松原始先生最新刊『鳥マニアックス』から試し読み
11月28日から順次書店に並び始める、『鳥マニアックス 鳥と世界の意外な関係』(松原始著)。今回は、発売に先駆けまして”はじめに”を先行公開いたします。みなさま発売をお楽しみに!!
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『鳥マニアックス 鳥と世界の意外な関係』
著 松原始
ページ数 256
判型 四六判
定価 1760円 税込
出版社 カンゼン
発売日 2019年11月28日
はじめに
「鳥のように空を飛びたい」
このナレーションが印象的だったのは、夏の風物詩、鳥人間コンテストであった。子供の頃はかかさず見ていたものだ。だが、私が飛ばしたのは、せいぜい模型飛行機だった。最初は折り紙、それから、ケント紙や厚紙を切って貼って作った紙飛行機。『よく飛ぶ紙飛行機集』は模型飛行機製作のバイブルだった。
そこから動力付きの模型飛行機にも手を出したが、いかんせん、子供の財力と行動範囲ではなかなか、思うに任せない。私の興味は「飛ばす」とか「飛ぶ」よりも、現実の飛行機がどうなっているかに向いていった。だいたい私は昔からメカ好きの傾向がある。『飛行機の図鑑』や『ひこうきのひみつ』を丸暗記し、なぜか小学校の図書館にあった軍用機の開発史や航空戦史の本を読み漁り、『Uコン技術』の連載記事「大空の紳士たち」をむさぼるように読み、学研X図鑑『軍用機』をなめるように読んだ。かくして、今やオタクの端くれである。中二病をこじらせた、などと言ってもらいたくはない。私がハマったのは中学二年生より遥かに前だし、スクスク育っただけでこじらせてなどいない。育つ方向を全力で間違った可能性は否定しないが。
一方、私は生き物にもドはまりした。動物系は全部オーケーで、その中には当然、鳥もあった。後に鳥が中心となったわけだが、そうなると「飛行機」と「鳥」という二つの趣味は、私の脳内で自動的に合体・融合した。私は鳥類の行動や生態を観察するのが仕事であるが、しばしば、メカニズム的にどうなっているのかと(趣味的に)考える。工学の世界には生物の構造をヒントに新素材や技術を開発するバイオ・ミメティクスという分野があるが、それに近いかもしれない。
かくして、私の病は膏肓(こうこう)に入り、カラスの飛行能力を戦闘機を例に説明した末、某音楽評論家に「驚異のこじらせ系」なる異名をいただくに至った。
鳥を「空飛ぶマシン」として見れば、時にその機能は飛行機を上回る。例えば鳥が枝に止まる瞬間を見てみよう。鳥は止まりたい枝より下まで降下し、枝の手前で急上昇に転じる。ここで体軸を立てて羽ばたきながら速度を殺すこともある。そして上昇の頂点で停止し、落下に転ずる。まさにその絶妙なタイミングで鳥は枝の真上に達しており、伸ばした脚で落下をヒョイと受け止め、枝に止まる。
こんな着陸ができる飛行機はない。あるとしたらFFR‐41「雪風」(原作ではなく、OVA版『戦闘妖精・雪風』の方)くらいだ。無理やり空母に着艦した時に、フライトデッキの上をパスすると見せていきなり機首上げ&急減速から主翼を大胆に可動させ、同時にベクタードスラストで機体を支え、そのままドスンと着艦する荒技を見せている。まあ、あの場面で褒め称えるべきは雪風の降着装置の頑丈さのような気もするが。なお、空母から飛び立つシーンはさらに凄くて……。
失礼。知らない人には何かわからない話に熱が入ってしまった。まあ、この本はこういう構成である。鳥に関してややマニアックに突っ込みながら、無駄にマニアックなメカオタ・ミリオタ解説が付く。だが、人間には飽くなき研究開発への情熱と、「体の外部で道具を進歩させ、自分の体の進化の代わりにする」という独特の行動があるのも事実だ。大風呂敷を広げれば、数千万年を費やした自然界の進化と、ライト兄弟からわずか50年で超音速ジェット機を実用化した人間の知恵の対比、といったものだろうか。
いやいや、そんな立派なものではない。これはやはり、とあるオタクの超独り言(モノローグ)とでも言うのが正しいだろう。
松原始 Hajime Matsubara
1969年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。
専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館特任助教。研究テーマはカラスの生態、行動と進化。
主な著書・監修書に『カラスの教科書』(講談社文庫)、『カラスの補習授業』(雷鳥社)、 『にっぽんのカラス』(カンゼン)などがある。
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