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本書のメインテーマは、データ野球への「アンチテーゼ」である。『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』より序章を一挙公開!

プロ野球選手にもフォローされるTwitterが話題に、SNSで大人気の野球著述家・ゴジキ(@godziki_55) 氏による単行本最新刊、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』より冒頭の「序章」を公開します。



【序章】

 本書のメインテーマは、データ野球への「アンチテーゼ」である。
 細かいセイバーのデータを重視するのではなく、人間的視点での数字を把握し、盲点を埋めていくことが、必要だと書かせてもらった。選手のタイトル争いなどで使われるデータは、基本的な成績の一環として見ていただけると幸いだ。
 データやテクノロジーが発達した現代において、人間が行うものとして必要なのは、データを超えた感動やドラマ、プレーのクオリティだ。
 本書は、データだけではわからないものを、「打撃」「投球」「走塁・守備」「采配・マネジメント」「総合的な部分」に分けて構成した。
 打撃と投球に関しては、今後トップクラスの選手に求められる能力やトレンドから王道へのロジックを紹介。走塁・守備に関しては、データ上ではわからない緻密なプレーや具体的なケースから生み出された必要な能力を伝えた。
 マネジメントに関しては、いい選手を揃えるだけでは勝てないことは自明だ。ただ大谷翔平のようにシーズンや試合を良くも悪くもひっくり返す選手は稀にいる。
 大谷の場合は、2015年と2016年に一人で結果をひっくり返すことが顕著に表れた。2015年プレミア12の準決勝・韓国戦で、圧倒的なピッチングを見せた大谷は7イニングで85球を投げ、1安打無失点で、二塁すら踏ませずに11奪三振のショータイムを演じてマウンドを降りた。
 しかし、そこから悪夢が生まれた。大谷が凄すぎるがゆえに後続の則本昂大や松井裕樹、増井浩俊がことごとく攻略されてしまい、大事な試合で大逆転負けを喫した。この要因は、則本の回跨ぎなども挙げられるが、大谷がバランスブレイカーとして活躍しすぎたために、投手陣が相対劣化した結果と言えるだろう。
 逆に、2016年の日本ハムは、当時磐石だった福岡ソフトバンクホークスに対し、11.5ゲーム差をひっくり返して大逆転優勝を成し遂げた。この優勝にも、布石があり、当時監督を務めていた栗山英樹氏は、大谷をソフトバンクに当てまくり、打線を狂わせた。さらに、有原航平もソフトバンクに当てることで、大谷を野手として出場させることができた。ソフトバンクとしては、日本ハムは非常に戦いづらい相手だっただろう。
 このシーズンに関しては、投打ともに大谷がプロ野球の顔だったに違いない。実績の面から言うと、NPB史上初となる投手と指名打者の両部門でベストナインのダブル受賞を獲得して、文句なしのリーグMVPに選出された。
 さらに、投手としての日本人最速記録となる165km/hを、プレッシャーがかかるクライマックスシリーズのソフトバンク戦で記録した。この場面に関しては、日本ハムナインはもちろんのこと、相手チームのソフトバンクも驚き、苦笑いするだけだった。
 そして、悲願の日本一を賭けた日本シリーズでは、黒田博樹の優秀の美を飾ろうとしていた、広島東洋カープが立ちはだかった。初戦の先発を任されたが、広島打線に攻略されてしまい、敗戦投手となった。その後の、第3~5戦では3試合ともに、3番・指名打者として先発出場して、第3戦では延長10回裏、2死二塁の場面で大瀬良大地からサヨナラ適時打を放ち、このシリーズでチームを初勝利に導いた。そこから、チームは一気に勢いに乗り、日本一に輝いた。シーズンと日本シリーズともに大谷一人が動かしたと言っても過言ではない年になった。
 天は二物を与えずとは言うが、チームスポーツにおいてこのような試合やシーズンを一人で動かせる選手がいただろうか? まさにデータを超えた選手の一人に違いないだろう。これこそが、データだけでは収まらない野球というスポーツの面白さなのだろう。
 また、2006年のオールスターゲームでは、藤川球児が全球ストレートでアレックス・カブレラに勝負を仕掛けて三振を奪ったシーンがあった。あれこそ、データではわかっていても打てなかった、抑えた場面とも言える。
 データが普及したことによって、スポーツもシステム化が進んでいることは否めない。しかし、それが果たして正解かどうかの答えは出ていない。
 野球のプレーにしても同じだ。アメリカのメジャーリーグでは、データ野球が重要視されているなかで、極端なシフトを組む場面もある。統計上の結果からの戦略もあるが、真の一流選手ならば、そのようなシフトにも動じずに、最高峰のパフォーマンスと成績は残すだろう。
 このように、データではわからない面白さや魅力はどこから来ているのか? データ至上主義のなかで対応策はあるのか? 感動やドラマ性とデータはトレードオフなのか?…などなど、尽きない疑問への「答え」にまではたどり着かないかもしれないが、「考えるヒント」を提供できれば幸いだ。
 なるべく丁寧な記述を心掛けたが、若干きつい表現もあるかもしれない。一ファンの視点からの、率直な意見と捉えていただきたい。
 本書を執筆するうえで心掛けたのは、上記のような「データを超えた野球論」をいかに言語化して明確にすることだ。自分自身が多くの試合やプレーを見ていたものを中心に、今持っているすべての知識と感覚を注ぎ込んだ。
 多くの野球ファンの方に楽しんで読んでもらえたら嬉しい。シーズン前のキャンプのお供としてだけではなく、数年後に本書の考察が当たっているか否かを答え合わせしてみるのも一興だろう。
 なお本文にある情報や選手の成績、所属先などは2022年1月10日現在のものである。そして、本書の内容はすべて自分の個人的な見解である。

本書「序章」より

【サンプルページ】



『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』

著者:ゴジキ(@godziki_55)
ISBN:9784862556271
ページ数:200ページ
判型 46判
定価 1,760円 税込
出版社 カンゼン
発売日 2022年2月22日


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