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王道ヒーロー漫画 ヒット分析 (僕のヒーローアカデミア)

1、 はじめに

昨今の巣ごもり需要を受けて消費者の購買行動は大きく変化した。中でもコミック市場は年々、成長を続けている。出版科学研究上は2月、コミック市場規模を発表した。紙+電子市場(推定販売金額)は前年比10.3%増の6759億円と、売り上げ過去最大を更新し、紙+電子の出版市場全体におけるコミックのシェアは4割を超えた。

なかでも電子書籍の成長が著しく持ち運びや在庫管理などの利便性の良さが売り上げ増加につながったのではないかと考えられる。最近ではコミックをネット上でレンタルすることも可能になっており、コミックを読むことに対してのハードルはますます下がり続けている。

コミック市場の売り上げ拡大の影響を受けているコミックの中でも、今回は僕のヒーローアカデミアがなぜヒットしたのか分析していく。

2、 3大出版社(3大総合出版社)

僕のヒーローアカデミアを分析する上でまず、3大出版社について把握しておかなければならない。3大出版社とは数多く特定ジャンルの書物にこだわらず、あらゆるジャンルの書物を扱う3つの大手出版社のことである。具体的には、小学館、集英社、講談社の3社で構成されており、特に集英社と講談社はコミック市場において群を抜いて売上部数が高い会社である。集英社は週刊少年ジャンプ、講談社は週刊少年マガジンという週刊誌をそれぞれ発行しており、圧倒的なシェアを誇っている。

特に週刊少年ジャンプは、今や聞いたことはない人がいない程消費者認知が高く、「友情、努力、勝利」がテーマの少年漫画が多い。週刊少年ジャンプの顔である1984年発売のドラゴンボールや1997年発売のONE PIECEは今でも根強い人気を誇っている。

3、紹介 

僕のヒーローアカデミア(以下ヒロアカ)は堀越耕平による少年漫画である。週刊少年ジャンプに連載されており、コミックスのシリーズ世界累計発行部数6500万部を突破している。舞台は、人口の約8割が何らかの超常能力“個性”を持つ世界だ。憧れのNo.1ヒーロー・オールマイトと出会った“無個性”の少年・緑谷出久、通称「デク」は、その内に秘めるヒーローの資質を見出され、オールマイトから“個性”ワン・フォー・オールを受け継いだ。デクはヒーロー輩出の名門・雄英高校に入学し、“個性”で社会や人々を救ける“ヒーロー”になることを目指し、ヒーロー科1年A組のクラスメイトたちと共に成長していく、そんなストーリーである。

4、3C分析

ここから、ヒロアカなぜここまでヒットしたのか成功要因(Key Factor for Success)を見つけたい。分析のため使用するのが3C分析である。

3C分析とはCustomer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)という3つの「C」について分析する方法で、事業計画やマーケティング戦略を決定する際などに用いられる分析だ。マーケティング環境をもれなく確認することができる。

まず、市場・顧客(Customer)について考えたい。昨今、コミックだけでなくアニメの市場規模も拡大している。それらには漫画を手にする読者層が広がっていることや漫画やアニメの文化が国内で受け入れられていることが大きく起因する。

上記のグラフより、アニメや漫画を日本文化として受け入れている人口が多いことがわかる。近年、大学生や大人が当たり前のようにマンガを読み,大学教授や外務大臣までがマンガを読む時代になっている。これは、「マンガ作品の成熟ぶり」の指標(マンガの内容・テーマが多様化・複雑化して大人の鑑賞に堪えうるものが増えた結果)として捉えられるようになってきた。

二つ目は、競合の分析である。他のヒーローがテーマの漫画を探したが、ワンパンマンやアンパンマンなど幼児向けアニメや青年がターゲットになっているものが多く少年向けのヒーローがメインテーマの漫画は少ないように感じる。

