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【岩手県北上市】鬼専門の博物館「鬼の館」の勇ましくも神秘的な世界

 北上市という街がある。
 岩手県の南部、その名の通り北上川沿にある街だ。

相変わらず雑な図で申し訳ないが場所としてはこの辺り

 最近ではポケモン最新作のダウンロードコンテンツが、この街がモデルと思わしき場所が舞台となっている。

 ここ北上市とその周辺には「鬼剣舞」 (おにけんばい)  という踊りが古くから伝わっており、町の至る所に鬼をモチーフにしたイラストや小さな像がある。
 市民憲章にも町を作り上げた偉大な先祖たちを鬼に喩えて「あの高嶺 鬼すむ誇り」と謳われており、北上市の人々にとっての鬼はマスコット的存在を越えた存在であるらしい。

鬼剣舞のマネキン

 鬼剣舞についての動画は北上市の公式YouTubeチャンネルにも掲載されている。迫力のある勇猛な動きが分かるだろう。

北上市では秋祭りも会鬼 (あき) 祭りとなる

 ここまで書いておいてなんだが、実はそもそも鬼剣舞は「鬼の格好をして舞う行事」ではなかったりする。詳しくは後述。

 そんな鬼の町である北上市だが、最たるものは鬼に特化した博物館である「鬼の館」だ。
 日本全国には北海道札幌市の「豊平川さけ科学館」や栃木県那須町の「大麻博物館」、東京都墨田区の「たばこと塩の博物館」など数多くのニッチな博物館が存在するが、ここも間違いなく超ニッチな博物館の1つだ。

1994年に作られた博物館だそうだ
「にっぽん鬼ッズフェスティバル」という、かつて2月ごろに
行われていた「節分で追われた鬼を迎える」イベントの
モニュメントらしい

 5月中旬から11月の中旬までの雪の少ない期間だけ営業している岩手の秘湯、夏油温泉への道中に「鬼の館」はある。新幹線の停車駅でもある北上駅からは車で15分。月、水、木曜日は北上駅からバスも出ている。
 また、すぐ隣には蕎麦屋もあり食事もできる。

入場チケットがなかなかかっこいいのが
隠れ博物館チケットコレクターとしては嬉しい
中に入ると巨大なお面がお出迎え
そして鬼太郎もお出迎え

 さて、ポケモンの記事でも触れたが鬼の館は小さい子供を連れていく際は少し注意が必要だ。

 こちらの丸で囲ったエリアが少々怖い。
 まず右側の地獄ゾーンは雰囲気が不気味だ。特に他のお客さんが少ない時に行くと、いきなりこれなので苦手な子供は入れない可能性もある。
 一応こちらが入口となっているが、これについては出口側から入ってもいいとのことなので、子供が怖がる場合は逆方向から入ってそのまま戻ろう。

 そして展示室内の3つある変化鬼面。こちらには人が近づくと動き出し、不気味な声を上げる仮面が展示されている
 突然動き出す訳ではないので、動く前にこれから動くことを教えておけば多少恐怖は軽減されるかもしれない。

 以降は入り口側から順番に展示物を紹介していく。

 展示室は小さな鬼のいる門を抜けた先だ。
 このガーゴイルのような鬼は、青森県の津軽地方の一部の鳥居で見られる鬼コ (おにこ) と呼ばれる意匠だ。津軽地方ではこのような鬼コは人々を災厄から守る善良な存在であるとされており、弘前市内には旱魃から人々を助けてくれた鬼を祀った「鬼神社」(きじんじゃ) というものもある。

門を抜けると……
地獄が広がっている
そして早速鬼

 入ってすぐにあるのは「鬼曼荼羅」のコーナーだ。
 鬼の館では鬼を以下の通りに分類しこれを「鬼曼荼羅」と名づけている。

大人 (おおひと)
 自然現象を擬人化・神格化した存在や祖霊などを巨大な人間の姿で現したもの、および先住民族や権力闘争に敗れた者への蔑称。
鬼神
 修験道や神道、陰陽道など中国の古代思想の影響が強いもの。祭りや民俗芸能に登場するものも含む。
餓鬼
 仏の眷属として使えていたり、逆に教えに従わないために仏の懲罰の対象となっている仏教と関連が強いもの。
妖怪
 人間の怨念や動物や植物、或いは無機物が化身したものだが神的な権威よりも禍々しさやおどろおどろしさが強調されたもの。

 まずはこの分類をもとに、様々な鬼が紹介されている。

人が近づくと声を出して変形する面
ツノが生えて口が裂け、目が変わる
結構怖い
これは仏に仕える鬼だ
妖怪のコーナー。
堂々と佇んでいるのは北東北では「メドチ」「メズチ」などと
呼称されることもある河童。
北上市と程近い遠野市は河童が有名だが、遠野の河童は
顔が赤いと言われており、その伝承に準じたデザインだろう


