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私にとっての宗教 4

増長満に陥る

増長慢[未熟で未達であるにも関わらず、佛法に於いて得たものがあると誇ること。
「増上慢」と書くのが一般的]増長慢とは、仏教用語であり、己が悟ったと錯覚し、まさに増長して鼻高々に陥ることである。
そのことを持って天狗の鼻は高くなり、「天狗になるな」とか「天狗の鼻を折る」などという言葉も出て来たようです。

宗教的体験を得たことから、私は「自分は悟った」との思い違いをします。まさに増長満です。
大石先生の法話の会においても、自身の体験で他人の話を遮ります。
何年も法話の会に通っている方々の話を、聞きかじりの浅い知識で何もわかってないのにあれやこれやと批評するようになりました。
大石先生は何も言われませんでしたが、ご同行には疎まれるようになりました。
特に、元受刑者であった方からは「刑務官は」という定冠詞をつけて批判されましたが、そのとおりに感じられるような態度であったのだと思います。
そのような私であっても大石先生に見守っていただいたのです。
大石先生が体調を崩されて入院し、私も転勤したことから法話の会に行くことがなくなりました。
しかし、その後も、大石先生がお亡くなりになるまでお手紙をいただいていました。

情報漏洩事件で処分を受ける

転勤先の刑務所でUSBメモリーの盗難事件がありました。
概ね1ヶ月ほどの捜査の末、内部職員の犯行であることが発覚します。
幸い、情報漏洩はなかったのですが、USBメモリーの盗難だけでなく、本人がパソコンを盗難したという供述が出てきました。
私は当時、物品の管理に関わる課長でしたが、パソコンがなくなっていたことに気がつき、部下職員のミスでなくなったのだと思い込んでいました。まさか盗難されたとは思ってもいません。
そこで、上級官庁の監査の際、部下職員を守ろうとして、物品のやりくりをしてパソコンがなくなったのを隠蔽していたのです。
ところが、USBメモリーを盗難した犯人がパソコンまで盗難していたことが発覚します。
そうなると、盗難されていたことを隠蔽していたとして、私も処分の対象になったのです。
犯人は懲戒免職となり、私も戒告処分となりました。
そして、私は降格となり、長期受刑者の収容されている刑務所の閑職に左遷されます。

長期受刑者の刑務所で

配置されたのは分類部門という部署で、受刑者の犯罪にいたる記録や心理的テスト、面接を行って刑務所での取り扱いを決めたり、保護観察所と連携して、社会復帰のための調整を行う部署の担当でした。
そこには、刑期が8年以上無期の受刑者約1,000人が収容されていました。
今でもそうですが、長期受刑者の仮釈放の数は非常に少ないのが現状です。特に無期懲役の入所者ほほとんどは獄中で死亡します。全国で、仮釈放にたどり着くのは数名です。
そんな理由もあって、私の仕事は暇を極めていました。
そういった職場状況で、私のやったことは、仕事にかこつけて受刑者の記録をかたっぱしから読み込むことでした。
一般の刑務所と違い、窃盗や覚醒剤事犯は少なく、放火、連続強姦、殺人などの犯罪者ばかりです。
生い立ちや事件の内容、裁判記録や心理分析の結果、入所後の行動記録などが全て私の部署にありました。
全受刑者を知るのが仕事だと言い訳して、私は記録を読み漁りました。

悲しみの箱の中で

刑務所には、26歳未満を収容する少年刑務所、初めて刑務所に入る者のための初犯刑務所、犯罪傾向の進んだ受刑者が入る累犯刑務所があります。
それとは別に、長期受刑者だけを収容する刑務所(初犯と累犯は別です)があります。
刑務所の雰囲気と言っても分かってもらえないと思いますが、普通の刑務所と長期受刑者が収容されている刑務所は明らかに空気感が違います。
どうしようもない閉塞感が支配している空間です。
それは、少なくとも30年以上経過しないと出所できない無期受刑者が大半んであることと無関係ではありません。
そして、彼らのほとんどが誰かの命を奪い、自らもここで死ぬことを半ば受け入れて生活していることも理由です。
私は、そこを「悲しみの箱」と勝手に名付けました。
被害者とその家族が不幸であるのは当然ですが、加害者もその家族にも事情があります。
まるでその二つは呼応するように呼び合い、絡み合い、最後には定められたように最悪の結末へと続いて行きます。
何がどうであったらこの悲劇は回避されたのか。どこかに救いはなかったのか。考えながら記録を読み進めますが、失われた命の重みと受けた罰の前では、そのようなことを考えることは許されないような気がしました。
報道番組や新聞記事であるような、批評や感想などを拒絶する現実がそこにはあります。
そして、その本人はすぐそこにいるのです。
被害者も加害者も関係する人たちの全ての悲しみが、外界と隔絶したこの箱に中で止まった時間のまま閉じ込められています。
そこで、私は忽然と思い至ったのです。

彼らは私のために罪を負ってくれたのだと。
全ては私、ただ一人のためであったと。

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