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ユングの娘 偽装の心理

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帝應大学の若き天才女性心理学者の主人公、氷山遊(ひやま ゆう)が、たたき上げの中年刑事、 鳴海徹也(なるみ てつや)とともに、難事件を解決に導いていくというミステリー小説です。 …
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ユングの娘 偽装の心理1

ユングの娘 偽装の心理1

帝應大学の若き天才女性心理学者の主人公、氷山遊(ひやま ゆう)が、たたき上げの中年刑事、鳴海徹也(なるみ てつや)とともに、難事件を解決に導いていくというミステリー小説です。

東京都内のとあるマンションで、漫画家志望の青年の死体が見つかった。
だが、それが他殺なのか自殺なのか、判別できなかった。
一人の青年の死を背景に、様々な人々の「心理」が交錯し、
謎が深まっていく・・・。
そして真相を明らか

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ユングの娘 偽装の心理2

ユングの娘 偽装の心理2

            偽装の心理 2

真代橋署の2階、刑事一課のデスクに鳴海徹也の姿があった。
刑事一課の刑事は、鳴海と鏑木一課長を含めて12名。
だが、今はそのほとんどが出払っている。
刑事見習いの河井聡史は
自分のデスクにへばりつくようにして、
なにやら勉強をしているようだ。
鳴海はそんな彼を一瞥いちべつすると、手元の書類に再び視線を落とした。

鑑識課と監察医、それぞれから
報告書と司法

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ユングの娘 偽装の心理3

ユングの娘 偽装の心理3

             偽装の心理3

鳴海は鑑識課を出ると、刑事一課へと足を向けた。
自分のデスクの上に置いてある赤いダウンジャケットを掴むと、
真代橋警察署の表玄関へ向かう。

外に出ると、冷たい風が針のように顔を刺した。
陽はまだ高く、ビルの合間から覗く空は
澄んだブルーに染められ、季節が冬でなければ
小春日和といってもいい天候だ。
だが、実際にはそれに反比例するように、
日増しに寒さが厳

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ユングの娘 偽装の心理4

ユングの娘 偽装の心理4

             偽装の心理4

鳴海徹也と河井聡史の二人は部屋を出ると、
『龍来軒』に戻った。アルミ戸を開けると、
店内は客で満席だった。
市来吉雄が麺を湯切りし、豚骨の香りのするスープを、
幾つも並んだ丼に注いでいる。
彼の「できたぞ」という掛け声とともに、
妻の静江がタイミング良く
それらを客のテーブルに運んでいた。

鳴海は店内に入ると、
厨房で忙しく働いている市来吉雄が声を上げた

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ユングの娘 偽装の心理5

ユングの娘 偽装の心理5

            偽装の心理5

「座ってもいいかな?」
鳴海は憮然として言った。

この氷山遊という心理学者に対して、
ウマが合わないというか、
相性が合わないと感じずにはいられなかった。
彼女のどことなく人を見下したような、
他人をまるで実験動物を見ているような、
そんな態度が気に食わなかったのかもしれない。

「どうぞ、あちらにあります」
氷山遊は紅茶のカップを口に運びながら、
目でそ

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ユングの娘 偽装の心理6

ユングの娘 偽装の心理6

            偽装の心理6

翌日の朝、鳴海徹也は真代橋署捜査一課のデスクで、
鑑識から渡された報告書を丹念に読み返していた。

 昨夜、帝應大学の研究室棟でユングの娘———氷山遊は
この報告書に書かれたどこかに興味を示したように思えて、
それがいったいどこなのか、知りたいと思ったからだ。

 鳴海は時折、腕時計に目を落とした。
午前十時を少し回ったところだ。
今日は河井聡史とともに、

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ユングの娘 偽装の心理7

ユングの娘 偽装の心理7

            偽装の心理7

「嘘?」
鳴海徹也は思わず、半身になって佇んでいる
氷山遊子の背中に問い返したが、
静江の証言が虚言という気はしなかった。
彼女は自分に対して、正面から誠実に答えてくれたように思えた。
これまで刑事として、数え切れない人物と
接してきた鳴海にとって、
それらの人々の言葉の真偽を見極めるくらいの
力はあるという自負もある。

