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「忘れちゃいけない」 記憶を保存する 画家 八澤季実が絵を描く理由

忘れたくない些細な思い出。
大事だったものが、大事ではなくなる瞬間はどこか。
「記憶を保存すること、宝物として残すこと」
この切実な想いは、きみちゃんならではのものだろう。
今回はインスタライブで、"きみちゃん"こと八澤季実が絵を描く理由に迫ったので、内容を抜粋してご紹介します。


今年の目標は「伝える」

江﨑:昨日の深夜、突然きみちゃんに電話をして「芸術家がイメージで表現している価値観や想いを言語化する試みをしたい!」と伝えたら、「じゃあ、明日インスタライブも兼ねてやってみようか〜」となったんだよね(笑)

八澤:自分が表現しているものを言語化して発信してしまうと、伝わりきっているか不安になる。だけど、今年は「伝える」ことが目標!

江﨑:いいね!そしたら、まず何を描いているか教えて貰ってもいい?

八澤:花を描くことが多いかな。ある特定の花を、友達のポートレートのような感覚で描くことが多い。

例えば、夜にアトリエの窓際に飾っていた黄色いカーネーションを見上げた時に、花って月になれるんだなって思ったり、夜の帰り道に咲いている白い花々も星に見えるなと思って描いたりしてる。

「月」
技法:油彩、キャンバス
サイズ:36.0×36.0cm
制作年:2023
「星」
技法:油彩、キャンパス
制作年:2023
ヲルガン座 廃墟ギャラリーにて


去年咲いた子と今年咲いた子は違う

江﨑:ちなみに、絵を描く以外にやってみたいことある?

八澤:画集を作りたい。好きな画集や図録を持っていると嬉しい気持ちになるから。音楽も配信が最近は主流だけど、CDを買っちゃう。

江﨑:何か残しておきたい感覚があるのかな?

八澤:確かに、忘れちゃいけないと思っていることを描くことが多い。描くことが、自分と対象との約束っていう感覚。例えば、大学時代に住んでいたアパートの横に、お気に入りの桜の木があって。

桜って毎年散って、来年にはまた咲くけど、それは同じ桜が咲くわけじゃない。木を命の単位としてみるか、花を命の単位としてみるかという話だと思うんだけど。
去年咲いた子と今年咲いた子は違うから、どちらも忘れちゃいけないって思う。桜にとっても、忘れないでほしいという気持ちがあるんじゃないかと思ったから、「忘れないでね!」というタイトルで絵を描いた。

「忘れないでね!」
技法:油彩、キャンパス
サイズ:P100×2(162.0cm×224.0cm)
制作年:2020


ヒリヒリとした「切実さ」が絵には必要

江﨑:桜に対して「毎年死んでいる」と感じるのは、きみちゃんならではな気がする。

八澤:桜の幽霊の絵もあるよ!これは「ghost」という絵。

アトリエの近くに霊園があって、夜に帰るときは幽霊が怖くて、いつも自転車を飛ばして帰ってた(笑)だけど、悲しいことがあった時に、自分も幽霊に近いかもしれないと思ったことがあって。すごく悲しいことがあると、自分が透明化しちゃう感じがする。そこから、あんまり幽霊が怖くなくなった。

桜の枝を知り合いがくれて、アトリエ飾ってたんだけど、枯れてしまって。悲しかったから、庭に枯れた桜の枝のお墓を作った。そしたら、だんだん桜の幽霊がお墓から戻ってくるんじゃないかと思い始めて(笑)

元々、赤いソファの近くに桜の枝を飾っていたから、自分がいた場所は確認しに戻って来るだろうなと思って赤い絵を描いた!

「ghost」
技法:油彩、キャンバス
サイズ:F4
制作年:2021


江﨑:きみちゃんが、作品を作る時に大事にしていることってある?