 続いては日本全国の鬼に関連する祭りの展示だ。
 節分のように鬼を追い払う祭りもあれば、逆に鬼の力を借りて悪いものを追い払う祭りもある。
 改めて、鬼という概念の懐の広さを感じさせる。

全国の鬼まつりの一部の紹介。
あなたの地元にも鬼まつりがあるかもしれない
こうして見ると鬼の姿も多種多様だ
祭具の展示もある。
これは鹿児島県末吉町 (現・曽於市) の熊野神社で
毎年1月7日に行われる鬼追いの鬼。
様々な鬼の面のコーナー。
右側の巨大なものは愛媛県伊予地方で使われる牛鬼のもので
本来は体と組み合わせて高さ3m程のものになるらしい
大量の面を前にただただ圧倒される
江戸時代に描かれた地獄絵図
様々な鬼の姿を描いたレリーフ。
制作したのはウルトラマンなどで有名なデザイナー
成田亨 (青森県出身) だ。

 続いて世界の鬼コーナー。
 面を中心に世界の精霊や鬼に関連する展示がされているのだが「世界の鬼」と銘打っているだけあって東アジアはもとより、ヨーロッパやアフリカ、南米といった様々な地域の面が所狭しと並べられている。

タイのコーンで用いられる仮面。
ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
左から反時計回りに
ルーマニア、ザイール、パプアニューギニアの精霊の面
インドネシアのバリ島のバロンとランダも鎮座している。
メガテンでお世話になった人も多いだろう。
改めて見ると本当にかっこいい
ヨーロッパのクランプスもいる

 そして岩手県の鬼に関連したコーナー。

 北上市の鬼剣舞に限らず、岩手県内には鬼にまつわる祭りなどが他にもたくさんある。

岩手県内に祀っている場所の多い毘沙門天像は
足元で踏みつけられている悪鬼も個体差が大きく面白い
唐の時代に中国で作られ、平安時代に日本へ
運ばれてきた毘沙門天像の複製品。
鬼のデフォルメが非常に愛らしい。
虫送りに用いられる藁人形のオニ。
こちらは男性。
こちらは女性。
どちらもちゃんとツノが生えているほか
性器や乳房などがデフォルメされている
岩手県大船渡市 (おおふなとし) の吉浜に伝わるスネカ。
秋田のなまはげと同様に年明けにやってきては
怠け者を戒める来訪神だ。
名前は「スネカワタグリ」の略で
「囲炉裏に長時間当たってできた低温火傷跡を剥ぎ取るもの」
という意味とのことだ。
なまはげも「ナモリハギ」が語源らしく意味は共通している
吉浜のスネカは鹿児島県薩摩川内市 (さつませんだいし) の
甑島 (こしきじま)のトシドンや
秋田県男鹿市 (おがし) のナマハゲと共に
「来訪神仮面・仮装の神々」としてユネスコの無形文化遺産に
登録されている。
隣町の奥州市で行われる蘇民祭でも
鬼子が重要な役割を持つ

 そしておまちかね「鬼剣舞」のコーナーだ。
「鬼剣舞」は夏祭りなどで披露される踊りであるり、ここ北上市と隣の奥州市のものが重要無形民俗文化財にも指定されている。
 ここ、鬼の館でも毎年4月から11月の間には月に1度程度のペースで公演されている。

鬼剣舞の他にも、岩手県内には様々な剣舞が伝わっている
鬼剣舞で用いられる仮面。
鬼剣舞の仮面は鬼ではなく仏の化身を表しているため
角はつけないというルールがあるらしい
もちろん衣装も展示されている

 そして最後に、言葉としての鬼に関連するコーナーがある。
 文字の成り立ちや鬼門の解説などがされている。

鬼という漢字の由来
鬼にまつわる諺のコーナーの一部
鬼にまつわる豆知識コーナー。
右上の鬼が何やら非常にユーモラス
展示室の終わりに鎮座する
非常に愛らしい鬼のぬいぐるみ

 展示室の外にも鬼剣舞の人形がたくさん展示されており、実際の映像も見ることができる。

真ん中の白い仮面を被った人物が
鬼剣舞ではリーダー的存在らしい
ボタンを押すと回るので
全方向から見ることができるマネキン

 当noteで紹介したのは展示のごく一部だ。
 きっと「鬼」というものの奥深さと神秘性を改めて感じることができるだろう。

 また、2023年10月22日 (日) まで鬼の館では「鍛治神展」が行われている
 こちらも非常に興味深かったので間に合う方は是非。

刀などの展示のほか実際に使われていた道具も見られる

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