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中華料理と中国

この前渋谷に行った時に、昼の3時頃に歩き疲れ、猛烈にお腹が空き、たまたま見つけた中華料理屋の定食屋に入った。

数カ月前に誰かがSNSで「渋谷に行けばココ!」みたなノリで投稿していた料理の画像と外に貼られていた料理の写真が似ていたので「多分、ここだ!ついに見つけた!」と思い、店内でSNSの人が食べていたのとおそらく同じものを注文した。
こういう時、たまたま見つけると非常に嬉しい。


料理も非常に美味しかった。
定食で950円で微妙に高いが、この世界情勢下でしかも渋谷で安全に確実に食事ができると思うと950円はむしろ安く感じる。
ただ、換気のために出入り口の引き戸が常に半分程開けられていた。寒波の風が背中に直撃しヒリヒリと寒かった。勝手に閉めようとすると中国人の慣れた日本語で怒られたので奥の席に移動さしてもらった。

厨房はコの字型のオープンスタイル。中華鍋担当が二人、野菜のカットやご飯、スープ配膳などの補佐が一人、洗い物係が一人、あとよく分からない、ローディーみたいな見てるだけの人が一人の、計五人体制だった。
どれだけオーダーが来ても完璧にさばけるよう完全に分業化されていた。きっとちょっとよく分からない人は、イレギュラーがあった時に全てのポジションに即応できるポリバレントな選手なのだろう。


チンジャオロース定食を頼んだのだが、味としては、食べやすく、日本的なまろやかな感じだった。
調理工程を見ていると、細切り肉とピーマンとタケノコを先にちゃんと油通りをして、それから炒めて味付けをしていた。一人前の為に、しかも定食屋みたいなスピード重視の店でわざわざ油通しをするのはすごいと思った。


(油通しは温めた油に食材をくぐらせて半分程熱を入れる工程である。
食材全体が一度油を通ることで、下味をつけた肉は旨味が閉じ込められ、ピーマンなどの繊維質な野菜は食感がパキッとする。
メリットはあるが普通にフライパンで炒めるより油の量や工程が多くなる。自分でやったこともあるが、油通しのためにかなりの油を使うことと、油が単純に勿体ないこと、台所がはねた油で汚れる。などの理由でよほど余裕がないとやろうと思わない工程である。)

しかし、その店は厨房が綺麗で、完全にシステム化されていたので、油通しは一瞬で完了し、仕上げの工程に移行していた。
こういう時にいつも見ていて思うのだが、中国人が何かの作業をしている時の、没入具合と、所作の無駄のなさと、良い意味でのサイコパス的な迷いの無さはすごいと思う。
日本人の所作にはセンサーが多いというか、自分への迷いや人目を気にしている感がどうしてもある。それはホールでも厨房に立つ人でも同じである。しかし、中国人は目の前のことにしか興味がないというか、「仕事?ヤ↓ルヨ♪」みたいな感じがある。



数年前に中国料理屋でバイトしていた時も同じことを思った。
オーナーと料理長は日本人だがそれ以外は中国人の方が多い店で、混んでも空いていても楽観的かつサイコパスな空気感が面白かった。
料理長が手袋をしてエビの下味を付けているのに、料理長が休みの日には中国人の料理人が同じ作業を素手で堂々とやっていた。

また、店が空いていると営業中でも廊下で煙草を吸う。などの、マイペース感があった。
しかし、オーダーが大量に入った時は心強い。
何か、オーダーの途中で弱気になったりせず、オーダー(仕事)が終わるまでは集中力が途切れない感じがあり、そこが日本人とちょっと違う気がした。ゾーンなのか、仕事=ヤルヨ。みたいなのが染みついているのかよく分からないが、ずっと真顔で中華鍋を振っていた。

(それとは対照的に、ホールの日本人のマネージャーはしょっちゅう僕の肩を台みたいにして手を置き、仕事や人生そのものに対する愚痴をこぼしていた。)

中国人の料理人(183センチくらい)の手は僕の手よりも圧倒的にデカく、本当に自分の親指が相手の小指みたいな感じで、彼の持つクレジットカードがアルフォートくらいに見えた。
飲みに行った時もいきなりドバイの高層ビルみたいな形の巨大なビールのピッチャーを注文し、泡もないのに延々と真顔で飲んで真顔で笑っていた。


なんてやつなんだ、海賊かよ。と何度も思ったが、その中国の料理人と料理長の味は統一されていて、同じメニューでもどちらが作ったか分からない程だった。
料理長も「そこは共有できてるからやれてる」みたいな含蓄のあることを言っていた。「そこは」の「そこ」が超重要ポイントで、お互いに味の重要性を理解した上で、それぞれの自由を許容している感があった。



そういう日本に深く関わっている国が台湾などに侵攻して欲しくないと思う。そういう可能性が高まっているせいで、ついこの前日本の防衛費の増大が確定した状況にあるが、もし、その可能性が今後さらに現実的になってくると日本の中華料理屋で働く中国人は肩身の狭い思いをすることになるのは確定している。
日本企業で働く中国人や、日本人に中国語を教えている中国人なども同じだろう。そうはなって欲しくない。渋谷で食べるご飯やさんが減るのは困る。そこで働く中国人は良い仕事をしているのだから、そのままでいて欲しい。と思う。

コロナの時は忽然と外国人が日本からいなくなり、最近また観光しに来ている外国人をよく見かける。もし台湾に侵攻したりしたら、日本から中華料理屋は消滅するのだろうか。そして、侵攻が終結したらまた中華料理屋が復活するのだろうか。cookdoは販売中止になるのだろうか。銀魂から神楽だけいなくなるのか。551の豚まんや崎陽軒のシューマイはどういう扱いになるのか。
考えるほど、自分がまだまだ知らないことだらけだと感じる。



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