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南富良野の水を辿ってシーソラプチ川から。

到着の日


高速道路を降りて、南富良野にむかうと急に風が止まったような気がした。音楽のボリュームを落として窓を開けると、気持ちの良い空気が入り込んでくる。
しばらく車を走らせると、静かな川の流れが見えてなんだかワクワク。

今回はラフティング体験を予定している。見たことも聞いたこともあったけど、自分でするのは初!その前にまずは腹ごなしをしなくては、と街なかに向かい、道の駅を通り越して橋を渡ってカフェへ。

ドアを開けた途端、わんこの声。
あまり犬慣れしていない私は一瞬驚いたが、お店の人に「静かにね」と言われすぐに黙る犬が愛おしい。わんこよ、私が食事を終えるまでそこで待っているが良い…と、勝手に主人気分でテーブルに着いた。

窓の向こうには美しい山並み。手前には空知川。キレイですねえと、オーダーと同時についお店の人に話しかけると「私たち夫婦は、この景色が気に入って移住してきたんですよ」と返事。
あああ、確かにそれだけの魅力はある。
いつまでも眺めていられそうだ。

店内の本をパラパラとめくりながら過ごしていたら、ハンバーグが到着。鹿肉を使っているそうで、ジューシーな肉とさわやかなトマト味のソースが美味しい。うはー。なんて居心地いいんだろうねここは。とのんびりコーヒーを飲んでいたらあっという間に時間が経過する。
あ、ラフティングに向かわなくては!と思い出して立ち上がった。

集合場所に到着すると、ガイドの方がご案内。ラフティングは数名が一緒に乗った方が安定するのだが、本日は2名で参加。ドキドキするなぁもう。着替えを済ませてから川へ移動。パドルの使い方や安全についてのお話を聞いたあと、ボート乗り込む。
自然の中でのアクティビティだけに、楽しいだけでなく怪我につながることもそりゃあるよなぁと、きちんといい子で話を聞いた。

源流に近いシーソラプチ川は、2日前の雨で透明度はイマイチかな…とガイドさんが言ったが、え?これで?と思うほど十分透き通っていた。河岸工事がほほ行われていないだけに、ボートに乗らないと見られない景色が周りを取り囲む。
「木があるので、ぶつからないよう頭下げてくださいねー」と言われ、その通りにする。

目の前に陸地からだらりと今にも倒れそうな樹木が、美しいアーチを描いている。
確かに当たると痛いだろうが、柔らかな曲線を描くそれは、まるで森にかかる虹のようだ。
贅沢な空間、そして時間。

幸せにひたっていると、「ハイ!あの難所を下りますよ!ハイ!漕いで!」と叱咤され、必死でパドルを動かす。ボートがざぶんと揺れて顔に…水が…ええい!ヘルメットかぶってるのに何故髪が濡れるのか?!今朝のメイク時間をわたしに返してくれ。

その緩急こそが、この空知川という大自然ゆえの面白さ。
静かな流れでぷかぷか浮いて遊べる場所もあれば、国体の舞台になったこともあるという激しく白いしぶきがあがる場所もある。最後には岩からジャンプして入水。楽しそうだが、ごめん。わたしは遠慮した。ちょっとそれは怖い。無理強いはしないのがありがたい。

南富良野の夜時間

心地良い疲労感と共に、ガイドさんにお礼を言って帰途。
今宵のホテルにチェックインだ。まだ新しいだけあって、とても綺麗。変に広すぎないロビーも心地よい。セルフのコーヒーもあるなぁと覗いていると、インスタントの味噌汁も。
なるほど、このホテルには食事がつかないからきっと朝食用なんだろうなと想像する。しかし、おそらく自分は今夜これを飲むだろう。なぜなら、これから酒を飲みに行くからだ。酒のあとにはこれを飲んでシメたい。

まずは部屋に入って荷物を置いた。
カーテンを開けると、再びの山並み!ああ、ゆるく夕景に向かう空が美しい。部屋にいるにもかかわらず、深呼吸するほどの錯覚。いや、私が阿呆なのか。
しばらく休憩してから、夜ご飯に向かうことにした。
道の駅にもいくつか店はあるが、今日は幾寅駅の近くに行ってみたところがあったのでテクテク歩く。地元の知人と待ち合わせだったので、到着するとすでに席を取っておいてくれていた。ありがたい。

久しぶりの再会にビールで乾杯する。あああ、待っていたよこの味を!すでにひと口目でジョッキの半分近くがなくなる。うはー。運動後の酒のうまいことよ。へいへい。
一気にテンションが上がったところで、料理をつまむ。南富良野の美味しいトマトが串焼きになっている。ジュワッと滲み出るのがたまらない。ハフハフしながら楽しむ。南富良野の高原野菜のレベルの高さに感動しながら、今日のラフティングは面白かったよう!と話に花を咲かせた。

