『車』
このまま走り続けて海を渡ろうかとか、今この瞬間ハンドルを切ったらどうなるかとか、あの子を隣に乗せてどこか遠くまで連れ去ってしまおうかとか、一人で車を運転するときは限界走行してみてもいいんじゃないかとか、カーオーディオの音量調節するのをふと忘れてインターチェンジを降りた瞬間にその煩さに気づくとか。
ある有名人が「車は移動する自分専用の部屋だから楽しいんです、秘密基地みたいで」と言っていた。
だから、カーセックスをした。この中古の白いワンボックスカーの中で。昨晩。
彼女は僕の中古車のシートが汚れることを心配したとか、ダッシュボードにはコンドームが入っていたとか、彼女の長い足が危うくクランクションを鳴らしそうになったとか、中古車として買ったときから後ろの窓はスモークが貼ってあったとか、彼女が車の中で大声を出した時はどれぐらいの大きさで外に聞こえているのかとか、車の天井は思ったより低いとか、窓を開けると彼女の匂いが外に漏れるので勿体無いとか、ポケットでもボックスでもいいから車にはティッシュを置いておくべきだとか。
彼女が、ヘアピンを忘れていったのは、たぶん、わざとだと思う。
僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。