』聖地巡礼」でした(2024年1月5日追記)。
12/7の清水灯台訪問紀と合わせてどうぞ♪
トーダイ生のトーダイ記事なんてドーダイってね!
聖地巡礼に役立つ情報が盛り沢山でしたね!
それでは浅間の記事の本文に入っていきます。
この記事は『ハッピーセピア』の第1, 2話と『星屑テレパス』の第1話を比較した後、『星テレ』原作第2巻(アニメ第9話)までの内容に触れています。
『星テレ』の原作2巻(アニメ第9話)を読む(観る)のがまだの方は引き返してください。
まだなのに読み進めたら、宇宙人にキャトルミューティレーション アブダクションされちゃいますよ………?
……宇宙人に見つかっても大丈夫ですか……? ちゃんと読みました(観ました)ね………?
〜〜〜〜〜以下微ネタバレあり〜〜〜〜〜
『ハッピーセピア』
多くの読者・視聴者の心を打ち抜いたきらら作品『星屑テレパス』。
そのアニメが放送中の2023年秋クール、11月27日に大熊らすこ先生の過去作品である『ハッピーセピア』が収録された大熊作品集が刊行された。ページをめくると最初の作品は『ハッピーセピア』である。
『ハッピーセピア』と『星屑テレパス』の物語は特につながっていない。片方を知らなくても、もう片方だけでも楽しい。しかしながら、この二つの作品のはじまりは対照的である。
『ハッピーセピア』の物語は、砂守みなみさんが教員採用試験に落ち、夢破れるところから始まる。中高生の頃から全てを懸けて目指してきた学校の先生であったが、みなみさんは教員採用試験に落ちた人達が仕事をしながら教員を目指す「講師」になるのではなく、民間企業に就職する。
(ちなみに「講師」を一年経て、翌年の採用試験で合格して教員になる方も多い。そこで不合格でも更に翌年受験できる。さらに言えば教員採用試験は各都道府県の公立校の教員になる場合の試験で、私立の学校の場合は各校毎に採用制度がある。なので募集校があれば教採試験に落ちても「教員」になれる可能性はまだある(公立私立で細かな違いはあるが)。
公立私立の共通点として「講師」は非正規雇用ではある。が、生徒から見れば立派な先生の一人であり、基本的にはどちらも教員免許を取得済みなので、「学校の先生」には違わない。……が、私もみなみさんだったら民間企業の就職を考えるかもしれない)
そんなみなみさんが、海果さんたちと同じ高校時代に考えていた「教員になること」とは次の通りである。
正直、宇宙人に会いに行くより遥かに地に足のついた夢である(海果さんゴメン)。 もちろん何が目標となり、何が夢となるかは人それぞれである。しかし生真面目すぎる高校生みなみさんが教員になるのは、周りからすれば現実的で「目標」と言うのが相応しく思える。しかしみなみさんは「遠い夢」だと言い直した。
ここでの「遠い夢」は、コミカルな表現によって「目標」よりも遠い事として印象付けられている。「遠い夢」と言われた聞き手、鳩ヶ谷かえでさんが思い浮かべたのは「宇宙の果てへ!!」とつぶやく宇宙服みなみさんである(『ハッピーセピア』:22頁)。
……私は『星テレ』を思い出してしまった。それは小ノ星海果さんの夢だったような……。ただ落ち着いて読み返すと、海果さんの当初の夢は宇宙人と会うことで、宇宙進出は手段だったような気がする。それが宇宙人の明内ユウさんと出会ったことで、明内さんを生まれた星に帰す目的で再び目指すことになったのだった。
大熊らすこ先生が宇宙服みなみさんを描いた時から『星テレ』の構想を始めていたのかは宇宙人のみぞ知るところかもしれないが、『星テレ』に共通するモチーフが見て取れる。遥か遠いことを願うことである。
他の人から見れば、みなみさんの「教員になる」という夢は「地に足のついた夢」である。しかし叶わなかった。高校生のみなみさんは真に迫る勢いで言っていた。
これまたコミカルな一コマに見えるが、みなみさんに感情移入してみると、中々に本気である。確信してしまっているように見える。
一方で海果さんの「地に足のついていない夢」である「宇宙人に会う」という夢は叶った。流れ星に祈っただけである。………しかし『星テレ』の第一話を読んでみると、海果さんも本気である。宇宙人の存在を確信している。それは読者としては疑いようもない。