お腹いっぱいになったら、2軒目へ。地元の人が連れて行ってくれないと出合えない店というのは、貴重だ。なんと元銀行という建物。そりや、金庫を個室にするよね。ググッと開けて中を見せてもらった。秘密基地感は半端ない。
この中で悪い話とかいっぱい出来そうだな、へっへっへ…などと大人の妄想をしながらカウンターに戻る。気の利いたおつまみを持ってきてくれたママとビール、そして友と会話が弾む。まぁ、話の半分は明日もう覚えて無さそうだが、とお互いに笑いながら店を出る。

外を歩きながら、つい夜空を眺めた。ここの星はめちゃくちゃきれいよね、と言うと、幼少期からここで暮らしてきたという彼はさらっと
「いやー、小さい頃はこのすごすぎる星空が怖かったんだよ」え?どういうこと?つまりは
「星々が多すぎて本当に降ってくるのでないか」
と子ども心に思ったそうだ。

圧倒的な自然の美しさは、時折驚異にもなる。それほどの感動に満ち溢れた町は、大人になってからまた価値を増す。
あ、ロビーで味噌汁飲もう。

2日目の朝は

翌朝、目覚めてすぐ顔を洗った。
ベッドから出てものの2秒。この部屋のコンパクトさゆえの使い勝手レベルは最高だ。身支度を整え、荷物をまとめてチェックアウトする。
そんな最中に仕事の連絡がきたので、再びロビーに戻ってパソコンを立ち上げた。
電源があるのがありがたい。コーヒー飲みながら、と思ったが朝の味噌汁を再び作る。うはぁ。効くわ〜。朝の味噌汁。日本人なり。

まずは道の駅に向かって、ご飯を調達。美味しそうなパンをテイクアウトして、そのまま観光案内所の自転車を借りることにした。せっかくなので景色の良いところまで行こう!
自転車が苦手な私でも、南富良野の町は気持ちよくサイクリングを楽しませてくれる。
かなやま湖に向かうと一段と静かになった。タイヤが踏む緑の苔の音、自分の息づかい、湖を抜けてゆく風の音。誰もいないこの空間が気持ち良い。

そろそろ疲れた、と思ったところでテーブルとベンチのある広場が。ちょうど良いので休憩だ!ウキウキして先ほど買ったパンを開けると、ふわりサーモンとチーズの香りがした。
お供にはトマトジュース。ミニトマトを使用しているため色は薄いが、味はしっかりしていた。静かで贅沢な朝ごはん。宿泊先で食べる朝食もいいけど、好きなものを買って自然を満喫しながら楽しむのもまたオツなもの。

この先にはラベンダーが咲いているらしい、とわかってはいたがそこまで自転車で行くと、元々体力ゼロの自分は帰れない気がした。大人しく来た道を戻ることにする。2輪から4輪へ乗り換えだ。
自転車を返却し、クルマで再びラベンダー園へ向かう。

かなやま湖を左手に見ながらぼんやり走っていると、急に人が多くなった。あ、ラベンダーだ!駐車場に滑り込み、待ってましたとばかりに外へ飛び出す。バズーカ砲みたいなカメラを構えたおじさんもいれば、きゃぁきゃあと写真を取り合う仲間たち、そしてウエディングの撮影部隊もいた。わお!勝手に一人で興奮。

一面、ラベンダー。
薄紫の花々が広がり、緑の山々、それが映り込んだ湖面が揺れている。空には薄く雲がたなびき、ああ、私はこの景色を写真だろうが文章だろうが、絵画だろうが、きっと完璧には表現できないだろうなという気がした。
似たような景色にはなるだろうが、この柔らかな空気感は、南富良野独特のものだ。ここに住む人たちの優しさにそっと似ている。

ぐるりとかなやま湖を回ることにした。
西へ向かうと、ダムがある。昨日ラフティングした空知川から続いているというダム湖を改めて見てみたかった。展望台に向かうと、急に道が狭くなってびびる。え、大丈夫?ここ!と恐るおそる進むと、急に視界が開けた。あああ、気持ちがいい。

かなやま湖の真髄

ダムだ!静かな水を湛えた湖面が、昨日のアクティブな川面とはまったく違う表情を見せてくれている。水って、面白いよなぁと手すりに近づくと、向こうにダム管理事務所が見えた。どうやら見学できるようなので、そちらにも行ってみることに。

