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記事一覧

年度末

今宵は3月31日。
俗に言う年度末だ。
アリナミンVを冷蔵庫の中から取り出して、ふたをポンと開ける。一気に飲み干してはあまり効果が無いと薬剤師から言われたものの、時間惜しさのあまりにくいっと瓶を急な角度に傾けて、得体の知れない液体を喉の奥に注いでしまう。
朝も早朝からパソコンに向かってエクセルの数字を睨んだり、電話の向こうに「たのむ、たのむよ、おねがいだからさぁ!」とか叫んでるうちに夕暮れを通過し

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スナック恵 2 〜チャーハン編〜

オープンから2年半の月日が経った。起きるのは昼で一緒に暮らし始めた母と朝食兼昼食を食べて、シャワーを浴びてから買い物に出かける。
スーパーで野菜や魚、酒屋でビールやウヰスキーを眺めて歩く。お通しはその日の安売りで決まる。

スナックの経営が最初から分かる人など居ない。店にボトルがあればお客が来るなどとついうっかり簡単に考えがちであるが、営業しながら客の要望を受け入れたり、上手くいってるスナックの

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イヌイタコ

大学受験も終わってから母から電話で知らされたのは実家の飼い犬シロが息を引き取ってしまったことだ。浪人の為に北見から札幌に出てきて一年間の浪人生活。初めて実家から離れた暮らしは僕にとって新鮮なものだった。塾の寮の側にはコンビニがあって24時間お金があれば好きな物を好きな時間に食べる事ができたし、母の小言を聴かずにインスタントラーメンが食べ放題だった。親しい友からも離れて勉強に集中する事が出来たし、ほ

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金銀パールプレゼント

٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

森の中をきこりが材木にする良い木を探して歩いていた。手には鉄の使い込んだ斧。どんな太い幹にもチャレンジし倒してきた斧だ。
今日は良い天気だ。木を切り倒すには良い日和だ…きこりは空を見上げてしまった。
ここは森、木の根につまずき斧はきこりの手から離れ、川に落ちていった。
ああっ…。
強い強い川の流れがきこりの目にうつる。
目から涙が溢れてきた。

それを見かねた川の神。

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沼であいましょう

大晦日は家族で遅くまで紅白を観ていて、翌朝遅くに起きたら家族みんなでお雑煮食べてダラダラお正月のテレビがキャラキャラ言っている横でカードゲームに興じながら1日は終わる。
2日にじいちゃんちへ行く。ばあちゃんと待っていて、お重をみんなでつつきながらテレビを観る。私やねいちゃんの学校の話でぼんやり盛り上がっていると、毎年じいちゃんがみんなの輪を抜けて玄関から外に出て行く。じいちゃんに「どこ行くの?」

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プレゼント

クリスマスに私に負けないくらい大きいテディをサンタさんがベッドの横に置いてくれた。栗毛色の目が黒く世界を写しているテディ。私はテディをもちあげてベッドに座らせて赤いリボンを首につける。やって来てくれたお友達。これで24時間寂しくはなくなる。

ご飯を食べる時も勉強する時も一人きり。テレビはボリュームを上げるとたまに帰ってきたママが怒鳴り散らした。寝る時なんてベッドの中でジッとお布団が温まるの時

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年末

年末

年末がやって来るな。そう思いながら蜜柑を剥いていた。年賀状も書き終わったし、おせちを作るには早い。テレビで天気予報をぼんやりと眺めた。

今年の年末は九州の南の方から上陸し、海水浴場(冬季シーズンは誰も居ない)でお茶を飲んで一休みした後まずルート通りに蜜柑農家に立ち寄る。
のそのそと時速10キロで移動中だ。
年末は南の海で育つ。そちらの海でも資源枯渇のためにあまり魚を食べ続けることが出来ず太る

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クリスマス

町の雑貨屋にクリスマス1ヶ月前くらいから、「セット」が売られ始める。紙袋に入っているものは、ツリー、円錐型のキラキラした紙で出来た帽子、サイコロ、ロウソク(太くて真の色がなぜか緑)。
各家庭一つは買い求め(新調するかしないかは各自の判断に委ねられている)、ツリーを居間に飾ったら、サイコロを取り出す。
サイコロは家族の名前を書いて(重複する名前は各自の判断に委ねられている)、サイコロを振る。

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