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本棚の記憶

わたしが自慢できるもの。それは、わたしの本棚です。

収納の関係上、すべての本を手元に残すことは難しく、新しい本を手に入れるときはその分のスペースを空ける作業が必要になります。

長らく本棚に並んでいた一冊を手放すのですから、それなりの覚悟をもって本の背表紙たちと向き合い、その都度「ごめんなさい」の心境です。

それゆえ、これまで大事に所有していた本が、次の持ち主のところへ行ける段取りをしてから欲しかった本を買うようにしています。

もちろん、ふらりと立ち寄った本屋で一目惚れして衝動買いしてしまうことだってありますが、読み終わってそのまま手放すこともあり、新しい本が本棚に入る確率は半々です。

一度手放したものの再び入手する本もあり、出会いと別れを繰り返し、小さいながらも、わたしの本棚。

以下に、そんなわたしの本棚にまつわる話を紹介します。

実家の本棚

物心がついたときから身近にあったといえば実家の本棚です。

母が学生寮を営んでいたこともあり、ダイニングルームに置かれていた本棚には、学生が選んだ本と母が選んだ本が混じりあって並んでいました。

本棚の横にあったえんじ色のソファーが私の特等席で、小学生のときにはすでに星新一の本に夢中でした。

とはいえ、年齢に合った児童書も大好き、星新一の本も大好き。本のジャンルにこだわらないという傾向は今も変わらず健在で、わたしの本棚は実家の本棚によく似た混沌とした状況です。

初めての古本屋

初めて古本屋に入ったのは18か19歳のときでした。

実家を離れ一人暮らしをはじめた年でしたので、はっきりと覚えています。選んだ本は、モラヴィアの「女性諸君!」です。

古本屋の場所や、その日が曇り空であったこと。そんな細々したことまでしっかりと覚えているのですが、どういうわけか、この本を選んだ理由が思い出せません。

この本を手にして初めて知った作家です。普段ならば、きっと手にしてみることはなかったと思います。

初めての一人暮らしと初めての古本屋。二つの相乗効果で思い入れが倍増し、この本を眺めるだけで、大人になりかけだった当時の自分に出会える一冊です。

わたしの本棚の進化論

もともと短編小説を好んで読んでいたこともあり、わたしの本棚は短編小説が大半を占めています。

それら短編小説は、「もともと短編の名手と呼ばれる作家の短編小説」と「大好きな作家の短編小説」の2種類に区分され、後者は収納のために生み出された言わば究極の選択、わたしの本棚の進化論です。

たとえば、わたしの本棚にある松本清張の本は全部で六冊ですが、自伝的小説一冊を除く五冊すべてが短編集となっています。

短編集ならば一冊で多くの作品を堪能できるという発想で、そのためにも、「これぞ!」と思える作品が載っているものを選んで陶酔するのです。

しかしながら、これを進化論と呼んでいいのか、いささか疑問なところではあります。

運命の一冊

実家に帰省する際は、本棚から一冊文庫本を抜き出してカバンに持ち込むのが習慣で、本はわたしの帰省時の相棒です。

あるときの帰省時、相棒となる文庫本を忘れてしまい、駅近の本屋に入ることにしましたが、前置きの記述のとおり、わたしにとって新たな本を買うことは、わたしの本棚の新参者になるか否かを背負った重大事です。

心して本屋の入口をくぐりました。すると、なんと、わずか数十秒後に、わたしは運命の一冊と出会ってしまったのです。

それは、ルソーの「孤独な散歩者の夢想」

なぜここに?と思うような場所(日本作家の文庫本コーナー付近で話題作が平積みになっているところ)の中央部に、一冊だけ横向きになって置かれていました。多分、誰かが読みかけでここに置いていったのでしょう。

厚みも薄い文庫サイズで、手にとりレジへと向かうまでの間に迷いはなく、まさに即決即行でした。

18世紀のフランスでルソーによって書かれたこの本は、すっかりわたしの愛読本となり、現在、わたしの再読回数を更新中です。

終わりに

本棚の記憶と題して、わたしの本棚についてまとめてみました。

なるべく本の紹介をしないよう試みたものの、本棚に関する内容であるため、どうしても特定の作家を挙げることとなりました。

しかも、特定した4名の作家だけ見てみると、わたしの本棚は男性作家が多いように感じますが、実際は、女性作家の方がわずかに多い状況です。

また、わたしの本棚は単行本よりも文庫本の方がだんぜんに多く、文庫本が全体の8割強を占めています。

ここでそんな補足がいるものかどうか迷いましたが、わたしの本棚をなんとなくイメージするのには必要な説明のように思えました。

末尾になりますが、いつかは自分の本棚について表現してみたかったので、こうして念願が叶って喜びもひとしおです。

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