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「町の書店を増やしたい」を考える  4-3. 本:読書離れについて考える

前回までのお話・・・

増やしたいのか、減らなければいいのか
2.増やしたいのは「誰?」「何のため?」
3.「書店は地域の文化拠点であるから守りたい」を段階的に考
えていく

4-1.本:本を読む必要はあるの?
(1)そもそも本を読む必要はあるのか?
(2)良書じゃなきゃだめ?
(3)買いさえすれば読まなくてもいい?
(4)読みさえすれば買わなくてもいい?(買うvs借りる)
4-2.本:どんな風に読めばいいの?
(1)紙の本 or 電子書籍(何で読むのか。媒体の話)
(2)一人で読む or 他の人と交流しながら読む

※これは、思考を整理するための自分なりのノートです。勉強不足の部分や考察を別途深めたい部分も多いので、随時書き加える予定です。このノートが、書店を増やすための具体的な活動を考えている人の参考になれば幸いです。


4-3.本:読書離れについて考える

幸せな社会を実現するためのひとつの手段として、文化の向上を望むとき、そのまたひとつの手段としての読書を考えてきました。

この文脈から「誰に読書をしてほしいのか」と考えると、老若男女みんなのような気がします。文化というものは未来へ続くものなので、未来を担うという点では特に子供です。けれど、もちろん大人になっても読書をしていただいた方が、文化の向上につながるように思います。

なお、個人的に気になっているのは「読みたくても読めない人たち」の話です。まずは調査データをいくつか確認して現状を把握し、それから本題に入っていきたいと思います。

(1)読書率の変化ー子供(小中高)ー

まず、子どもです。
全国学校図書館協議会が行っている1か月間の平均読書冊数の調査をみると、全国の小・中学生は明らかに右肩上がりです。特に小学生は1993年で6.4冊だったのが2倍になっていて、「子どもの本離れ」とは言い難いように感じます。全国学校図書館協議会|調査・研究|「学校読書調査」の結果 (j-sla.or.jp)

しかし、学研教育総合研究所が行っている調査では、1989年調査で小学生の1カ月の読書量は全学年平均9.1冊だったのが、3.1冊と3分の1に。
小学生の読書量30年で3分の1に : テレビさえ見ないスマホ中毒? | nippon.com

全然正反対の結果です。。なぜでしょう?
学研の方は、電子書籍と紙の本でもまんがと雑誌は含めていなかったり、全国学校図書館協議会の方は小4~6のみが対象だったりと微妙に条件が違ったので、できる範囲で条件を同じにしてみたのですが、学研が減少、全国学校図書館協議会は増加という結果は変わりませんでした。
これは、もう少し詳しくデータをみないと真相解明できなさそうなので、いったんここまでとして先に進みます。

読書冊数での比較が適切でない可能性もあります。
なにをもって読書率を測るのか。
今回は冊数でみましたが、他に読書時間、不読率、販売額などの指標もあります。
個人の記憶や体感に頼った調査であるため、本人の見栄や親の希望、調査団体の意図が少し影響してしまって、的確な実態は見えてこない可能性もあります。

少しもやもやしていますが、ここまで調べた結果で一度総括します。
子どもの読書については、圧倒的な読書離れとは断定できませんでした。調査によって正反対になる内容も多く、実態をつかむのが難しく感じました。教育という観点から様々な取り組みが行われていて、それなりに成果も出ている印象です。(具体的な取り組みや、学校図書館の役割、子どもたちが自主的に読んでいる本などについては別途調査していきたいと思います。)

(その他参考)
文部科学省委託調査の「子どもの読書活動の推進等に関する調査研究報告書」各年(2年に1度)
データで考える子どもの世界│[データ集]第4回「読書行動」について考えるデータ│ベネッセ教育総合研究所 (benesse.jp)
小学生白書Web版 学研教育総合研究所|学研 (gakken.jp)
「若者の読書離れ」はウソ、しつこいレッテルの裏に“一部の大人”の勝手な失望? | ニュースな本 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)「子ども・若者の本離れ」は本当か…今年発表された「子どもの読書調査」からわかる「意外な実態」(飯田 一史) | マネー現代 | 講談社 (gendai.media)
子ども読書の情報館 (kodomodokusyo.go.jp)文部科学省
読書履歴を活用したデータ分析|ビッグデータを活用した教育研究│特集│ベネッセ教育総合研究所 (benesse.jp)


(2)読書率の変化ー大学生以上ー

さて、大人です。
大人の読書に関する調査や研究は子どもに比べて圧倒的に少ないですが、そんな数少ない情報をかき集めてみます。

・国立青少年教育振興機構やクロス・マーケティングの調査
⇒全国の20~60代の約半数が1 ヶ月に0冊しか読まない

・クロス・マーケティングの調査
⇒同年代・同性別の中で、半年に1冊以上読む人の割合が多い順
 20代男性(60.9%) 、40代女性(58.2%) 、60代男性(57.3%)
⇒同年代・同性別の中で、半年に11冊以上読む人の割合が多い順
 60代男性(20.9%) 、50代女性(16.4%) 、40代女性(15.5%)

