愛を知って恋を忘れた

あなたを全てを知りたいの。
私の全てを知って欲しいの。
そんな舌が照れて火傷しちゃいそうなセリフが口から飛び出すから、恋とは恐ろしいものだ。

知りたいの言葉の裏には、自分の思った通りであって欲しいという希望のような執着が含まれているし、知って欲しいの裏には、どんな私でも肯定して欲しいというわがままな欲望が見え隠れしている。

あなたの「愛しているよ」の愛は常に渇いていて、相手からの見返りを求めていたし、思い通りにならない時に出る「死んだほうがマシだ」という言葉は、あなたを通り過ぎて私に深く刺さった。幸せとは2つを1つにすることでしか叶えられないと、混ざり合うことのないそれを無理やり潰して、ぐちゃぐちゃと混ぜた。あなたの幸せは私とでしか叶えられないと、それ以外の幸せを否定し、ひどく嫌った。渇いた二つの心は、お互いに与えるものなどないのに求めあって、ついには形を保つこともできなくなって、ボロボロと崩れてしまった。

恋とはやはり恐ろしいものだ。

私は幸せでありたい。
そしてあなたが幸せであって欲しい。
ただそれだけ。
そこに私の執着もあなたの欲望も押し付けもない。

それが愛だと知った時、私は恋を忘れた。