風雅な格言集『幽夢影』⑭~「酒は好むべきも座を罵るべからず」
――酒は好きでも構わないが、相手にからんではいけない。
色事は好んでも構わないが、身体を壊すほどではいけない。
金銭は好んでも構わないが、心をくらまされてはいけない。
気概を好むのは構わないが、道理を踏み外してはいけない。
スマートな生き方
中国語には「酒色財気」という言葉があります。
人々が最も好むものであり、同時に最も人に害を与えやすいもののことで、「人生四戒」と呼ばれています。
「酒に溺れること、色を漁ること、財を貪ること、感情任せになること」
を指しています。
張潮は、これらを否定しているわけではなく、また肯定しているわけでもなく、何事も節度を以て臨めば大いに結構、ただ度が過ぎるのは宜しくない、と語っています。
「酒」について言えば、文人であれば誰でも酒を飲みますが、劉怜や李白のように、酔っ払って支離滅裂になったり、慇懃無礼に振る舞ったりというのは、当時の文人サロンでは歓迎されなかったのでしょう。
「色」については、昔は貴族や豪族は正妻の他に側室や妾を持つのが普通でしたし、中国には、古来、男色の歴史もあります。ですから、色を好むこと自体は悪いことではないとしても、身体が持つ程度にしておきなさいということです。
「財」は、道家や釈家は別として、中国では伝統的に世俗的な幸福の指標です。昔の詩人や文人は、多くの場合、職業的には役人であり、役人になれば自ずと富貴と功名がセットになって付いてきます。ですから、みっともなく齷齪するのはおやめなさいということです。
「気」は、理性の「理」に相対するものですから、感情のことを言います。ここでは、覇気、怒気、男気、勝ち気など、逞しい気概のことを指します。こうした心意気があるのは結構なこととは言え、入れ込みすぎたり空回りしたりすると禍やトラブルの元となって厄介です。自分は正しいと思い込んで張り切っている人は、ややもすると傍迷惑でもあります。
『幽夢影』の作者である張潮は、清代初期、文化の円熟した江南に暮らした洗練された有閑文人として知られる人物です。
都会的で垢抜けた文人からしてみれば、「酒色財気」は、ことさら戒めるには及ばないとしても、管を巻いたり、色に溺れたり、欲を張ったり、むやみに気負ったりするのは、田舎臭い野暮なことに見えるのでしょう。
酒は飲んでも飲まれず、色好みは適度に留め、財物には執着せず、主義主張を振りかざさない、という具合に何事も羽目を外さずほどほどにしておくのが宜しいと語っています。
粋な人と呼ばれたいなら、生き方がそれなりにスマートでなければならないというメッセージです。
酒可好不可罵座
色可好不可傷生
財可好不可昧心
氣可好不可越理
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