クリスマス

町の雑貨屋にクリスマス1ヶ月前くらいから、「セット」が売られ始める。紙袋に入っているものは、ツリー、円錐型のキラキラした紙で出来た帽子、サイコロ、ロウソク(太くて真の色がなぜか緑)。
各家庭一つは買い求め(新調するかしないかは各自の判断に委ねられている)、ツリーを居間に飾ったら、サイコロを取り出す。
サイコロは家族の名前を書いて(重複する名前は各自の判断に委ねられている)、サイコロを振る。
賽の目が上になった人がもちろん「係」となる。係となった者はその日から発声練習、音程の狂いがないか周囲の者に確かめて貰ったり、楽譜を買ったりとやや忙しい年末を送るのである。

セットを(紙袋に入っているから小学校五年生でも運べる)お母さんからのおつかいでホームセンターに買いに行った。家に帰ってツリーを飾り、サイコロにお父さん、お母さん、弟、私の名前を書き込む。その日の夕飯の後にみんながいる前でサイコロを振ったら私が係として決まった。書店に楽譜を買いに行き(もちろん前からの楽譜もあるけど新しくしたかった)、町のピアノ教室のクリスマス時期限定の歌の教室にも週3で通い始めた。
ちょっと暖かい日は公園にそれぞれの家の係になった人がチラホラ集まって発声や歌を練習していた。

テーブルにご馳走が並んだ。お父さんはワインで顔を赤くしている。お母さんはやっと落ち着いて椅子に座った。弟は早く歌ってと訴えてくる。お母さんがロウソクに火をつけると弟がキーの高い笑い声を上げた。
部屋が暗くなる。円錐の紙の帽子はしっかりゴム紐でアゴに固定された。

まっかなおはなのとなかいさーんーはー
いつもみんなのわぁらあいぃものぉー

お姉ちゃんもっと、お姉ちゃんガンバレ!と家族がロウソクの炎の揺らぎでゆらゆら揺れながら叫ぶ。

もーぞーりとーこぞーりーて
うたーぇたーまぇー?

歌詞が微妙に思い出せない。

あめはよふけすぎーに

カラオケでちょっと練習した歌にしてみた。皆手をテーブルを握って力を入れている。

空中でぽんぽんぽんぽぽんと弾ける音がし始めてた。きたぁーっと弟が空中に手を伸ばす。ぽんぽん弾ける音がしてポップコーンが降ってきた。

サイレンなーぃ

ぽんぽんぽんぽぽとポップコーンが降り止まない。お父さんが合いの手を入れ始め、お母さんがカゴを片手にポップコーンの回収に勤しんでいる。弟はそこらに転がっているのを次々と口にする。私はクリスマスソングを丁寧に歌い続けた。

お母さんがもういいわと部屋の電気を点けて、ロウソクをフッと消した。気がつくと部屋一面のポップコーンと濃厚な香りが満ちていた。
からんと窓を開けると遠くからいくつも微かにクリスマスソングが冷たい空気を伝って聞こえてきた。

明日、お母さんと掃除をしっかりして大晦日に備えたいと思います。

どういうシステムなのかは知りませんが歌が80点以上だったらポップコーンが降り出すと言うウワサです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?