恐るべし、元祖教育ママ~孟子の母親の話
孟子は、理屈っぽい。
諸子百家の時代、弁舌で身を立てるのだから、当然と言えば当然だが、
孟子の理屈っぽさは、筋金入りだ。
『論語』を見る限り、孔子は体系的にものを考える人ではなかったようだ。
それに比べると、孟子のものの考え方は、すこぶる理路整然としている。
気分屋の孔子がアドリブで喋ったバラバラの話をちゃんとまとめている。
孟子の弁舌は、説得力があるのだが、よくよく見ると、実は詭弁に近い。
「仁・義・礼・智」の端緒を説いた「四端説」がいい例だ。
論拠を挙げてきちんと論じているのは「仁」だけで、他の3つは、どさくさに紛れて論拠抜きで一気に結論へ飛んでいる。
口調が強引で勢いがあるので、聞いている方は、いつの間にか、ふむふむと納得してしまう。
孟子は、ロジックもレトリックも超一流である。
さて、そんな孟子を育てた母親のエピソードである。
孟子の母親は、教育ママの元祖のような人物で、『列女伝』(漢・劉向撰)に2つの有名な逸話が載っている。
一つは、「孟母三遷」の話。
故事成語として、「幼児教育は環境が重要である」という意味で使う。
もう一つは、「孟母断機」の話。
故事成語として、「学業は途中でやめてはならない」という意味で使う。
さて、「孟母断機」で、孟母は滔滔と説教を垂れる。
そのセリフの全文はこうだ。
息子に有無を言わさず、理詰めで一気に畳み込んでいる。
なんともパワフルで理路整然としたお説教である。
孟子の理屈っぽさは、母親譲りであった。
ちなみに、孟母の話は『三字経』にも出てくる。
『三字経』は、南宋・王応麟の撰と伝えられる学童用の識字教材だ。
孟母の話は、こう書かれている。
――昔、孟子の母は学校の隣を選んで住み、子供が学問を怠ると機の杼を壊して戒めた。
3字 X 4句=12字で、「孟母三遷」と「孟母断機」の2つの逸話をギュッと超要約している。
が、お気づきのように、話が少し違っている。
『列女伝』の「孟母断機」では、織りかけの布をハサミで切っている。
ところが、『三字経』では、なんと織機の大切な部品である杼を叩き割っているではないか!
『三字経』版の孟母は、一段とパワーアップしている。
恐るべし、孟母!
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