必ずしもこう解釈する必要はないが、『ハッピーセピア』のみなみさんが学校の先生という夢に近づかない、家庭教師の先生で止まった一方で、『星テレ』の海果さんは遥か遠い夢のままとはいえ、ロケット同好会会長として着実に夢に近づいていく。仲間が増え、ロケットの仕組みや作り方を学ぶ。二人の願い模様は陰陽である。
(少しだけアニメ化されていない/原作2巻より後のことに触れてしまうが、これくらいはご容赦願いたい。他に海果さんは人前で少し上手く話せるようにもなり、知らない人とも少しずつ話せるようになる)
あるいは、みなみさんは海果さんのようにポジティブに願ったわけではないが、ネガティブにであっても願っていたから、「学校の先生」にはなれなくとも、「家庭教師の先生」にはなれて、かえでさんとも出会えたということかもしれない。この出会いが『ハッピーセピア』の物語を動かす。逆に海果さんは、ポジティブに願っているから前進するが、明内さんの星までは行けないということかもしれない(行く方で応援したいですけどね……? 火星より遠くは難しそうなので……)。
宇宙人の歌
『星屑テレパス』のアニメ9話では宇宙人の歌「spektro」が唱われた。
(正直私は分かっていないが)有識者・SNSに散見される御意見を見ていると、歌詞はエスペラント語らしい。エスペラント語とは、日本語や英語のような、単語や文法が自然に生まれ、また変化してきた言語ではなく、人工的にデザインされた言語である。国際社会での言語の異なる人同士のコミュニケーションを想定して19世紀より作られ続けてきた。
エスペラント語はご存知の通り、地球でのシェア率はそこまで高くなく、少なくとも英語には劣っている。現代では情報技術が進歩し、共通言語がなくても日常生活程度であれば機械通訳・翻訳でなんとかなる。
そんな地球でのエスペラント語であるが、当初はといえば、同じ言葉を持たない人同士が心を通わせるという願いの元につくられた言葉のはずである。聖書文化圏で始まった運動でもあるし、初期の考案者たちには、頭の何処かでバベルの塔の説話もチラついたのではないだろうか。強い願いが必要そうである。そうした言葉の営みが現代まで続き、『星テレ』という作品に取り入れられたのは、エスペラント語が不特定多数の人間の願いの結晶だからではないだろうか。言葉が違う「人」と繋がりたいという願いは、高校生ながら3990円の「宇宙語辞典」を購入済みの海果さんにも共通する(大熊らすこ『星屑テレパス』1巻、芳文社、2020年、11頁。以下では「『星テレ』巻番号:頁数」で略記する)。
エスペラント語の歌詞が演出のための宇宙語代替措置であったとしても、宇宙人の歌にはエスペラント語がピッタリなのではないだろうか。
そのエスペラント語の歌の前後に、『星屑テレパス』の世界で「願う」ことの意味を象徴付ける描写がある。
2巻でロケット大会終了直後、心を打ちのめされてしまった海果さんは、「明内さんを… 宇宙に連れて行くことも… 出来ないっ…」と口にして走り去る(『星テレ』2巻:93頁)。海果さんを追いかけられなかった明内さんは、海果さんとUFOキャッチャーで取ったキーホルダーが輝きを失ってしまったことに気づく。
このキーホルダーの「きらきら」は、明内さんが歌う前に戻ってくる。海果さんが、自分の弱さを受け入れ、願いを口にした時である。
この後、明内さんが自分の星の歌を思い出して海果さんの横で歌う。聴いた海果さんに勇気が満ちてくる。
二人のキーホルダーの(キーホルダーに収まらない)「きらきら」は、「願い」に左右されているのではないだろうか。
『星屑テレパス』の物語は、「願う」ということを、それが何であり、どのようなものなのかを問いかける作品なのではないだろうか。
出典・参考文献
・大熊らすこ『星屑テレパス』(1-4巻)芳文社、2020-2023年。
・大熊らすこ『ハッピーセピア:大熊らすこ作品集』芳文社、2023年。
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