「あの奥さん、鳴海さんの質問の内容

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ユングの娘 偽装の心理8

ユングの娘 偽装の心理8

               偽装の心理8

文京区三田にある首都出版は、
業界最大手の出版社だけあって、
そびえ立つその二十階建ての白亜色の自社ビルは、
その前に立つ者を圧倒するような力があった。

氷山遊と鳴海徹也、河井聡史の三人は、
首都出版のロビーに入った。
ロビーは高級ホテルのそれのような造りで、
床や壁には大理石がふんだんに使われた、
一流企業らしい趣があった。
その場に行き交う人々も

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ユングの娘 偽装の心理9

ユングの娘 偽装の心理9

               偽装の心理9

翌日、真代橋署刑事一課長の鏑木は
苦虫を噛み潰したような表情で、鳴海徹也を見ていた。

「凶器の刃物の出所が福岡だってことで、
  裏を取りたいってこと?」

「はい、もし衣澤康祐が彼の地元である福岡で、
  それを入手していたとしたら、
  自殺のセンの重要な裏づけになると思うんです。
  それで河井を連れて出張りたいと考えています」
鳴海の口調は強

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ユングの娘 偽装の心理10

ユングの娘 偽装の心理10

               偽装の心理10

意外な事実を知った鳴海徹也は、
福岡県警本部へトンボ返りした。
無論、衣澤康祐が所持していたM7銃剣を、
彼と同じ苗字の男性が、自殺に使っていたことを調べるためだ。
鳴海は生活安全課へ行き、当時の担当者を呼び出した。
だが、その担当者はすでに転勤になっており、
直接話を聞くことはできなかった。
肩を落としていた鳴海だったが、生活安全課の署員から、

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ユングの娘 偽装の心理11

ユングの娘 偽装の心理11

             偽装の心理11

福岡県警本部を出た鳴海徹也は、腕時計を見た。
すでに午後9時を回っている。
スマホを取り出すと、県警の情報保全課で知り得た
衣澤康祐の実家の電話番号をタッチした。
明日、衣澤康祐の実家を訪問することを、
事前に伝えていた方がいいだろうと思ったからだ。
数回のコール音の後、年老いた女性の声が返ってきた。

『もしもし、衣澤です』
それは妙に平坦な声に感じら

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ユングの娘 偽装の心理12

ユングの娘 偽装の心理12

             偽装の心理12

翌日、鳴海徹也、河井聡史そして氷山遊の三人は、
全日空ホテルのロビーで落ち合った。
タクシーを拾うと、鳴海は衣澤康祐の実家のある、
糟屋郡新宮町へと向かうよう運転手に伝えた。

1時間足らずして、目的地に着いた。
衣澤康祐の実家は、国道504号線沿いにあった。
周辺は田畑で囲まれており、民家や古びたマンションが散在していて、
人の姿も少なく閑散とした場所

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ユングの娘 偽装の心理13

ユングの娘 偽装の心理13

               偽装の心理13

晴男は湯呑みに残った茶を、すするように飲み干すと、
半ば諦めたような口調で言った。

「息子も二人とも死んじまったんで、しゃべりますけどね。
  長男の孝一は地元の公立高校を卒業して、
  しばらく定職にも就かず、いろんなアルバイトをしていましてね。
  家に帰ると・・・

その頃は我々は町立の団地住まいだったんですが・・・
  孝一の奴、夜遅くまで

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ユングの娘 偽装の心理14

ユングの娘 偽装の心理14

              偽装の心理14

「———ったく、何なんですか、あの親たちは。
 子供をまるで自分の所有物か、それとも
 (家畜という言葉が脳裏に閃いたが、
 河合聡史は慌ててその言葉を呑みこんだ)・・・。
 とにかくまともじゃないですよ、彼らは」
タクシーが拾える幹線道路に出ると、
それまで胸につかえていた濁った心象を、
吐き出すように河合は言った。

「同感だ。オレも多くの犯罪者と

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