ヒロアカは同じテーマの作品が少ないという点で競合との差別化を十分にできており、ヒット最大の要因はここにあるように考えられる。他にも競合との差別化をしたうえでヒットした作品はいくつもある。2020年に大ヒットした鬼滅の刃は大正時代をテーマにした鬼退治物語である。2020年に鬼退治や侍がテーマの漫画は他になくこれも他とうまく差別化を図ってヒットした作品だといえるだろう。

また、黒子のバスケ(以下黒バス)はジャンプの中でも特に差別化をうまく利用した作品である。黒バスとは、2009年から2014年にわたってジャンプに掲載された高校バスケを舞台とした青春漫画である。黒バスの連載開始の2009年当初はジャンプのバスケ漫画といえばスラムダンクであるという風潮があった。スラムダンクとは、1990年に連載が開始され、1996年までジャンプに掲載された高校が舞台のバスケ漫画である。「安西先生、バスケがしたいです」などの数々の名言を残し、2018年には新装版も発売されるなど今なお根強い人気を集めている。

そんな状態のジャンプのバスケ漫画市場に参入を試みたのは黒バスだけではない。1996年には月間少年ジャンプよりI’ll〜アイルというバスケ漫画が連載されていた。だがこの漫画は発行部数300万部と黒バスの3100万部と比べると比較的売り上げが芳しくないと考えられる。では、黒バスの差別化とはどの点であろうか。一番大きな特徴は、スラムダンクに比べて、人間離れした魅せる技が多い点である。スラムダンクはバスケットボールのリアリティを追求した漫画であるのに対して、エンペラーアイやパーフェクトコピーなどそれぞれ必殺技のようなスキルを有しているキャラクターがメインとなってストーリーを盛り上げるのだ。このように明確な差別化の結果、累計発行部数3100万部を突破する大ヒットを記録したのだ。

三つ目は、自社の分析である。まずヒロアカは先述通り集英社の週刊少年ジャンプに掲載されている。そのため、ジャンプが売れれば売れるほどヒロアカと消費者の接点が増えることになる。ジャンプは他の週刊誌に対して圧倒的な発行部数を誇っているため、ヒロアカは高い消費者認知であるといえる。

また、ヒロアカはメディア展開も充実している。2016年にアニメ1期を放送しており、2022年秋ごろには6期の放送も決定している。映画作品も3作公開しており3作目の公開3日間での観客動員数は72万人を超えている。これは同時期に公開された他社少年漫画の七つの大罪の観客動員数10万人弱と比べると消費者に圧倒的人気があることが伺える。また、2019年には舞台化もしている。アニメ放送が始まって人気が出るコンテンツも多いなかで、このメディア展開を誇るのは消費者認知を広く獲得するうえで有効であるだろう。

5、おわりに

昨今の巣ごもり需要上昇に伴い、コミック市場は大きく成長してきた。また、漫画を嗜む年齢層も拡大を続けている。その中で今回分析したヒロアカは、他の少年漫画と比べて、「ヒーロー」をメインテーマに据えるという明確な差別化を図ったことがヒットの要因だと考えられる。また、広いメディア展開を有することにより、消費者認知を獲得し幅広い年齢層から多くの支持を得ている。

参考文献

2021年コミック市場は紙+電子で6759億円、前年比10.3%増で過去最大を更新しシェア4割超に ~ 出版科学研究所調べ

https://hon.jp/news/1.0/0/32771

3大出版社とは?(3大総合出版社とは?)

https://www.digital-dokusho.jp/word/3major-publishers/

TVアニメ僕のヒーローアカデミア

https://heroaca.com/introduction/

3C分析とは?マーケティングでの目的と、顧客・自社・競合の分析方法

https://promote.list-finder.jp/article/marke_all/3c-analysis/

「鬼滅の刃」は全ての年代でランキング上位に!全国50万人に聞いてみた!「アニメに関する調査」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000008679.html

コミック2020年度年間掲載誌ランキング

https://book-rank.net/report/archives/687

心理学におけるマンガに関する研究の概観と展望 家島明彦

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/43999/1/53_166.pdf

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