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ユングの娘 偽装の心理

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帝應大学の若き天才女性心理学者の主人公、氷山遊(ひやま ゆう)が、たたき上げの中年刑事、 鳴海徹也(なるみ てつや)とともに、難事件を解決に導いていくというミステリー小説です。 …
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2018年4月の記事一覧

ユングの娘 偽装の心理1

ユングの娘 偽装の心理1

帝應大学の若き天才女性心理学者の主人公、氷山遊(ひやま ゆう)が、たたき上げの中年刑事、鳴海徹也(なるみ てつや)とともに、難事件を解決に導いていくというミステリー小説です。

東京都内のとあるマンションで、漫画家志望の青年の死体が見つかった。
だが、それが他殺なのか自殺なのか、判別できなかった。
一人の青年の死を背景に、様々な人々の「心理」が交錯し、
謎が深まっていく・・・。
そして真相を明らか

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ユングの娘 偽装の心理2

ユングの娘 偽装の心理2

            偽装の心理 2

真代橋署の2階、刑事一課のデスクに鳴海徹也の姿があった。
刑事一課の刑事は、鳴海と鏑木一課長を含めて12名。
だが、今はそのほとんどが出払っている。
刑事見習いの河井聡史は
自分のデスクにへばりつくようにして、
なにやら勉強をしているようだ。
鳴海はそんな彼を一瞥いちべつすると、手元の書類に再び視線を落とした。

鑑識課と監察医、それぞれから
報告書と司法

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ユングの娘 偽装の心理3

ユングの娘 偽装の心理3

             偽装の心理3

鳴海は鑑識課を出ると、刑事一課へと足を向けた。
自分のデスクの上に置いてある赤いダウンジャケットを掴むと、
真代橋警察署の表玄関へ向かう。

外に出ると、冷たい風が針のように顔を刺した。
陽はまだ高く、ビルの合間から覗く空は
澄んだブルーに染められ、季節が冬でなければ
小春日和といってもいい天候だ。
だが、実際にはそれに反比例するように、
日増しに寒さが厳

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ユングの娘 偽装の心理4

ユングの娘 偽装の心理4

             偽装の心理4

鳴海徹也と河井聡史の二人は部屋を出ると、
『龍来軒』に戻った。アルミ戸を開けると、
店内は客で満席だった。
市来吉雄が麺を湯切りし、豚骨の香りのするスープを、
幾つも並んだ丼に注いでいる。
彼の「できたぞ」という掛け声とともに、
妻の静江がタイミング良く
それらを客のテーブルに運んでいた。

鳴海は店内に入ると、
厨房で忙しく働いている市来吉雄が声を上げた

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ユングの娘 偽装の心理5

ユングの娘 偽装の心理5

            偽装の心理5

「座ってもいいかな?」
鳴海は憮然として言った。

この氷山遊という心理学者に対して、
ウマが合わないというか、
相性が合わないと感じずにはいられなかった。
彼女のどことなく人を見下したような、
他人をまるで実験動物を見ているような、
そんな態度が気に食わなかったのかもしれない。

「どうぞ、あちらにあります」
氷山遊は紅茶のカップを口に運びながら、
目でそ

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ユングの娘 偽装の心理6

ユングの娘 偽装の心理6

            偽装の心理6

翌日の朝、鳴海徹也は真代橋署捜査一課のデスクで、
鑑識から渡された報告書を丹念に読み返していた。

 昨夜、帝應大学の研究室棟でユングの娘———氷山遊は
この報告書に書かれたどこかに興味を示したように思えて、
それがいったいどこなのか、知りたいと思ったからだ。

 鳴海は時折、腕時計に目を落とした。
午前十時を少し回ったところだ。
今日は河井聡史とともに、

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ユングの娘 偽装の心理7

ユングの娘 偽装の心理7

            偽装の心理7

「嘘?」
鳴海徹也は思わず、半身になって佇んでいる
氷山遊子の背中に問い返したが、
静江の証言が虚言という気はしなかった。
彼女は自分に対して、正面から誠実に答えてくれたように思えた。
これまで刑事として、数え切れない人物と
接してきた鳴海にとって、
それらの人々の言葉の真偽を見極めるくらいの
力はあるという自負もある。

「あの奥さん、鳴海さんの質問の内容

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ユングの娘 偽装の心理8

ユングの娘 偽装の心理8

               偽装の心理8

文京区三田にある首都出版は、
業界最大手の出版社だけあって、
そびえ立つその二十階建ての白亜色の自社ビルは、
その前に立つ者を圧倒するような力があった。

氷山遊と鳴海徹也、河井聡史の三人は、
首都出版のロビーに入った。
ロビーは高級ホテルのそれのような造りで、
床や壁には大理石がふんだんに使われた、
一流企業らしい趣があった。
その場に行き交う人々も

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