八澤:「切実さ」かなぁ。現実と離れたものを描きすぎると「切実さ」がなくなってしまうから、人の心に残らないものになっちゃう気がする。

ずっと蓋をしていたけど、本当は大事にしている思い出を絵にしている。触れるとヒリヒリするけど、その「切実さ」が絵には必要だなと思ってる。

忘れた瞬間に大事だったものではなくなってしまう

八澤:最初の個展のタイトルは「優しい手紙」。昔は絵を、大切な人に宛てた手紙を書く気持ちで描いていた。

「優しい手紙」DM


江﨑:花に何かを投影してるのかな。

八澤:絵を描く時、対象の花に対して「君」と「僕」っていう感覚がある。あの時にあの場所で見た花をずっと忘れられないから、やっぱりあの子は特別なんだろうと思ってしまう。

江﨑:それってどんな感覚?

八澤:忘れちゃいけないっていう感覚。3年経っても忘れていない花は自分にとって大事なものだから、描かないとって思う。もともと記憶への執着が強いのかも。忘れていくことが、小学生くらいからずっと怖い。

江﨑:私は忘れることが怖いと思ったことないなぁ。忘れることで何が起こると思ってるんだろう?

八澤:自分が過去に大事だと思っていたものが、忘れてしまった瞬間に大事だったものではなくなってしまうと思ってる。

だから、変なこともよく覚えていて。この間、つくばに行った時、昔お世話になった先輩が「サイゼリヤのフォカッチャが好き」って言ってたことを思い出した。誰かが「好き」って言ったものは、私にとっても一段特別なものになる気がする。


チューリップの黄色は幸福だと信じる

江﨑:そういえば、「あたらしい神様」というタイトルの個展もしてたよね。

八澤:あの時期は、信仰する宗教がある方が、存在として強くいられるなと思ってた。別に現世で救われたいとか、死んだ後に天国行きたいとかでもないから、純粋に信じるためだけにある宗教があるといいなと思った。だから、黄色いチューリップを神様に見立てた。

江﨑:きみちゃんの神様にはどういう意味があるの?

八澤:信仰は意味ないものにしようと思ってる(笑)ユダの服が黄色だから、黄色いチューリップには不幸な花言葉があって。だけど、自分は黄色は幸福の黄色だと信じたかった。だから、私が信仰しているのは「チューリップの黄色は幸福の黄色だと信じる宗教」。

この時は宗教性を大事にしていたから、アーチ型を神聖なものに感じてた。例えば、星の王子さまがバラを守るガラスだったり、教会のステンドグラスだったり。だから、絵の中でもアーチ型の鏡にチューリップを映り込ませると、なんだか守られているような感覚になる。

「あたらしい神様-Ⅱ」
技法:油彩、キャンバス
サイズ:M50
制作年:2022


絵には木と布が朽ちるまで残って欲しい

江﨑:もし一言で表現するとしたら、きみちゃんは何のために絵を描いてる?

八澤:うーん、宝物になり得るものを作るためかな。

江﨑:それは、きみちゃんが宝物を大事にしてるから?

八澤:確かに収集癖があるかも。石とか貝殻、スーパーボールやビー玉を集めて宝物にしてる。これらを死ぬまで持っていたいと思っていて、誰かにとって自分の絵がそうあってほしい。

江﨑:誰かの宝物を作るために、きみちゃんは生まれてきたのかな。絵を描くことによって、どんな世界を作り出そうとしてる?

八澤:世界に対しては、あまりない。しいて言えば、自分が死んだ後も、絵には木と布が朽ちるまで残って欲しい。処分されたくない。

買ってくれた人が死ぬまで大事に持っておいてくれて、その人が死んだ後も周りの人から大事なものだったんだなって認識されて、家に残しておいて貰えたら嬉しい。

江﨑:あえて、創作活動にテーマを決めるとしたら、どんな言葉になる?