クルマで細い道を入っていくと、見えた建物に入ると大きなガラス窓から、かなやま湖(というかここはすでにダムか)が見え、ダムの説明などのパネルが並んでいた。ふと下を見るとかなやま湖に生息しているという、イトウの姿をしたクッションがあった。
かーわいい!と思って触ると、びくともしない。説明を見ると「イトウと同じ重さです」と書いてある。え?何だと?イトウってこんなに大きいの?まるで抱き枕ではないか!
持ち上げようとしても、動かない。わたしのような、んもう、か弱くてビールの大ジョッキよりも重いものをも持ったことがない人間には、無理だった。日本最大級の淡水魚、恐るべし。イトウの本髄を見た気がして、感服。

かなやまダムは、日本でも珍しい中空重力式コンクリートダム。
全国でも13箇所しかなく、コンクリートが高級だった時代に、少しでも材料が少なくてすむよう、中空を設けて作ったそうだ。しかし!ここ聞いてくれ!この造りの場合、人的労力がいるために、現代では二度と作らないだろうと言われているらしい。どれだけかなやまダムが貴重かおわかりだろうか。わたしは知らなかったけどね、えへ。

ちょっと見学しただけで、これだけ偉そうに説明ができるので、ぜひ立ち寄ってみて欲しい。ダムカードも入口に「はいどうぞ」と置いてあるのも、マニアにはたまらない(1人1枚は厳守ね)。

大満足してクルマに戻る。
先ほど入って来た道を改めて覗くと、右側がダム湖、左側が空知川。その差が何だか面白い。コンクリートの道で遮られた異世界だ。再び、川沿いに道を走らせ金山エリアに向かうことにした。マップを見ながら脇道へ。

最後のお土産たち

こんなところに何があるのさ?と思うような道を、半信半疑で進むと、突然古いバスがどかん!と置いてある広場に着いた。えええ、ここ?と不安に思うより先に、テントの下からおばあちゃんが出てきて「はいはい」と笑顔。さくらんぼ園だ。

本当はさくらんぼ狩りをしたかったが、あまり時間がないため購入だけにしておいた。「あらま、今度は狩りにおいでよう」とおばあちゃん。好きなパックを選んでいいよ、と言うのであまり気にせず、じゃあこれと指さすと「あーた、こっちの方がたくさん入ってるから!」

と違うものを袋に入れてくれた。じゃあ、選ばせなくともよいではないか!と皆が笑顔になる。

帰ろうとすると、バスに乗ってみなよと言われ、張り切って帽子も借りた。記念写真を撮ってもらい出発する。なんだこの癒しのさくらんぼ園は。
 
そこから更に、山道を行く。
先ほどの「半信半疑」が「50信50疑」なら「10信90疑」くらいの道になってゆく。何もない!道と、畑と、空しかない!と思ったところに突如その建物は現れた。町営の果樹園と、小さなテイクアウト専門のカフェだ。

看板を見ると「KUMADEL Café」と書いてある。クマデル、くまでる…熊出る?いやあ。確かに出るだろうなここは、とちょいビビりながら、アップルパイを買った。

サクサクしたそれを見ると、すぐ食べたくなったがここは我慢する。
「昨日、鹿が出たんですよう。格好良かった!」と話すオーナー夫妻。じゃあクマデルではなくシカデルにしてもらった方が、若干恐怖心は減るのだが。
果樹園の方も、ブルーベリーやハスカップ、秋にはブドウも栽培していて摘み取りできるらしい。いいなぁ、この環境で果実を摘むって、幸せ感満載だろうな。今日はさくらんぼもブルーベリーもそのタイミングを逃してしまったけど、来期はチャレンジ!と再び大自然の中クルマを走らせた。

メイン道路に戻り、昨年廃線になった線路沿いを走る。何だか感慨深い。せっかく線路があるなら、サイズピッタリの手動トロッコを作って、よっしゃーーー!!と走り抜けてみたい。怒られるのかな…などと妄想。
このまま帰途の予定だったが、道沿いに野菜の直売所があることを思い出し、そちらにも立ち寄った。

店内に入ると、そりゃあもう新鮮な野菜たちが目に飛び込んでくる。立派なズッキーニ、きゅうりにミニトマト!昨日の居酒屋のメニューを思い出し、つい手に取る。

アイスクリームが入ったショーケースもある。夏になると、近所の子どもたちがきっと買いに来るのだろう。コンビニのない金山エリアだからこそ、近所のお店でアイスやジュースを買うという素敵な文化がここにはある。

つい興奮してカゴにいくつも野菜を入れたが、会計は1000円もしない。あああ、安すぎる。南富良野の野菜たちのクオリティに感動。
クルマの後部座席には、購入した南富良野の宝物たちがいっぱいだ。予想以上の同乗者に大満足しながら、1人ハンドルを握りしめた。

終わり


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