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草笛双伍 捕り物控え一 鬼平暗殺5
長谷川平蔵は八丁堀の官舎に常駐している
与力同心はもとより、非番の者も緊急招集して、
三ノ輪の廃屋へと向かった。総勢20余名。
同行する双伍を見て、怪訝な顔をしている者も
いたが、長谷川平蔵は、「ただの新入りだ」とだけ
答えた。
一刻ほどしてたどり着いた三の輪の廃屋は、
今にも崩れそうな様相だった。柱は曲がり、屋根は歪んでいる。
長谷川平蔵以下、部下たちは一気に屋敷になだれ込んだ。
中には40名ほどの盗賊一味がいた。そこで双伍は疑問を感じた。
たしか<風魔>の者もいたはずだ。それが気配さえ感じない。
「火付盗賊改方、長谷川平蔵なり!一同の者、神妙にせい!
縛につかねば、斬り捨てるぞ!」
とたんに盗賊たちは刀、匕首を手にして、反撃してきた。
その者たちを、長谷川平蔵をはじめとする
手練てだれの部下たちが斬り捨てていく。
双伍は弟の幻也が拉致されていると見られる、
奥座敷に向かって、突っ走った。
邪魔するものは、両の十手で打ち据えていく。
半刻もせぬうちに、盗賊40名のうち、
10名が斬り捨てられ、15名が重傷を負った。
残りの者はあきらめて縛についた。
双伍は奥座敷の襖を開け放った。
だが・・・そこはもぬけのからだった。
幻也はおろか、10名ほどいた<風魔>の忍びの
姿もなかった―――。
あれから4年。今頃、幻也はどうしていることだろう。
勿論、まだ生きていればのことだが・・・。
双伍は玄田元禄の養護院の布団の上で、思った。
しばらくして双伍は腰巻の中から、一枚の葉を取り出す。
それを口に含み、草笛を吹いた。
それは何かの子守唄のようだった。
双伍がまだ、物心もつかぬ頃に聴いた子守唄。
それを聴かせたのは、顔も知らぬ母なのか、それとも・・・。
ふいに玄田元禄の声が、草笛を吹き続ける双伍に
投げかけられた。
「双伍さん、草笛はおやめなさい。傷に悪いですよ」
それでも、双伍はどこかもの悲しげな子守唄を
吹き続けていた―――。
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