八澤:個展ごとにはテーマがあるけど、全体と言われると難しい。でも、「記憶を保存して、宝物として残す」かも。

「最初の花束-Ⅰ」
技法:油彩、キャンパス
サイズ:F4
制作年:2023


「忘れないよ」っていう未来への約束

江﨑:最後に話しておきたいことはある?

八澤:街の記憶が好き。閉店した理容室の跡地で2週間だけ個展をやったことがあるんだけど、街の人に「2週間だけ謎のギャラリーがあった」っていう記憶が残るんじゃないかって思った。

「あれ?あの理容室って、今はベーグル屋さんになってるよね。でも、あそこって少しだけギャラリーだったような、あれなんだったんだろう」っていう(笑)

微妙な街の記憶を、みんなは忘れるかもしれないけど、私はこっそり覚えておこうって思うし、絵にしたいって思う。

例えば、この街に引っ越してきた時、最初は「レモン」っていうペンキで手書きした看板のお店だったのに、気づいたら印刷した「レモン」になってた。他にも、「カラオケしずか」というお店があって、「カラオケなのに静かなんだ」と思ってたら、「隠れ家」という名前のお店に変わってた。

帰り道のガードレールが歪んでて、歪んでるの面白いなと思って見てたけど、気付いたら直されちゃってたり。誰も気に留めなければ、葬られてしまう記憶だけど、私だけはこっそり覚えおきたい。

江﨑:大事な記憶が、忘れたら大事じゃなくなっちゃうから?

八澤:「忘れないよ」っていう約束を重ねているんだと思う。未来の関係性への保証というか。だから、人にものを貸すのも好き。今後も会うんだなって思えるから。

約束を重ねることで、少しづつ道が作られていく感じがする。

個展「えんどれす」
閉店した理容室しるばあにて



プロフィール

八澤季実 / Kimi Yazawa

1995年 広島県生まれ
2019年 筑波大学芸術専門学群美術専攻洋画コース卒業
千葉県松戸市のアトリエを拠点に活動。
生活の中で出会った愛しいものをモチーフに、油彩画や木版画を制作。

◆受賞歴
2020 「第5回星乃珈琲店絵画コンテスト」準グランプリ
2022「第40回上野の森美術館大賞展 」入選
2022 「IAG AWARD 2022」協同組合美術商交友会賞
2023 「ヤングアーティスト公募展 いい芽ふくら芽 in TOKYO 2023 」美岳画廊賞

◆展示歴
個展
2019 「優しい手紙」「おまじない」せんぱく工舎(千葉)
2020 「アクアマリン」QWERTY・純喫茶若松(千葉)
2021 「新しい神様」rusu(東京) 「conversation piece」純喫茶若松(千葉) 2022「えんどれす」しるばあ(千葉)
2023「プリズム」3108(千葉)

グループ展
2020「Sweet pea」星子スコーン(千葉)
2022「第40回上野の森美術館大賞展」上野の森美術館(東京) 、「IAG AWARDS2022」東京芸術劇場(東京)
2023 「ヤングアーティスト公募展いい芽ふくら芽 in TOKYO 2023」(東京)、「それぞれの窓辺」廃墟ギャラリー(広島)

ポートフォリオ:https://kimiyazawa.tumblr.com/
instagram:https://www.instagram.com/kimi.ei0813/
X(Twitter):https://x.com/810_tamago?s=20


江﨑 可音 / Kanon Ezaki

1995年 香川県生まれ、広島県育ち
筑波大学芸術専門学群を卒業後、姉と和装小物会社を立ち上げ。
株式会社リクルートを経て、RELATIONS株式会社に入社。
2024年現在は「目の前の人と一緒に本当にキラキラしたものを見つけたい」という気持ちで、花言葉屋さんプロジェクトや、アーティストさんのコーチング等、多方面で活動を行なっている。

instagram:https://www.instagram.com/kanon_glico/
X(Twitter):https://twitter.com/kanon_glico
facebook:https://www.facebook.com/kanon.ezaki/

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