『YAGレーザー』を始めて打った日
前回のnoteにて、お髭の永久脱毛を始めたことを語りました。
今回はその続きの話になります。
ざっと前回の内容を書いておくと、『デキる男になるために剃刀に勝ちたいから脱毛を始めた。2回目の来院から笑気麻酔をしないと耐えられないYAGレーザーを当てることが可能』というものです。
さて、第2回めの来院の日が来ました。 前回は初めてだったので不安でいっぱいで、クリニックの入っているビルの周りを意味もなく練り歩いたりもしていたのですが、今回はさすがの余裕っぷり。
勇み足でクリニックに直行します。すでにデキる男っぽくなってますね。
まずはレーザーの説明を受けます。 話によればこちらのレーザーを当てた後、いきなり生えてこなくなるのではなくて、10日ほど経過した段階で『髭がポロポロと抜け落ちる』らしいです。
「遅効性の毒か?」と僕は思いましたが、いかにも『髭の負け』つまり『剃刀勝ち』感が出て、良い演出ですね。
初めに、1つの選択が迫られました。 それは、笑気麻酔のオプションを付けるか。 もちろん、痛みに耐えるためにバフをかけることもできます。
しかし、考えても見てください。これほどまでに世間に『痛い』と風評されているもの。麻酔なしで受けてみたくはないですか?
強い敵に挑む時に、課金アイテムを利用して勝つのとそうでないのとでは、達成した時の喜びが大きく違います。
己の肉体一つ、裸一貫で勝負を挑んでこそのデキる男。
というわけで、麻酔なしでレーザーを浴びることが決定しました。
「では、当てていきますね〜」 施術をしてくれるお姉さんの声が響きます。
僕にも、僕の毛穴にも緊張が走ります。
バチッ!バチッ!と、顔面にレーザーが当てられました。 レーザーとのファーストコンタクトを終えた直後に僕はふと、こう思ったわけです。
「まぁちょっと痛いけど、そんなでもないかもしれない…」
なんということでしょう。
ここはめちゃくちゃ痛いのがセオリーだとばかり思っていたため、今後は僕も『YAGの痛みの伝道師』として、三味線を片手に世に語り歩く気満々だったわけです。 伝道師としての夢はここで断たれました。
そこからは黙々と、レーザーを打ち込み続けられました。
ちなみに、バチッ!とレーザーが当たった後、何かが焦げたような、焼けたような匂いがするのですが、(例えるならばバーベキューみたいな匂いだなぁ)と思いました。匂いは体験と強く紐づいており、その記憶を鮮明に思い出させるものです。
自分の髭が焼き焦げるたびにその匂いがして、僕は遠い昔におばあちゃんの家でやったバーベキューを思い出していました。 またやりたいなぁ〜、とスーパーノスタルジックに浸りながら、今回の施術は終了しました。
無事施術が終わってから1週間程経った頃、仕事帰りにマスクを取りました。
ふと鏡を見ると、口元に一つの黒い粒が乗っていたため、手で払いました。
するとそれと同時に、また一つ黒い粒が手に付きました。
不思議に思い、手で口元を何度か拭ってみると、5・6本の黒い粒が手に付きました。 めちゃくちゃビビりました。なんだこれは?と。
しかし、冷静になって考えて見ると、 「遅効性の毒だ!毒が効いたんだ!」と理解しました。 なんでこんなにテンションが上がったのかは分かりません。
嬉しくなり、しばらく髭がポロポロと抜け落ちる様を楽しんでいました。
施術から2週間程たった頃でしょうか。
ある日、朝のルーティンである髭剃りをしようと洗面台に向かいました。 いつものように髭を剃り始めると、ここで衝撃な事態が起こるわけです。
いつもは髭を『剃っている』という感じであり、当然ですが根元は皮膚の内側に残っていたわけです。
ところがその髭剃り回は、髭が『抜けている』という感じがしたのです。
剃った後のシェービングジェルを見てみても、普段は黒い粉があるのですが、その回は『黒い短い線』が多数ありました。
その時の感覚も「スポポポポッ」と、剃刀を動かせばどんどん髭が抜け落ちていくようで爽快感があり、剃っていてとても楽しかったです。
髭剃りをしていて、こんな気持ちになったのは初めてです。その髭剃り回をYouTubeにアップするのなら、隅付きカッコは間違いなく【神回】でしょう。
この神回をもう一度味わいたい。
僕はそう思いましたが、抜け落ちた髭はもう永久に生えては来ません。
喜びの後に残るものは、空白と虚無なのかと、僕は勝ったものだけが得られる気づきを手にしました。抜け落ちた髭は排水溝に流れて行きました。
あの日のシェービングジェルの匂いを、いつの日か思い出すことでしょう。