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みにくい怪物

ある森に怪物が住んでいました。

怪物はその見た目から、森に住んでいる他の動物達には恐れられていました。

けれども本当は、怪物もみんなと仲良くしたいと思っていたのです。

そんな怪物にも1匹だけ友達がいました。
それは鹿でした。鹿は怪物が本当は優しい心を持っているんだと気づいて、恐れることなく友達になろうと言ってくれたのでした。

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そんな鹿との日々がゆっくりと過ぎていく中で、怪物はもっとたくさん友達が欲しいと思うようになりました。

そして、森で1番なんでも知っている狐に話を聞きにいくことにしました。

怪物は尋ねます。
「狐くん教えておくれ。どうしたらみんな僕と友達になってくれるのかな。」

狐は答えました。
「怒らないで聞いてくれ。僕は君が怖い。それは君の見た目さ。まずその毛むくじゃらの腕。鳥みたいに立派な翼だったなら、みんな君と友達になりたいと思うだろうさ。そしてその大きな足。猫のようにスマートな足だったらなあ。その尖ったツノもウサギのように可愛い耳でも生えてたら…」

それを聞いて怪物が悲しそうな顔をすると、狐は続けました。
「森を北に行った先の洞窟になんでも願いを叶えてくれる魔女が住んでいるらしいよ。一度尋ねてみるといい。」

その話を聞いて怪物はすぐに北に向かうことにしました。
「狐くんありがとう。とても助かったよ。」

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北の洞窟は、暗くてジメジメとしていて、大きな怪物でも縮こまってしまうような雰囲気がありました。

洞窟の奥には、薄暗い光に照らされた魔女が立っていました。


怪物は言いました。
「魔女さん。僕の願いを聞いて欲しい。僕に友達がたくさん出来るように、僕の腕を鳥のような翼にして欲しい。それと猫のようなスレンダーな足。あとはウサギの耳、それから…それから…」

魔女は怪物の話を黙って聞いてから、こう言いました。
「その願いと引き換えにあなたの大切なものをもらっていくことになるが、それでもいいかい。」

怪物はすっかり興奮した様子で言いました。
「いいさ。いいさ。僕にとって大切なことは友達をたくさん作ることなんだ。それが叶うなら、なんだっていいさ。」

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ついに怪物は新しい体を手に入れました。
怪物は早速、その体を見せに鹿の元へ向かいました。

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怪物は言いました。
「どうだい鹿くん。僕はこの新しい体で、たくさん友達を作ろうと思うんだ。素敵だろう。」

鹿は困った様子で言いました。
「それは素敵なことだね。けれども僕は前の君の姿で十分素敵だったと思う。僕は君の心が好きだよ。みんな君ときちんと話せば、前の姿でも友達になってくれると思うんだけどな。」

それを聞いて怪物は腹を立てました。
「なんだい。君は僕がこんなに悩んで、体まで変えたっていうのに前の方がよかったなんて言うのか。君みたいなやつはもう友達なんかじゃない。僕はこれからたくさん友達を作るんだ。君がいなくなったってどうってことないさ。」

怪物は鹿を置いて友達作りに出かけました。

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怪物は出会った森の動物達に「僕と友達にならないか。」と、たくさん声をかけたのですが、みんな怖がって逃げていくばかりでした。

そうこうしていると、狐が向こうからやってきました。

怪物は狐を呼び止めてこう言います。
「狐くん。僕は君がいうように体を変えたんだ。しかし、どうもおかしい。みんな僕を前の姿の時よりも怖がって逃げていくし、気持ちが悪いなんて言葉も聞こえてきたよ。」

狐は大きく目を見開いてこう言いました。
「君は馬鹿だ。体の話はほんの冗談のつもりで言ったんだ。友達が欲しいなら、君はそう魔女に頼めばよかったじゃないか。体を変える必要はないだろう。そんなチグハグな見た目ならみんな気持ち悪がって当然さ。友達なんかできっこない。僕は急いでるからいくよ。じゃあね。」

怪物は呆然としました。
そして少しすると自分はなんて馬鹿なことをしたんだと涙が溢れてきました。

その涙はどんどん広がって、大きな水溜まりになりました。


その水溜まりには昔よりも、もっともっと醜い怪物の姿がありました。

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