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言葉の蛇口〜トゲの痛み〜人間の愚かさ

今日も昔おじいさんから聞いた地獄の話しようかね。こうして話しておかないと、私も忘れてしまうからね。

地獄では、人はいつでもお腹を空かせているんだって。前に、地獄のパン焼きの話をしたから、それも読んでみて。
https://note.com/kandata148/n/n0893152215d3
この世の生涯を終えたのに、いつまでも休まることがないの。苦しみや苦悩から解放される天国とは大違いなの。
残酷なのはね、地獄にある水溜まりを覗くと天国の楽しそうな様子が映っていて、
自分たちの生き方を永遠に後悔させられるの。
涙をこぼしても、その涙にも天国の様子が映るものだから、泣くこともできなくなるんだって。恐ろしいね。
地獄には、鬼みたいなのがいて、みんながお腹を空かせていることを分かっていて、わざと、目の前でボリボリと、お餅を引き伸ばしたようなものを食べるんだってさ。お腹を空かせていることもあって、とっても美味しそうに見えるらしいの。それを知ってか、鬼がこれ見よがしにするから腹は立つし、憎しみとか悲しさやひもじさで、新入りの中には鬼に襲いかかる人もいるそうよ。でも、勝てるわけがない。棍棒で殴られてボロボロにされてしまう。その様子を見ているから、怒りとか悔しさなんて捨ててしまって、諦めと虚しさの中で過ごすんだって。
鬼って悪い奴でね、わざと食べこぼしたり、食べ残しを置いていったりするの。人がそんなものにでも飛びつく様子を笑うために。
悲しいけれど、背に腹はかえられぬからって、鬼の食べ残しを口にしてしまうんだって。そして、みんな、恐ろしい目に遭うの。
鬼が食べていたお餅の棒みたいなものには、小さくて鋭いトゲのようなものが沢山入っていて、口の中にも、手や指先にも刺さってしまうの。「痛い痛い」って涙を流す様子を鬼が笑うんだって。笑いながら鬼はこう言うの「そのトゲはお前たちの悪業や罪、お前たちがここにいる理由だ。その痛みはお前が他人に与えてきたものだ。小さな、無数のトゲをお前は自分で取り除かねばらない。それがお前にできる罪滅ぼしだからだ。お前は、家族や友人の心にトゲを刺してきたのに、その痛みに無関心であった。トゲを抜こうともしなかった。それが、今、お前がここにいる理由だ。トゲをすべて取り除いても、お前は地獄からは逃れられない。お前は生前に、トゲを刺すばかりで、抜くことをしなかったからだ。今も、お前が与えたトゲの痛みで苦しんでいる人がいることを思い知るがよい。
それともうひとつ、お前はまたそれを食べるだろう。そんなに痛い思いをしてもな。2度と食べないと誓っても無駄だ。お前は何度でも食べる。そうして苦しむのだ。何度も何度も傷つけてきた報いを受けるのだ。永遠にな。」
痛くて痛くてオイオイと泣きながら、小さなトゲを1本ずつ抜いてゆくのだけれど、それもまた痛いの。こぼれ落ちた涙には天国の様子が映るもんだから、余計に涙が止まらない。そうして、自分の生き様を深く悔いながら過ごすことになる。
そしてね、鬼の言った通り、また食べてしまうの。ダメだってわかっているはずなのに。
「今度は大丈夫だろう」って。そんなはずはないのに。お腹が空いているからじゃないの。それほど人間は愚かなのだって思い知らされる。
地獄って恐ろしいところでしょ。


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