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長編小説『くちびるリビドー』第4話/1.もしも求めることなく与えられたなら(4)

「私がウニみたいなギザギザの丸だとしたら、恒士朗は完璧な丸。すべすべで滑らかで、ゴムボールのように柔らかくて軽いの。どんな地面の上でもポンポン弾んで生きていけるし、水の上ではプカプカ浮くことだってできる。それに比べて私は、ところどころ穴だらけで、形も微妙に歪んでて、ギザギザの棘だって見かけだけで実際は簡単にポキっと折れちゃうし。そのくせ『きれいな水の中でしか生きられな~い!』とか言っちゃって、とことん自分が嫌になる」//この“満たされなさ”はどこから来て、どこへ向かっていくのだろう……。あの頃、私の頭の中は「セックス」と「母乳」でいっぱいだった。

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くちびるリビドー


湖臣かなた




〜 目  次 〜

1 もしも求めることなく与えられたなら
(1)→(6)

2 トンネルの先が白く光って見えるのは
(1)→(6)

3 まだ見ぬ景色の匂いを運ぶ風
(1)→(8)


1

もしも
求めることなく
与えられたなら


(4)


 私はカウンター席に座り、心の兄との再会に祝杯をあげた。
「で、どうしたっていうのよ?」と、いつだって単刀直入な寧旺が先に口をひらく。「ワタシに会いに来るなんて、あの頃のトラとかウマなんかが暴走でもしはじめちゃったのかしら?」
「ううん、たぶんそれは大丈夫。寧旺がいてくれたからね」と答え、私は思い出す。
 東京を離れる前。私たちは黒い服に身を包み、お屋敷みたいな寧旺の家の広い庭の片隅で「星野ゆりあ」のお葬式をあげた。「実は勝手に持ってきちゃったんだよね」と言いながら寧旺が得意気な顔で差し出した紙袋の中には、あの日切り落とされた私の髪の毛が入っていて、「本当はあのセーラー服も燃やしたいところだけど」「燃やす服があっただけマシでしょ」などと言い合いながら、私たちはブリキのバケツに火を投じた。髪の毛は一瞬ドキっとさせる焦げ臭さを放ったあと、この世の終わりみたいに消えていった。

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“はじめまして”のnoteに綴っていたのは「消えない灯火と初夏の風が、私の持ち味、使える魔法のはずだから」という言葉だった。なんだ……私、ちゃんとわかっていたんじゃないか。ここからは完成した『本』を手に、約束の仲間たちに出会いに行きます♪ この地球で、素敵なこと。そして《循環》☆