大人の読書量は年齢や性別に比例してなさそうです。そして実は子どもより、大人の方が読書離れが深刻なのではないか?と思えてきました。

・推移を知りたくて定期的に行われている成人対象の読書調査を探してみると、1947年から続けられてきた毎日新聞社「読書世論調査」が最も有用でしたが、なんと2019年の調査をもって終了してしまったようです!もったいない! ただ、72年間のデータを見た永江氏によると、読書率にはあまり変化がないようです。

読書に関する調査でこれほど厳密かつ長期間にわたって継続されてきたものはない(中略)72年間のデータを見て気づくことは多い。たとえば読書率(書籍・雑誌を「読む」と答えた人の比率)にあまり変化がない

出版業界事情:72年も続いた読書世論調査があったから分かること=永江朗 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

・文化庁の「国語に関する世論調査」30年度
⇒自分の読書量が「減っている」と答えた人が67%
平成25年65.1%、平成20年64.6%からさらに増えている。
92701201_01.pdf (bunka.go.jp)
※「読書について」の調査項目は平成20年、25年、30年度のみで、令和4年度調査から発行見合わせ

読書率はあまり変化がない一方で、多くの人が個人の体感として「読書量が減っている」と感じていることが分かります。
読書離れというのは、「数十年前はたくさん読書していたのに年々減っていて、今は全然しなくなった」というイメージでしたが、各種調査結果を見ると、実はそこまで顕著に減少しているわけではないようです。

(その他参考)
・読売新聞社「読書に関する全国世論調査」
読書推進月間 読売世論調査 質問と回答 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
・内閣府の「読書・公共図書館に関する世論調査」(平成元年6月調査)
読書・公共図書館に関する世論調査(平成元年6月調査) | 世論調査 | 内閣府 (gov-online.go.jp)
子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究〈令和3年3月発行〉 | 独立行政法人 国立青少年教育振興機構 (niye.go.jp) 
読書に関する調査(2023年) | リサーチ・市場調査ならクロス・マーケティング (cross-m.co.jp) 
Job総研による『2021年 秋の読書実態調査』を実施 増えた自宅時間背景に4割が読書時間増 8割が習慣的に読書 | パーソルキャリア株式会社のプレスリリース (prtimes.jp)
reading2017.pdf (keio.ac.jp)


(3)読書離れの理由

というわけで、子どもも大人も以前に比べて圧倒的に読書する人が減ったと断定はできませんでした。ただそれをベースにした話が主流のようなイメージはあります。真偽を確かめるのは私の技量と時間が不足しているので、ひとまず置いておいて、読書離れの理由自体について考えていきたいと思います。

文化庁の「国語に関する世論調査」(平成30年度)によると読書量が減っている理由は以下のような割合でした。 (p.48)
※以前に比べて「読書量は減っている」と答えた人(全体の67.3%)にその理由を尋ねた(選択肢の中から二つまで回答)

------------------------------------------------
a. 仕事や勉強が忙しくて読む時間がない 49.4%
b. 視力など健康上の理由 37.2%
c. 情報機器(携帯電話,スマートフォン,タブレット端末,パソコン,ゲーム機等)で時間が取られる 36.5%
d. テレビの方が魅力的である 18.6%
e. 魅力的な本が減っている 6.7%
f. 近所に本屋や図書館がない 5.0%
g. 読書の必要性を感じない 4.8%
h. 良い本の選び方が分からない 4.5%
------------------------------------------------

円グラフにしてみると、このような割合になります。(選択肢の中から二つまで回答する調査だったのでパーセンテージの数字は少し変わっています)

少し色分けをしてみました。
■水色:読めるかもしれないけど読まない (CAN but DON'T) 
積極的・意図的に読書から離れている理由で、合わせると18.5%です。
 d. テレビの方が魅力的である 11%
 e. 魅力的な本が減っている 4%
 g. 読書の必要性を感じない 3%

■薄オレンジ:読めるかもしれないし、少し読みたい気持ちがあったとしても、読書にたどりつくまでにハードルがあるという理由です。
このハードルを解消してあげられれば、読書をしてもらえそうです。
 f. 近所に本屋や図書館がない 3%
 h.良い本の選び方が分からない 3%

■薄緑:「時間がなくて(読みたいとしても)読めない」
 a.仕事や勉強が忙しくて読む時間がない
 c.情報機器(携帯電話,スマートフォン,タブレット端末,パソコン,ゲーム機等)で時間が取られる
c.は各種連絡や事務手続きの他、人とのコミュニケーションや娯楽なども含まれていて、他の娯楽を選んでいるという面で水色グループと近い性質もあります。ですが、時間が十分にあれば読書もする可能性があるということで、今回は時間がないグループとしてまとめました。

■白:「健康上の理由で(読みたいとしても)読めない」

薄緑グループと白グループを合わせると、53%となり、
読みたいとしても読めない(WANT but CAN'T)という大きなグループになります。

ここから先は以下の二つに分けて考えていきます。
(CAN but DON'T)グループ:水色・薄オレンジ
(WANT but CAN'T)グループ:薄オレンジ・薄緑・白
薄オレンジは両方のグループに属する可能性があるので、それぞれで考えてみます。


次回予告

4-4. 本:誰に読書をして欲しいのか(どの程度?)

5.書店:求められる役割について考える



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