【短編小説】おばあちゃんのさわがに

両親の仕事の都合で私が田舎のおばあちゃんの家に預けられていた初夏のある日、テレビでグルメ特集が流れていた。
私とおばあちゃんはなんとなく、テレビをぼんやりと見つめていた。

『今、ソフトシェルクラブが人気!』

「へえ〜、なんだいソフトシェルクラブって」

「タイ料理店とかアジアン系のお店で出るらしいよ。脱皮したてだから殻が柔らかくてそのまま食べられるカニだよ」

「そのまま食べられるカニねぇ。食べたことあるのかい?」

「一回だけ食べたことあるけど、美味しかったよ?まぁ、アタシみたいな高校生がしょっちゅう食べられるものじゃないけど」

「そうかい?そのまま食べられるカニならいくらでもあるよ」

「ええっ!?ほんと!?いつも間に買ってたの?」

するとおばあちゃんは首をゆっくりと横に振った。

「いいや、買ってないよ」

「えっ?どゆこと?」

「いるじゃないか、ウチの裏の川に」

私の遠い記憶が蘇る。

「げっ!まさかサワガニのこと!?」

「そうだよ〜、食べたきゃまた採ってくればいいじゃない」

「えぇ〜……アタシもう高校生だし、そんな昔みたいにバシャバシャ川に入らないよ?」

するとおばあちゃんは少しいじわるな目をして私を見つめた。

「おばあちゃん、カニの話したらカニが食べたくなったんだけどなぁ〜」

「もぅ〜、わかったよ!」

確かに良い運動にもなるかもと思い、網とバケツを手に私は外に出た。

「あっつ〜!!」

外に出るとむわっと襲いかかる熱気。
私は急いで川に向かった。

「あの頃のまんまだぁ」

川の様子は私が小学生だった頃からほとんど変わっていなかった。
裸足になって足先を入れる。

「つめた〜い!」

思わず叫んでしまい、慌てて周囲を見る。
しかしここは山の中。昔はこんなに周りのことなんて気にしなかったのに、なんだか自分が少し嫌になった。だが、これで踏ん切りがついて、私はカニの捕獲に全力を注ぐことにした。
岩影、水草の影、カニのいそうな場所は意外としっかりと覚えていた。
私はバケツをいっぱいにしておばあちゃん家に戻った。

「ただいま〜」

「あら、いっぱい採ってきたのね〜」

「ねぇ、アレ作るんでしょ?」

アレとはおばあちゃんの得意料理
『サワガニの唐揚げ』だ。

よく洗ったサワガニに衣をつけて、生きたまま油にどんどん投げ入れる。

それでカラッとできたのが、サワガニの唐揚げ。
ちょっぴりレモンをかけて食べるとサクサク美味しい!
おばあちゃん曰くカルシウムもたっぷりとのこと。

自然から離れ、都会で生活していると中々出会えない私の思い出の味だ。

自然も、おばあちゃんも、いつまでもあるものじゃないけど、大切にしたいなぁ……
と思う、私でした。

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